童話「スーパーヒーローレボリューション」/#012
エル・ドットのテロ攻撃
12
カヴが戻ってくると僕たちは地下の広間に集められました。
そこには未来で目覚めた少年少女に混じってソラもトムもチッチもいました。
巨大なモニターにはオリンピックの中継が放映されていました。
カヴが少年に指示をすると、少年はキーボードを操作し、画面が16分割され、真上から見た街並みが16箇所映し出されました。
インターネット上で公開されている人工衛星からの画像です。
最早世界中、どんなところでも移動せずに、部屋に居ながらにして見ることができるようになっていました。
集まった少年少女たちは何も言わずにカヴの言動に注目をしていました。
カヴは真剣な眼差しで画面を見つめていました。
「この映像はご覧の通りN市で開催されているオリンピックの競技場の映像だ。これからもっとも人が集まる競技は何が残っているかな?」
そう言うと、日焼けして色の黒い健康そうな少女が言いました。
「マラソン、じゃない?」
「マラソンか。そうだマラソンだ!」
カヴがそう言うと、16分割された映像の一つがクローズアップされ画面全体にマラソンのゴール地点である場所に応援に集まった何万人という人たちの姿が映し出されました。
しばらくみんなで画面を眺めていましたが、やがてカヴがキーボードを操作する少年に言いました。
「マイク、セキュリティガードをチェックしてくれ。」
すると、画面上の人混みの中に赤い細い線で四角く囲まれた場所がいくつか現れました。その数をカヴは指差しながら数える仕草をしました。
「なるほど。ではこれからが問題だ。テロを行おうとしているのが表向き誰なのかということだ。」
そう言いながらカヴは丁寧に画面をチェックしていきました。
「カヴ、これは?」
とリーが言いました。
マイクと呼ばれた少年はリーの言葉に反応して、リーの示した場所を画面上にアップにして映しました。そこには、タンクトップで露出された肩に、装飾された「L.」のマークが刺青として彫られた体格の良い男性が映っていました。
「カヴ、このマークは?」
もう一度、リーが言葉を発しました。
「うん、これはエル・ドットのマークだ。わかった、今回のテロの実行部隊はエル・ドットのメンバーだ。」
そこにいた一同全員が固唾を呑んで、モニターに注目していました。
「マイク、入手しているエル・ドットのメンバーのデータを基にして、画面認証で該当する人物をスキャニングしてくれないか。」
そう、カヴが言うと、マイクは指示された側から、忙しくキーボードを操作しました。
画面上の何人かの顔が赤い丸い線で囲まれました。再びカヴはその数を指差しながら数えました。
「カヴ、思ったより人数がいますね。これは大掛かりなテロだ。爆弾テロかな。政府は本気ですね。」
リーが言いました。
「エル・ドットを使ってテロを影で操っているのは政府だし、セキュリティーガードをコントロールしているのも政府だ。セキュリティーガードのAIたちはテロの抑制を、悪意を持ってストップすることはないとは思うが、おそらくうまく機能しないように政府の中央のAIがコントロールしているはずだ。ならばテロによってオリンピック史上最悪の数の死傷者が出ることも予想される。・・・みんなはそんなシーンを見たいかい?」
カヴはモニターの周囲に集まっている少年たちの顔を眺め回しました。
少年たちはざわざわと騒ぎ出しました。
「うちはそんなの見たくない。」
10歳くらいに見える少女がそう言いました。
「僕は血を見ることが嫌だ。」
少女より少し大人に見える少年がそう言いました。
「オーケー、それじゃあ徹底的に阻止しよう。マイク、準備は良いかい。」
マイクは頷きました。
「じゃあ、まずエル・ドットのテロの攻撃をシミュレーションして可視化しよう。画面上に表現してくれ。」
そう言われて、マイクはキーボードを休みなく叩きました。キーボードとモニターの間で視線を行ったり来たりさせて、そして時には考えるような仕草をして、そして最後にエンターキーをパチンと叩きました。
すると画面上に半透明の巨大生物の映像が映し出されました。
「昔の映画で見たことあるね。」
とソラが言いました。
「うん、ゴジラみたいだね。」
と僕が言いました。
「マイク、次はセキュリティガードの防御を可視化してくれないか。」
マイクが再びキーボードを高速で操作し、先ほどと同じように最後にパチンとエンターキーを叩きました。
すると今度は先ほどの怪獣と同じくらいの大きさの、そしてやはり半透明の戦闘型巨大ロボットが姿を現しました。
「カッコイイ!」
「オレたちスーパーヒーローの時代の子どもだもんね。」
モニターに注目している少年、少女たちから思わず感嘆の声が漏れました。
「オーケー!用意はできたな。それじゃあいよいよ勝負だ。」
そう言うとカヴは集まっている少年少女たちを見回しました。そしてある点で視点を止めて、そこにいる少女に呼びかけました。
「ミュシャ、今回もお願いできるかな。」
「もちろん、いいわよ。」
とミュシャと呼ばれた少女は答えました。
#012を最後までお読みいただきありがとうございます。
#013は4/12(水)に配信します。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。
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