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童話「スーパーヒーローレボリューション」/#008

ジャン、カヴと出会う


 僕たちが家の近くまで戻ってくると、長屋の入り口のところで若い20代くらいの男の人に声を掛けられました。
 「ジャンくんだよね。」
 「はい、そうです。」
 「聞いていると思うけれど、私は政府の管理局の人間です。ジャンくんを迎えに来たのです。一緒に来てもらえますか。」

 そう言うと半ば強引に僕を乗って来ていた車の中に押しやりました。
 僕はソラやトムやチッチにちゃんとお別れをしたかったし、お世話になったソラの家族にもお礼が言いたかったのですが、そんな余裕を与えてはもらえませんでした。
 
 車は静かに発進しました。しばらくは僕たちが遊んで来た公園の方に向かって進んでいましたが、途中、公園とは別の方角に曲がりました。スラム街はどこまでも続いていましたが、やがて道路は坂を登るように角度がついていき、建物の立ち並ぶ間隔が広くなっていって、向かう先には山が見えていました。
 
 山の麓の庭のある一軒家の門が開いて、僕らの乗った車は門の中に吸い込まれていきました。門を入ると庭先から車の通る道は地下へと続いていて、地下のガレージで車が止まりました。
 
 とても政府の管理局の建物には見えないので僕は不思議に思いました。
 
 一方その頃、ソラたちはそれぞれの家に戻っていました。ソラの家の玄関には人型のロボットが立っていました。
 ロボットは胸のところにあるモニターに政府管理局と書かれた文字と登録コードの表示を指差して、
 「政府管理局カラヤッテ来マシタ。」
と言いました。
 驚いているお母さんの尋常ではない様子を感じ取ったソラも玄関にやって来て、そしてそのロボットを見ると何事が起こっているのかわけがわからなくなって、ただただソラのお母さんと顔を見合わせるばかりだったのでした。

 僕は車から降りるとガレージの扉から建物の中に入りました。通路を少し行くとエレベーターがあって、僕と20代の男の人はエレベーターに乗りました。
 
 男の人が「3階まで行ってくれ。」と言うと、
 かしこまりました、とエレベーターが答えました。
 
 エレベーターが3階に到着してドアが開くとそこは広間になっていました。
 広間にはソファやテーブルがいくつか置いてあって、10代から20代にかけての少年少女たちがテーブルを囲んで集まっているのでした。
 
 エレベーターから降りて、男の人の後から僕がついて歩いて行くと、彼らの視線は僕に向けられました。 
 男の人は僕の方を振り向きもしないでどんどんと部屋の奥まで進み、広間の奥の扉から小さな部屋へと入っていきました。
 部屋の中にはコンピュータが1台あって、一人の少年がコンピュータに何か入力していました。少年の側には一人の男性が立っていて、少年の入力作業をじっと見つめていました。
 
 男性は50歳くらいで、子どもや若い人ばかりがいる中で、少し年配なのはその男性だけでした。
 
 僕たちが部屋に入っていったことに気がつくと顔を上げて僕たちの方を見ると、
 
 「どうやら無事に保護できたようだな。リー、ご苦労様。」
と声をかけました。
 
 リーと呼ばれた男の人は年配の男性に向かって、
 「ありがとう。多分、ギリギリのタイミングだったと思うよ。そっちはどうかな?うまくいきそうかい?」
と言いました。
 
 若いリーが年上の男の人に向かって対等の言葉で話しているのはちょっと違和感を感じました。
 少し年配の男性は僕が側にいることに気がつくと僕に向かって微笑みかけました。
 「気がついているかも知れないけれど、騙したようですまなかったが、ここは政府の管理局なんかじゃないんだ。」
 
 僕はおかしいとは思っていましたが、あらためてそう宣言されるとやっぱり驚いたのでした。
 
 「私の名前はカヴ。成長の度合いの年齢ではここでは年長者だが、生まれた順で数えるとおそらく逆に一番の年少者だと思う。」
 それでリーと呼ばれている青年は敬語を使わないのか、と思いました。
 「ここにいるリーや他の少年少女たちは、君と同じで生命維持装置によって過去からやってきたんだ。リーなどはおそらくはジャン、君と同年代だよ。しかし装置から目覚め、肉体の成長を再開するのが早かったために君よりも実質10歳程度年上の状況となっている。」
 
 「カヴさんは生命維持装置には入らなかったんですか?」
と僕は聞きました。
 「私は戦中の生まれなんだ。生命維持装置に入るには若すぎた。入るべきタイミングの際に赤ん坊だったんだよ。赤ん坊が装置に入るのはリスクが高すぎる。私は装置に入らないまま、なんとか戦中を生き抜き、そして今こうしてこの場にいるんだ。」
 なんだか頭がこんがらがりそうな話でした。
 生年月日を考えると僕とリーはだいたい同じくらいの歳で、カヴは僕たちよりも10歳くらい年下なのです。でも見た目の年齢としては僕が10歳でリーが20歳くらい、そしてカヴは50歳くらいでした。
 
 「過去からやってきた人間はここでは僕が一番最初さ。12年前に目覚めたんだ。それから僕とカヴは装置を探して、あるいは政府の情報を横取りして僕と同じように過去から目覚めた人間をここに集めているんだ。ジャン、君は15人目だよ。」
 
 僕はよく意味が理解できずに頭がくらくらしました。
 
 「目覚めて間もない君が、どのくらい今の時代について認識できたのかはわからないけれど、この時代がコンピュータに管理されていることは理解していると思う。コンピュータは正確な情報を元にルール通りに管理するから、まさに不正のない理想の世界ではある。そして同時に融通が効かない容赦のない世界でもある。過去も今も将来もすべて計算通り、すべてコンピュータのはじき出した計算によって管理されているのが今の世の中さ。」
 リーがそこまで話すと、ドアがノックされ、少年たちが数名部屋に入ってきました。


#008を最後までお読みいただきありがとうございます。
#009は3/15(水)に配信します。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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