ナッジとは消費者をコントロールするマーケティングテクニックではない|5冊目『実践 行動経済学』
リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン 著 遠藤真美 訳 (2009, 日経BP社)
行動経済学のマーケティング活用!?
「現状維持バイアス」とか「損失回避性」とか「ハロー効果」とか「バンドワゴン効果」とか、行動経済学の理論ってインパクトが強くて、とても印象に残ります。
インパクトが強いせいなのか、説明の仕方のせいなのかは分かりませんが、行動経済学の理論で売り上げをUPさせよう! マーケティングに活用しよう! という方向に行きがちです。
自分はファンドレイジング(寄付促進)の勉強をしていますが、ファンドレイジングの学習の中でも、行動経済学を活用して寄付を促進しましょう、という文脈などが見られます。
行動経済学の理論についてはじめて触れるなら『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』がオススメです。
ナッジとは注意や合図のために「背中を押す」とか「肘でつつく」などしてより良い選択に気づかせることであり、望ましい行動を取らせることです。
「行動を誘導すること」と勘違いしてしまいがちですが、人間の行動特性を利用して都合よく選択などをコントロールすることではありません。
これは私が2018年に書いたマインドマップですが、今あらためて見ると、ナッジを勘違いしていることがわかります。
つまり、「思い込み」と「思考停止」
人間の行動特性を一般化した行動経済学の理論ですが、大きく分けると「思い込み」と「思考停止」の2つだなと私は思いました。
「経験則」や「アンカリング」、「代表性」、「フレーミング」などは思い込みであって、「現状維持バイアス」や「同調性」それからデフォルトを信頼するというか、必要以上に尊重するという「デフォルト至上主義」(←これは行動経済学ではなく私のオリジナル)などは思考停止あるいは思考の単純化と言えます。
スター・トレックのミスター・スポックのような理性的で計算によって意思決定をする人を「エコノ」と呼び、行動は熟慮システムによるものとしています。
一方で、ホーマー・シンプソンに代表される本能的で直感的な人を「ヒューマン」と呼び、その行動は自動システムによって決定されます。
つまり、あまり深く考えないで行動するのが「ヒューマン」であり、その行動に影響を与えるのが思い込みと思考停止(思考の単純化)であるとすれば、2つは同じものとして考えても良いかも知れません。
結局は考えることが面倒だ、ということです。
ちゃんと考えた方がより良い選択ができるとわかっていても、いかんせん、思考停止の方が楽です。
「前例主義」、「前年踏襲」、「現状維持」は余計なことを考えなくて済みますし、世の中のことを全面的に信用して、デフォルトから変更しない、むしろデフォルトを尊重して、デフォルトをあえて選択する方がリスクは低いのではないかと考えがちです。
「経験則」や「アンカリング」「代表性」は思考停止よりはもう少し、心情的に関わっているかも知れませんが、その理屈や根拠を検証、確認しないで意思決定をしてしまうということですから、やはり思考停止と似たようなものです。
ナッジとは消費者をコントロールするマーケティングテクニックではない
「ナッジ」が目指すのは、「エコノ」が熟慮システムによって、理性的により良い選択をすることを「ヒューマン」の直感的な自動システムにさせようということです。
行動経済学の理論をテクニカルなものとしてマーケティングに活用することはできるのかも知れませんが、企業が利益を上げることで消費者が損をしても良いということではないことを認識しておかないといけないと思います。
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