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童話「スーパーヒーローレボリューション」/#005

ジャン、これからのことを考える


5

 ソラのお母さんのフライドチキンは本当に美味しくて、僕はたくさん食べました。野菜の入ったスープもお代わりをして食べました。身体中に力が行き渡り、すごく元気になりました。

 「ジャン、行くところが決まるまでずっとうちにいていいよ。」
とソラが言いました。

 「うちは貧しくて小さい家だけど、なんとか寝るスペースはあるし、畑もあるから少しは食べ物もあるからな。それにお母さんは料理が上手だから。」
とお父さんが言いました。

 「どこか行く宛はあるの?」
とお母さんがやさしく僕に聞きました。

 「ジャンくんもこれからはこの時代で生きていかなくてはならないんだから、個人番号を持たなきゃいけないよな。お母さん、こういう場合、どこに連絡したら良いんだったかな。」
とお父さんが言いました。

 個人番号を持つことに対して、どうしてなのかはわからないけれど少し嫌な気がしました。それに番号を持っていないと何もできない、市民としての権利を持たないということに対しても違和感を抱きました。でもそれがルールなのであれば従うしかないのかなとも思いました。

 「多分、政府の管理局だと思うんだけど、こちらから連絡なんかしなくても、きっとすぐにあっちから連絡があるわよ。」
とお母さんは言いました。

 「個人番号を取得しても子ども一人で生活してはいけないよね。」
とソラが言いました。

 「そう言えばジャンは今何歳なの?というか何歳の時に装置に入ったの?」
とソラが僕に質問しました。

 「僕は10歳だったんだ。50年間眠っていたわけだから年齢としては60歳だね。うひゃー、お年寄りだね。」
と言って僕が笑うと、
 「今の時代、60歳はお年寄りではないさ。」
とソラのお父さんが言いました。

 僕が不思議そうな顔をしてソラのお父さんの顔を見つめているとお父さんは続けてこう言いました。
 
 「この2080年の時代では人間は120歳まで生きるんだ。だから60歳は人生の真ん中。さすがに若者とは言わないけれど、決してお年寄りなんかじゃないんだ。」
 
 「あ、でもそんな話をしていたわけじゃないのよね。」
とソラのお母さんが気がついたように言いました。
 「オレは13歳さ。だからソラの身体年齢よりはオレの方がちょっとお兄さんだね。」
とソラが言いました。

 「でも、そうだな、10歳だとしたら一人で生活させるわけにはいかないから、宛もないのなら、きっと児童保護施設に引き取られることになるんだろうな。」
と言ってソラのお父さんは少し悲しそうな顔をしました。

 「うちで面倒を見てもいいんだけど、私たちも精一杯の生活で、それに施設の方が待遇は良いかも知れないし…ごめんなさいね。」
とソラのお母さんは申し訳なさそうに言いました。

 僕は少し悲しくなって、現実は厳しいんだなって思いました。

 そして僕のお父さんとお母さんはもうこの世にはいないのかな?と思いました。

 「施設に引き取られたら自由にはできないのかな?お父さんとお母さんがどうなったのか調べたいんだけど、そんなことできるのかな。」
と思ったことを素直に言葉にしました。

 「施設のことは私たちも詳しくはないから、なんとも答えられないけれど、残念ながら理不尽なことは多い時代ではあるな。」
とソラのお父さんがあまり楽しそうではない顔でそう言いました。
 僕は自動運転の車の中で不機嫌になったソラを思い出しました。

 「そうだな。政府から連絡が来る前にジャンくんのお父さんたちのことをみんなで調べてみよう。」
とソラのお父さんが優しい口調に戻って言いました。

 「そうね。もうそのことは後で考えることにして、お茶でも飲みましょう。」
とソラのお母さんはそういうと椅子から立ち上がってキッチンの方に行きました。
 
 50年振りに人としての活動を僕の身体の細胞が再開した長い一日が終わりました。その日、僕はソラの隣でソラと枕を並べて寝ました。50年振りの布団の感触に身体は溶け込むようで、いっぱいソラと話をしたいと思っていたのに、いつの間にか僕は眠りに落ちていました。


#005を最後までお読みいただきありがとうございます。
#006は2/22(水)に配信します。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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