見出し画像

子供の個性が芽生えるワークショップの学び方☆ゲスト 冨田 明広 先生 /今窪 一太(いまくぼ かずた)トークセッション#007

ES-TV note 【2022.9.16ライブ配信】

ワークショップという授業の方法

第5回配信に登場した広木先生から横浜市の小学校で教務主任を務める冨田 明広先生をご紹介いただきました。
冨田先生は広木先生と同じく『改訂版 読書家の時間』の著者の一人であり、また『社会科ワークショップ』の著者でもあります。


学校は僕たちの好きなことを何もやらせてくれない

ーー学校の授業にワークショップという手法を取り入れるに至った経緯を教えてください

冨田:先ほど善福さんが、小学校時代に枠にはめられることが嫌だったというお話をしていましたが、実は僕も若い頃は同じように児童を枠にはめてしまうような教室づくりをしていました。

僕ら先生は、よかれと思って授業を設計していて、「こうするといいかな?」「こういうふうにしたら児童の力が伸びるかな?」と工夫をしながらやっていました。
それに応えてくれる児童たちがいて、頑張って先生のやり方に協調してくれるからすごくうれしくて、そういう児童が多くいればいるほど、こちらもどんどん乗り気になって、「よし行くぞ!」となっていました。

ところが、いろいろなタイプの子どもがいるのが実際で、そうしたやり方がふさわしくない子もいるわけです。

こういう授業をしたら絶対に児童が成長するという方法を常に考えていて、教材研究をコツコツやっていた時代もありましたが、それにつき合わせていたので、子どもたちが疲弊しているところがあったのだと思います。
クラス全体があまりうまくいっていなくて、そんなときに、子どもたちの「学校は僕たちの好きなことを何もやらせてくれない」という言葉を聞きました。

その言葉で自分のしていることを振り返りました。
僕ら先生が考えた授業のやり方を従順に受けとめて学ぶ子どもを育てたいのか、それとも子どもたち自身が本当にやりたいことを、あれでもないこれでもないと回り道をしながら自分の手や足を動かして探していける子どもを育てたいのか、どうなんだろうと迷いました。

そんなときにワークショップっていう方法は自立的な学び手を育てるためには良い方法なんじゃないかって思ったんですよね。

教師にベターっと依存して、「先生大好き♪」という感じじゃなくて、「いやオレのやってることすげえぞ!」ってみんなが思える。
「先生のおかげで僕たち成長しました」じゃなくて、「なんかオレすげえ頑張ったな」と自信を持って小学校を卒業していく方が良いのではないかと。

ワークショップによって子どもたちが得ている、学びの実感

ーー授業の手法をワークショップに舵を切っていって、子どもたちが、自分で頑張っている実感を得ているなと思うことはありますか?

冨田:もちろんあります。
例えば4年生の社会科の学習で、神奈川県のいろいろな市や郡を調べる授業をしました。
グループをつくって、自分たちが調べたい場所を考えて、グループで調べたことをクラスのみんなに伝えるという単純な枠組です。

それが、すごく盛り上がりました。
あるグループのテーマは逗子だったのですが、子どもたちが自主的に企画して、実際に逗子に行ってヨットや別荘が並んでいるところを見てきたりしました。

また、歴史の授業では「武士」をテーマにそれぞれが調べてくるのですが、元軍が攻めてきてモンゴル軍が「てつはう(漢字にすると鉄砲)」という大砲みたいな、火薬を詰めた鉄球を投げる武器を使うんですが、その鉄球を真似て、重さも調べて実物通りにして作って、それをクラスのみんなに持たせて「どうだ重いだろう」と言ったり、こちらが思いもよらぬ方法で面白いことをやってくるんですよね。

また「埋め立て」を勉強したときには、あるグループはジオラマみたいなものを作って、実際に水を流して埋め立ての様子を再現していました。

そして、「読書家の時間」では、自分は公認会計士になりたいから会計士の本を読みたいとか自分の夢や目標に向かって学習を利用していける。
子どもたち自身が本当にやりたいことを学校が応援していけるような枠組をワークショップという形で子どもたちに還元してあげることができると思うんですよね。

児童たちは自分たちで興味を持って研究をしています。
そうでなければ、「実際の重さはどんな感じなんだろう?」なんてところまではいかないでしょう。
そして、この学び方の魅力は、研究結果を先生に伝えるためにやっていないところです。
本当に仲間に伝えたいというか、仲間が発表を見てどう反応するかとか、どういうふうなリアクションをしてくれるかっていうのを楽しみにしてやっているので、そこで学習コミュニティが生まれているんですね。

ここまでいっちゃうと、教師はエンパワーして子どもたちをどんどん勇気づけていくということが大事になってくるので、子ども本人が伸ばしたい能力をどんどん伸ばしていっているような、あたかも野草がいろいろと交わりながら群生していくような力強さを感じますね。


先生が中心ではない授業

ーー私が受けてきた授業と大きく違うので、実際に授業として成り立っているイメージをすることが難しいのですがその辺はいかがでしょうか?

冨田:授業が成り立つかどうかという視点は、教師目線ですね。
授業全体が成り立っているかどうかということではなくて、子どもたちが自分の学習をこうやったとか、ここまでできたとか、もしくは課題は残りつつも次にチャレンジしたいとか、学習に対してどれだけ成就感を持てたかということが大切だと思っています。

社会科ワークショップなどは、個人がそれぞれのテーマで学習しているので、遠目から見るとよくわからない印象はあるかも知れないです。

自分で決めたテーマもしくは自分で決めた問いに対して、子どもたち一人ひとりが準備し探求して、自分のテーマに期待して集まっくる友だちに発表をする。
あるいは「問い」をつくってプレゼントする。
友だちはそれに応える。
そういう姿が教室のあちこちに見られます。
教員が中心になり、中央に立っているっというのではなくて、中心が教室の中にいくつもあり、そこに子どもたちが、参加したり、自分が中心になったりして、収縮と拡大を繰り返していくようなそんな教室風景です。

教えない勇気を持つことの難しさ

今窪:冨田先生のお話を聞いて思ったのですが、多くの学校や学級でも自主自立という目標を掲げているところはたくさんあると思うんですよね。
しかし、よく考えてみれば、それは実はレールに敷いた自主自立なんじゃないのかなと思うわけです。
授業でもやはり同じことが言えて、先生が教える方が楽なんですよね。
だけど子どもを中心にして、教えない勇気を持つことって、教員としてはすごく難しいことだと思います。
冨田先生も、以前は教えるスタイルの授業をしていて、それをワークショップ型に切り替えた瞬間があったと思うのですが、そのときのギャップをどう捉えて乗り越えたのでしょうか?

冨田:それはすごくいい質問ですね。
当時はすごいギャップを感じていて、ものすごく苦しかったです。

例えばこちらがレールを敷けば、子どもはある程度予想通りに動いてくれます。
予想通りに動いてうれしいこともあるし、子どもが期待に応えてくれたといって、それが教師と児童の美談みたいに語られたりすることもあります。

今、僕が提案している授業は、子どもたちが先生の手のひらには乗らないことを想定し、それがむしろ正しいとすることです。

例えば、ブッククラブのような読書会で、子どもたちに本の話をさせようとすると、子どもたちは本からの連想であったとしても、それが転がって転がって、自分のうちのペットの話になったりとかするわけです。
そして、「本の話をしなさい」と叱ったりします。
ところが、自分がブッククラブに参加をすると、平気で脱線するわけです。
テーマ本について話そうと思っているのに、「いや実は俺こんなことしちゃって」なんて全然関係ない話が出てくるのですが、実はその話をすることによって自分の心の整理ができる場合もあります。
だから、そうしたことにも価値をしっかり見出してあげる。
自分がそうした経験をすることによって、自分もそうだし、子どもにとってもこれこそが学習なんだということを認められるようになっているのかなと思うんですよね。

それまで本当に苦しくて、なんで自分はワークショップなんていう学び方と出会ってしまったんだって思っていました。

ーーワークショップの授業を行うにあたって、冨田先生が大事にしていることは何でしょうか?

冨田:授業づくりは一人では困難で、仲間が必要だと思っています。
自分一人では気づくことができないんです。
自分のやっていることを俯瞰して、クリティカルに見られません。
信頼できる仲間や同じ目標を持っている仲間がいて、常にやり取りをしている中で、「あれ? 俺のめざしているものと今やっていることって、ちょっと噛み合わせが悪いんじゃないかな」ということに気づく経験が結構あったんです。
一緒に考えてくれる仲間がいると、安心して、自分の傷つきやすさまで開示することができます。
誰も自分の実践が良くないってことに気づきたくないのですが、その弱みを受け入れてくれる仲間がいることで、違う方向にチャレンジしてみることにも対峙していけるのかなと思います。

ーーその”仲間”とは、同じ学校の先生であればもちろん理想だと思いますが、同じ学校の先生だけとは限らないということでしょうか?

冨田:自分自身を奮い立たせる環境をつくるというのは大事ですね。
だから僕は学校外部の先生方とも接点は多くあります。
ですが、自分の仲間の先生とちゃんとした環境をつくることが、子どもたちとちゃんとした環境をつくることの延長でもあると考えているので、まずは自分の周りの先生と良い関係をつくりたいと思っています。

毎日、僕は同じ学校の同僚の先生に相談していますね。
同僚の先生も笑って聞いてくれて、「本当、大変だよね」って言ってくれることがすごくうれしいし、悩んでいるのは自分だけじゃないって思えます。

例えば、学習に向き合えない子どもがいて、しかし、学習に向き合えない時間を今過ごしていることが、もしかしたらその子の人生に必要な時間なのかも知れなくて、そばにいてあげることが今自分にできる一番良いことかも知れない、なんて迷いを聞いてもらって、心の整理をしながらやっています。

冨田先生のブログも、ぜひご覧ください↓


職員室だって多様な個がある

ーー冨田先生の学校の職員室をのぞいてみたいですね

冨田:職員室もワークショップと同じなんですよね。
というのは、先生一人ひとりがやりたいことがあって、どんな先生も「こんな教室を作りたい」とか、「体育で幅跳びをもっと飛ばせたい」とか、いろんな願いを持っています。
それを聞くこともなしに、「こういう学校の目標で一丸となってやりましょう」というのは、多分、一斉授業と同じ構造なんだと思います。

一人ひとりがめざしたいことがあるので応援してあげる。
職員室も多様なんですよね、子どもたちの教室と同じで。
職員室の多様な個があって、それぞれの先生たちが自立的に学べる職員室であれば、それは本当に学校ワークショップが良い形になっていくんじゃないかなと思います。

それが地域にも当てはまり、もしかしたら国家みたいなちょっと大きな枠組になっても同じことが言えるのかも知れません。

今窪:先生たちが自主自立的にイキイキとしている職員室は、子どもたちがイキイキしている教室とまったく同じです。
職員室がイキイキしていたら教室もきっと同じような姿になっていますね。

学校はいろいろなこととつながれる場

ーー最後に現役の先生や、先生をめざしている人に何かメッセージをお願いできますか?

冨田:学校現場はいろんなものとつながることができるんですね。
僕もいろいろな企業とつながって授業をしてきたし、研究者の方とつながって何かを作ってきました。
「あの職業」なり「地域のその人」だったり、ときには遠い海外にいる人とオンラインでつながったり、様々な人とつながれるんです。

子どもを育てるとか未来を創っていくということは、世界中のみんなが願っているものなので、いろんな人とつながれば学校はすごく楽しくなるし、将来性のある場なんじゃないかなと思います。

ーー冨田先生のワークショップの授業、今度ぜひ、見学させてください。
冨田先生、今日は本当にありがとうございました。(MC:善福 真凪)

●冨田 明広(とみた あきひろ)さん プロフィール
横浜市立小学校教諭
(一社)マナティー研究所 理事
公認心理士
著書『改訂版 読書家の時間 自立した読み手を育てる教え方・学び方』(新評論 , 2022)、『社会科ワークショップ  自立した学び手を育てる教え方・学び方』(新評論, 2021)、

最後までおつきあいいただきありがとうございました。
よろしければスキ♡での応援をお願いします。
今後とも、EDUCATIONAL SUPPORTのご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?