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童話「スーパーヒーローレボリューション」/#004

植肉を栽培するソラのお父さんたち

4

 ソラの家は家と呼ぶにはあまりに粗末な長屋でした。トムとチッチは同じ長屋の何軒かとなりに住んでいて、それぞれの家に帰って行きました。
 
 ソラの家は粗末で小さかったのですが、掃除は行き届いていて、きちんとしていました。家にはお母さんがいて、冷たいジュースを出してくれました。
 
 「父さんは?また畑?」
ソラがソラのお母さんにたずねると、
 「そうよ、夕ご飯の材料を採りに行ってるわ。」
とお母さんは答えました。
 
 ソラの好印象、人当たりの良さは、家族との仲の良さが影響しているんだなと僕は思いました。 
 
 「ジャン、ジュース飲んだらオレたちも畑に行ってみようよ。」
ソラはそう僕を誘いました。
 
 暑い日だったのでジュースを一気に飲んで氷を1個口の中に放り込むと僕たちは家を出て細い路地を歩いて行きました。
 
 畑は僕の想像以上に広くて、たくさんの人が農作業をしていました。
 
 「オレの父さんはあそこで作業をしてる。」
とソラがいう方向を見ると、麦わら帽子をかぶって首にタオルを巻いた、たくましい体つきの大人の人が畑の雑草を取っていました。
 
 ソラのお父さんはソラが来たことに気づくと手を振って合図をしました。
 
 「父さん、友だちを連れて来たんだ。」
ソラが言うとソラのお父さんは作業の手を止めて、顔を上げて汗を拭い、そしてこう言いました。 
 「初めまして。ハランベーの子じゃないみたいだね。ソラが友だちを連れてくるなんて初めてだな。どこから来たんだい。」
 ソラのお父さんは僕に質問をしたのですが、僕の代わりにソラが答えました。
 「それが父さん、聞いて驚かないでよ。ジャンは過去からやって来たんだよ。」
と言ってソラは僕が廃墟の大学にあった生命維持装置からさっき目覚めたことを素晴らしく簡潔に論理的にソラのお父さんに説明をしました。
 
 ソラは自分の能力が生まれつき低いことを諦めていたように話していましたが、自己評価が低いんじゃないかなと僕は思いました。
 
 「驚いたな。ソラ、驚くなと言われたってこれは驚くだろう。」
とソラのお父さんは言いました。
 
 「だけどな、ソラ、父さんはあり得ないという意味で驚いたんじゃないんだ。実はジャンのように過去からやって来た人たちがこの時代に忽然と現れてグループを作っているらしいという噂がインターネット上で囁かれているんだ。都市伝説って奴だと思っていたんだけど、本当に過去からやって来た人はいるんだなと驚いたのさ。」
 
 ふと、ソラのお父さんが収穫をしてバケツに入れているものを見て僕は驚いてしまいました。それはなんと鶏のもも肉のように見えたのです。そして畑の土から生えている植物を見て、さらに驚いてしまいました。土からニョッキリ生えていたのは、鶏のもも肉、ムネ肉、そしてどう見ても豚肉のかたまりに見えるもの、そして牛肉のかたまりに見えるものだったのです。
 
 「ソラのお父さん、これは一体なんの植物ですか?」
僕はソラのお父さんにそうたずねました。
 
 「え、昔はこれがなかったのかい?これは植物じゃなくて植肉だよ。鶏肉と豚肉と牛肉じゃないか。昔の人は肉を食べていなかったのか?あ、いや聞いたことがあるな。昔は鶏や豚や牛といった動物を殺して食べていたんじゃなかったかな。」
 
 「ええ!動物を殺して食べるなんて、なんて野蛮な!」
大声を出したのはソラでした。
 
 「昔は食べるために動物を育てて、しかも人間が食べて美味しいように品種を改良をして、そして成育したところで殺して食べていたんじゃなかったかな。殺されて食べられてしまうために生まれてくる命なんて、なんとも残酷な話じゃないか。」
 ソラのお父さんは眉をしかめました。
 
 「それじゃあ、この時代の鶏や豚や牛は食べられないんですか?でもそうした動物たちは絶滅しないで生存しているんですよね。」
 僕がそう聞くと、
 「うん、鶏や豚や牛は動物園にいるよ。あんな可愛い動物たちをどうして食べたりできるんだい。」
 
 「でも、お父さんがバケツに入れているものはどう見てもさばいてスーパーで売られている鶏肉に見えるんだけど。」
 僕が驚いていると、納得した顔でソラのお父さんが説明してくれました。
 「そうだな、思い出したよ。植肉の歴史を本で学んだことがある。人間は食べて美味しいように生き物の品種を改良していったんだけど、生き物の肉を食べない主義の人たちもいたんだよ。人が生きるために他の生物の命をいただくこと、それを人間は都合よく正当化していたんだけれど罪悪感はあったんだ。例えばしゃべる豚がいて、『僕を食べて』と豚が言ったなら果たして人はその豚を殺して食べることができるだろうか、なんて議論もずっとされて来たらしい。品種改良が進んで動物ではなくて植物のようなものとして肉を栽培することが研究されて、そして実現したんだ。動物の肉と同じ成分、栄養があり、調理法も味も動物を食べるのと全く変わらない植物のような肉。そして人間は罪悪感なく肉を食べられるようになった。ベジタリアンも少なくなった。でも元を辿っていけば植肉を形成する要素には動物の鶏や豚や牛の遺伝子が使われている。だから動かないからといってこれは動物ではないと言い切れるものではないのかも知れない。植肉に痛みや気持ちがあるかないかなんて、到底人間にはわからないのだから。もしかすると人間が自分たちをゆるすためだけのエゴなのかも知れないな。」
とソラのお父さんは僕たちに聞かせるというより、自分自身に語りかけるかのように一気に話しました。
 
 「父さん、難しくてわからないよ。」
ソラが言いました。
 
 なんだか確かに難しいなあと思いながら隣の畑を見ると、そこには土から魚の切り身のようなものが生えていました。僕は質問をしようかと思ったけれど、答えは聞かなくても想像ができたので質問するのをやめました。
 
 「ジャンくんの時代でもフライドチキンはあっただろ?今日はこれでお母さんに作ってもらおう。お母さんのフライドチキンは絶品だぞ。」
とソラのお父さんが言いました。
 
 「フライドチキンは僕も大好物です!」
そう答えたらお腹がグウと鳴りました。


#004を最後までお読みいただきありがとうございます。
#005は2/15(水)に配信します。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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