『地獄おっさん』⑥

コウジ「ん? なんだ! なんだ!」
マサキ「え? どうしたの? あのおっさん!」

二人は、外に出て行ったおっさんを、ガラス越しに視線で追う。
おっさん、自分の車のところで一度運転席をあけると、またスグに閉め、駐車場の中のマサキとは違う車に向かう。その車に、丁度会計を終えた老夫婦が近づいてくると、おっさんはきびすを返し、もう一台のマサキの車に近寄っていく。
そしてマサキの車の周りを、ゆっくりと回って、そして店内に戻る。

マサキ「おい! 今あのおっさん、なんか俺の車をさわって無かったか?」
コウジ「暗くてよく見えなかったけど…なんか触ってるっぽかったな…」

カウンターでは、先ほどの女性店員と男性店員、もう一人制服のタイプが二人と違う店長というネームプレートを付けた20代前半の男がいる。

店員・女「じゃー、お疲れさまでした!」
店員・男「お疲れさま」
店長「あゆみちゃんも、夜道はホント気を付けるんだよ!」
店員・女「はい、店長! …小田さん、まだ家に帰ってないんですか?」
店長「うん…ご家族も捜索願いを出したみたいだね。僕も知り合いの警察官の人に何か手がかりがあったら、知らせてって言ってあるんだ」
店員・女「小田さんの前にも、ちょっと前にカヨちゃんが…」
店員・男「まだ犯人見つかってないから、あゆみちゃんも、マジで夜道は気を付けなよ!」
店員・女「はい! じゃーまた明後日シフトです!」
店長「そうかー、明日は友達とどっかいくの?」
店員・女「あしたは、女子会です! プチエステと、ネイルも行って、女子力アップしてきまーす!」
店員・男「楽しそう!」
店長「じゃー、気を付けてね」
店員・女「はい! お疲れさまです!」

女性店員は店を出て行く。男性店員・店長、またカウンターの中に入って行く。
店内は、店員二人とマサキ・コウジ。そこへおっさんが戻ってくる。

音「ティルン、ティルン」

女性店員と入れ違いに、おっさんが入ってくる。すれ違いざま、おっさんは目を見開いて女性店員の尻を凝視し、店内に入る。また覇気の表情で席に座り、タバコに火を点ける。そして淡々とタバコをすう。
マサキ・コウジ、おっさんを警戒しつつ、小声で話す。

コウジ「取りあえず、携帯とりにいってくるわ…」
マサキ「つーか、二人で店出た方がよくねーか?」
コウジ「バカか? もし二人で出てみろ! こんな何もねーとこで襲われたらどうすんだ? 警察呼んでも、来るまでに何かされるかもしんねーだろ? だったら、店内の方がまだ店員もいるから、なんかあったら対応できんだろ!」
マサキ「そーか…わかった、とりあえずソッコーで戻ってきてくれよ」

コウジ、ゆっくりと席を立つと入り口に向かった。マサキは急におっさんが襲ってきても対処出来る様に、テーブルの上におしぼりと一緒にパントリケース内に置いてあるナイフを、おっさんから見えない右手に持ち、警戒する。
おっさんは、タバコを吸い終わり、また火を点け、無表情で吸っている。

コウジ、駐車場に着く。
マサキ、ガラス越しからコウジの行動を見る。
コウジは車に近づくと、助手席・運転席と回っていって、車内を開けないで店内に戻ってくる。

音「ティルン、ティルン」

マサキ、振り返り戻ってきたコウジを見る。
コウジ、青ざめて戻ってくる。今にも泣きそうな顔で、おっさんを一瞬だけ見ると、席に座り震えながら話す。

コウジ「…マジでやべーよ」
マサキ「どうしたんだよ! お前スゲー顔してるぞ!」
コウジ「ガムが・・・」
マサキ「あ?」
コウジ「ガムが、鍵穴にべったり入ってた…」

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