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「巴里に死す」芹澤光治良

30年余り前に亡くなった芹澤光治良氏という作家がいる。
「ブルジョア」「人間の運命」「教祖様」、作者が89歳から創作を始めた「神の微笑(ほほえみ)」「神の慈愛」「神の計画(はからい)」という神シリーズ三部作等、天理教の教祖からの教えを書き記している。

芹澤氏より少し前に亡くなった母方の祖父は本の虫であった。私が当時「神の計画」を読んでいると…

「この作家の『教祖様』を以前に読んだが、天理教の教祖には本当の神が降りたんだよな」
と不思議そうな顔をして、言っていた。
あの世とか魂などという存在を信じ切れない祖父が、神がかりをする天理教の教祖の話を信じていることに私は驚いたことを今でも鮮明に覚えている。


芹澤光治良著「巴里に死す」読書会のお誘い

東京東中野にある芹澤光治良氏の元のお宅にあるサロン-マグノリアにて「巴里に死す」の読書会に誘われた。本も読んでいない、困った。
主宰するSさんは…「本送るから、読んで参加して」と直ぐに本を送ってくれた。
読みかけの本を放り出して、「巴里に死す」を読んだ。

75年前に書かれた書物が…今も読み次がれているのは何故か?主宰者のS
さんの問いかけに、心引かれたのたである。

読み進めるうちに少しずつ、その答えが私なりに感じられた。
著書の中に頻繁に出てくる「まこと」という言葉。

人間の心は永遠に変わらない、何十年経とうとも。
「心のまこと」とはなんぞや?
目に見えないけれど、一番大事なもの。簡単なようで難しい。

20人ほどの出席者が、それぞれに感じたことを手短に話す。

母となる信子(しんこ)の精神的成長、夫婦愛について語る方が多かった。

読後の私…

久しぶりにむさぶり読んだ本だった。

心を求めて止まない芹澤光治良氏、改めて見えないものを追いかけていると実感した。

現れてくるものの表面しか見ない人間的な信子が子供を宿し、自分の命をかけてまでお腹の子供を守り、産む。
自分なら…出来るだろうか?考えても、もしもの世界だから答えは出ない。

信子の手記は…幼い頃から父親の放蕩、母親の苦労、そして信子自身の苦悩。
男を信じられない信子の嫉妬心。
夫である宮村の妻を労る優しい想い。
徐々に心のが繋がって行く夫婦愛、母親となり心の成長をして行く信子の姿には…ジーンと来るものを感じた。

夫のかつての恋人(プラトニックな関係)に最初は嫉妬をしたが、子供を身ごもり、自分よりも子供の命を一番に思う母心が芽生える。
子供の名前もかつて嫉妬の対象でしかなかった夫の恋人のような心持ちを持った人間になって欲しいと信子自らが夫の恋人だった人と同じ名前をつける。
まぁ、なんとなく読み進むうちにそんな予感はしていたが。

幼い娘を置いてのスイスへの療養。
身体を直して夫と娘と一緒に日本へ帰りたかっただろう気持ちには胸が痛くなる。 

なんだろう心を求める本を読むと、私は暗い気持ちになる。

死んで行く信子の気持ちが私の中に入り込むのだろうか…、分からない。
見えない、掴みどころのない「心のまこと」とやらに私の想いは囚われたままだ。

いつかもう一度読み返したい一冊がまた増えたのである。

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