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母の靴

玄関先を掃除する

クツ箱の下に母のお気に入りのスニーカーが置いたまま

ずっと履いていたショッキングピンクのスニーカー

いつか私も履こうと思って棄てられない

黒いPUMAのスニーカーは履けるのに
どうしてもこのショッキングピンクの方は履けないでいる

ただ見つめるだけ
触れもしない

母がいつか戻って来て履くかもしれない
もうそんなことは決してないのに

掃除をするのに久しぶりに触れてみる

まるで母に触れたよう

泣けてくる
泪が止まらなくなる
わたしはいつまで泣き続けるのか

片付けられない母の家
まだ何にも手につかない

もうそろそろ、もう少しと先延ばし

母の着ていた服を着る

母のカバン、母のカシミアのマフラー、母のセーター、母のスニーカー

母のお下がりばかりじゃないかと
いつの間にかひとりで笑っている

もう少しだけ母の思い出に浸らせて

会いたいな
 
会いたいよ

お母さん

夢でもいいから

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