仮レポート添削に関するメモ

2020年2月23日 渡邊弘(鹿児島大学共通教育センター)

※これは、鹿児島大学の1年次必修科目「初年次セミナーⅠ・Ⅱ」で受講生に課されている最終レポートの下書き(仮レポート)について、渡邊弘(鹿児島大学共通教育センター)がそれを添削した際に気付いたことをメモしたものです。最終レポートの本番を提出させる前に、LMSを通じて学生に配布しています。

※概ね、人文社会系のレポートを想定しています。鹿児島大学や当該授業以外では通用しないことも書いてあります。レポート・論文については、学問分野ごとにローカルルールがありますが、それについては授業中に「ローカルルールがあるので、わからなくなったら、そのレポート課題を課した先生に質問せよ」という指導を学生にはしています。
※図などは割愛しました。
※メモなので、項目の順番は適当です。
※本来、レポートは形式段落ごとに一字下げをするものですが、これはnoteなのでしていません。また、誤字・脱字にうるさいわりには、これ自体に誤字・脱字などがあるかも知れません(^^ゞ
※また、このnoteと渡邊弘の旧稿を対照したりしないで下さい(^^ゞ

1.「第1章 はじめに」と「第n章 まとめ」の関係
※IMRaD法が参考になる。
※第1章のタイトルは、他に、例えば「本稿の目的」などがあり得る。
※第n章(=最終章)のタイトルは、他に、例えば「結論と今後の課題」などがあり得る。
(1)「第1章 はじめに」には、
  ① (a)テーマ、(b)その設定理由
  ② (a)リサーチクエスチョン、(b)その設定理由
を書くのが一般的だが、「テーマ」、「リサーチクエスチョン」という言葉自体は出てこない(ことの方が多い)。自分が集めた論文(cinii articlesを活用すること)の第1章をよく読んで、書き方を真似するとよい(くれぐれも、真似するのは書き方のみ。内容をパクらないこと)。あるいは、戸田山和久『新版 論文の教室』(NHK出版)に、第1章の書き方について詳しい指示があるので、それをよく読んで書く。
※なぜか第1章を箇条書きで書く人がいるが、文章で書く。
(2)「第n章 まとめ」には、「リサーチクエスチョンの答」=「この論文の結論」を書く。
リサーチクエスチョンは「問い」であるから、すなわち、「この論文全体を通して明らかにすることはこの疑問の答ですよ」という宣言になっている。
従って、最終章である「第n章 結論」には、「リサーチクエスチョン=問い」に対する「答」が書かれているはず。あなたの論文の最終章はそうなっているか?
2.曖昧な言葉を使わない。
(1)程度や度合いの副詞、形容詞、形容動詞は具体的に→グラフ、図、表、数値などによって具体化する。そもそも、それらがなくて、今回の論文が書けるか?
(2)「多い/少ない」、「過大/過小」、「過多/過少」等は、比較対象or基準がなければ言えないはず。
何(いつ)に比べて、多いのか?少ないのか?
どのような基準に照らして、多いのか?少ないのか?
(3)「真の」問題、「真の」原因って何?誰がそれを「真」だと判断したの?
(4)「現代日本では、○○の問題が叫ばれている」→誰が叫んでいるの?
(5)「近年、○○が問題となっている」→本当か?本当なら証拠を含めてその事実を具体的に記す。「近年」で始まる学生の論文は極めて多いので、採点者としては正直うんざりする(だいたい、「近年」っていつからだよ)。採点者にうんざりされたら、いい点数は付かないと思った方がよい。
(6)「久しい」「芳しくない」「きざし」「欧米化」「臨機応変に対応」「各地で」→全部ダメ。意味・定義を明確に、ないしは、内容を具体的に。
※「欧米化」と安直に言うが、例えば、同じ東アジアでも日本・韓国・中国ではいろんな事柄がそうとうに異なるはず。なぜ「欧米」だと一括りで同じだと言えるのか。
(7)5W1Hを明確にする。【例】「太古の昔」「以前」→×
3.「自分語り」は禁止。「○○という科目の授業であーしたこーした……」も「自分語り」だから禁止。「本稿では、ある時、筆者が○○○○について知り、……」もダメ。なぜなら、「知る」のは、自分だから。読者=採点者はあなた自身のことには関心はない。採点者が関心を持つのは、あなたが研究した中身そのもの。
→つまり、「このテーマは自分にとって重要だ」ということを言うのではなく、「このテーマは普遍的に重要だ」=テーマ自体の重要性を語らなくてはダメ。
・テーマ自体の重要性=学術的意義and/or社会的意義。
・リサーチクエスチョンの重要性
 =学術的意義and/or社会的意義
  +このテーマを解明するためにはこのRQを解くことが必要である理由
4.「私」は、論文やレポートでは出てこない。
→どうしても出さざるを得ないときは「私」ではなく「筆者」。
※当たり前だが、論文・レポートの背後には、それを書いた「私」がいる。しかし、論文・レポートでは、「『私』がこう思うからこうだ」ではなく、第1章と第n章の間の章における「説明」と「証明」によって、誰がどんな風に考えようと、第n章に書いてある結論しか出てこない、と読者=採点者に納得させなきゃダメ。
→「私」が出てくる論文は、大抵は、「私の経験」の話になっている。それ、あなただけの経験かもしれない。n=1では、なんの証明にもなっていない。
5.「思う」は出てこない。せいぜい、最大限に妥協して使っていいのは「思われる」どまり(本当はこれもやめた方がいい)。なぜなら、論文・レポートは、証明して書くものだから。証明できたことを書くわけだから、「思う」などという曖昧な言い方ではなく、はっきり言い切ることができるはず。
6.「意識」、「考え方」、「心構え」はやめたほうが無難。なぜなら……。
(1)仮に、人々がある「意識」等を持っていることを言いたいとして、そんなの、どうやって調べるの?そういう「意識」等を人々が持っていると言える根拠は何?
(2)人々(=他人)の「意識」等を調べられないことはないが、ものすごく大変(信頼できる調査が既にあれば別だが)。
(3)人々(=他人)の「意識」等を変えるのは極めて大変。「意識」等を簡単に変えられるなら、そもそも、あなたの扱っているテーマに関する問題が生じていないはず。
(4)「関心」、「意欲」、「態度」、「姿勢」なども同様。
7.目的語が必要な述語に目的語がないものが多い。
 【例】「解決する」→「○○を解決する」。
8.対応する語句が欠けているものが多い。
(1)述語はあるのに主語がないor不明確。誰がしたの?何がしたの?
(2)修飾語があるのに被修飾語がない。
※あるひとつの被修飾語に対して複数の修飾語が付く場合のルールについては、本多勝一『【新版】日本語の作文技術』(朝日新聞社)を参照。この本は他にも、句読点のルールなど、きわめて詳細に日本語のルールが解説されている。
※「長い修飾語は被修飾語から遠く、短い修飾語は被修飾語に近く」が概ね通用する原則。
(3)通常はセットで出てくるはずの言葉のうち、片方がない。
【例】「○○へ移行している」→「△△から」がない。
※逆に、対応する語句がありすぎる(?)。
【例】「○○の特徴として、…………という特徴がある」。
9.なぜそんなに「のだ」が好きなのか?バカボンのパパじゃないんだから。
10.学生が「古くからある」と思っていることは、必ずしも古いとは限らない。
【例】男女役割分業論。配偶者間のロマンチックラブ。
11.同様に、学生が当然だと思っていることは、必ずしも当然ではない。
【例】「母親は愛情を持って自分の子どもを育てる」→日本だって、例えば、最近まで乳母が子どもを育てるのは珍しくなかった。現在でも、愛情を持って子どもを育てない親(母親だけではなく父親も)はたくさんいる(だからこそ児童虐待が問題になっている)。日本以外では、生まれた子どもが気にいらないと板にくくりつけて川に流す民族もいる。文化人類学の入門書の最初の章を参照。
12.敬語(尊敬語、謙譲語、丁寧語)は基本的にいらない。
【例】「ご家族」×。
【例】「カウンセラーの方に聞いた」→「カウンセラーに聞いた」。
【例】どんなに偉い先生でも、文中では呼び捨てが基本(ただし、表紙に書く担当教員名だけはフルネームで「○○○○先生」)。
※渡邊弘自身は、担当教員名を書く際に「先生」をつけるというルールについてはどうでもいいと思っているが、「『先生』とつけるべき」と言う教員もいるので付記する。
13.インタビュー調査に答えてくれた人を挙げるときは、「○○大学○○学部の△△□□先生は……」ではなく「△△□□(○○大学○○学部教授)は……」と呼び捨てにして、肩書を括弧の中に入れて示す。2回目以降に出てくるときは「△△は……」(原則として苗字だけで呼び捨て)。
14.用語を統一する。
【例】「子ども」と「児童・生徒」。
15.定義を明確に。
【例】「子ども」って何?
※「子ども」の定義は、例えば、法律ごとに違う→そういう場合は、「本稿では、○○に従って、子どもとは△△△△のことを言うこととする」と書けばよい。
※「児童」「生徒」「学生」「少年」……全部、きちんとした定義がある。それを調べて書く。
16.「の」に注意。「による」なのか、「に対する」なのか。
【例】「親の虐待」? 「子どもの虐待」?
→はっきりさせるためには、「親による子どもに対する虐待」
※なお、ここで言う「親」とは誰か?例えば、「養親」を含むか?
17.出典は、読者=採点者がすぐに元の文献や資料などに遡れるように詳しく書く。読者=採点者にいちいち検索させない。従って、本のタイトルだけとか、役所の名前だけではダメ。ウェブサイトであれば、URLまで必要。
18.グラフ、図、表、データなどは、調査年、(縦軸・横軸の)単位、n(標本数)、出典などが重要。
グラフ・図・表の使い方やそれらの出典表示の方法は、大学入試センター試験「現代社会」の過去問の中にある、グラフなどを使った問題を見て、それを真似する。過去問は、大学入試センターのウェブサイトに3年分(本試験・追試験)が掲載されている。少なくとも1回の試験につき2問以上、グラフなどを使った問題が出題されているから、自分が使いたいグラフなどに合った使い方や出典表示方法がほぼ必ず見つかる。
19.学生の多くは「パーセント病」。%が出てくると何も考えずに飛びつく。%が出てきたら、いったいそれは、何の何に対する割合か、全体(n)は何か、自分の言いたいことの根拠として本当に使えるデータか、などを注意深く再確認する。
20.書式設定(行間、字間、紙の余白など)に注意。印刷した際、それで見やすいか。
21.ノンブル(ページ数)が書いてないのはなぜ?現代日本では、複数枚の紙が綴じられたものでノンブルがないものは、まずありえない。
【ノンブルの付け方の例】(下記のいずれでもよい)
・本文最初の紙が1ページ(表紙は0ページだが、ノンブルを付けない)。
・表紙が1ページ(表紙からノンブルを振る)。
・表紙が1ページ(表紙にはノンブルを振らず、本文1枚目からノンブルを振る)。
※ワープロソフト(ワードなど)のノンブル機能を使う。自分で各ページの最終行に打つのではない。
22.根拠!根拠!根拠!
(1)根拠もなしに自分の勝手な想像や思い込みをもっともらしく書いていないか?
(2)あなたが示した根拠から、本当にあなたの主張する結論は言えるのか?
(3)あなたが示した根拠から、あなたの結論と異なることが言えてしまわないか?
(4)その根拠は信頼できるか?
23.もし自力で調査したら、その結果を活用する。
(1)ただし、その調査は、論文・レポートに「使える」調査か?調査の正当な手法に従って行ったものか?例えば、学生(特に1年生)の行うアンケートは、この点でほとんどの場合使えない。調査にあたっては、社会調査法を学ぶ必要がある。
(2)インタビュー調査で聞いてきたことをそのまま書いても、最終レポートにはならない。それを活用して、自分で調べたり考えたりしたことも含めて執筆しなければならない。読者=採点者にしてみれば、学生が調査対象者から聞いてきたことの受け売り(しかも、その下手な要約)を読む必要も義理もない。
(3)調査に協力してくれた人に対して、必ず、謝辞を書く。謝辞は参考文献リストの後(=論文・レポートの一番最後)。
(4)論文を完成させて教員に提出したら、その論文のコピーを添えて調査協力者にお礼状を書く。手紙で出すのが常識。
24.(1)注の利用法と(2)参考文献表の利用法(ならびに、それらの違い)がわかっていない学生が多い。また、(3)引用の方法(出典表示の方法を含む)がわかっていない学生も多い。いずれも、戸田山和久『新版 論文の教室』(NHK出版)を見て、それをそのまま真似する。
(1)注は少なくとも以下の4種類があり得る。
①本文中で述べたことの根拠の出典を示すもの。
②本文中に引用した文章や図表などの出典を示すもの。
③本文中で自分が要約して紹介したものの出典を示すもの。
④本文中では説明しきれなかったことに関する補足説明を述べるもの。
(2)参考文献表は、自分の論文・レポートを書く際に参照したものをすべて挙げる。
※従って、「参考文献表に出てくる文献≧注に出てくる文献」。
※この24.については特に、学問分野ごとにローカルルールがある可能性が強い。
25.引用する場合の注番号の付け方、記号の使い方は……、
    …………「………………」(1)。…………   ←このやり方が正しい
    …………「………………」。(1)…………   ←誤り
    …………「………………。」(1)。………   ←誤り
となる。すなわち、句点よりも前に注番号。終わりカギカッコの前に句点は来ない。
26.注番号は、ひとつの論文に2回以上同じものは出てこない。すべて違う番号。同じ文献から複数回引用するときには、「前掲注(3)書pp.123」などとする。
27.孫引き禁止。孫引きとは何かということは、自分で調べよ。
28.ワープロソフト(ワードなど)の注作成機能を必ず使う。脚注でも末注でもよい。
29.「3つ」→「3点」。「1つ目は」→「第一点は」or「第一に」。
※学生が書くものは箇条書きを使いすぎ。「箇条書きを使ってはならない」とまでは言わないが(使ってもよい場合or使った方がよい場合もあるが)、使いたくなったら、「第一に……。第二に……。第三に……」という形で文章にできないか、検討する。
30.PCを使って執筆する。スマホやタブレットは論文・レポート執筆には不向き。例えば、なにか用事があるときに鹿児島から東京まで自転車で行く人は、普通はいない。便利な道具はなんでも使えばよいが、やりたいことの中身に対して、それに合った適切な道具があるということ。
31.本文中で体言止めを使わない(前項=30.は、悪い例である)。
32.タイトルは、簡潔かつ必要充分に論文・レポートの内容を表すものにする。
(1)簡潔すぎるものはダメ。
【例】「少年犯罪」→少年犯罪の何についてなのか?
(2)エモーショナルなものはダメ。
【例】「子どもたちの明るい未来のために」
※自分が集めて読んだ論文のタイトルを参考にする。
33.必ず目次を付ける。目次と本文の間は改ページする必要はない。目次も本文と同じフォントでよい(変えてもよいが)。目次と本文の間を3行程度空けるとわかりやすい。
34.プレゼンテーションのレジュメの場合には、項目に階層をつけたら、それに伴って段落としをするのがよいが、論文・レポートではその必要はない(下手に段落としをすると、いわゆる段落引用のやり方と混在して、むしろわかりにくい)。
35.実際に被害が出ていることや社会的な問題となっていることに対して、学生の多くは、なぜ、それを過小評価するのか?「もし自分がその被害の当事者になったら」と考えてみることは必要ではないのか?そのような過小評価に基づいて書かれた論文・レポートは、当事者に対する人権侵害になる危険性がある。
様々な困難を抱えている当事者に対する共感は、論文・レポートの文面には、はっきりとは出ないのが普通である(論文はエモーショナルに書くものではないから)。しかし、研究する側にそのような共感がなくて良いのか、よく考える必要がある。
→当事者に対する共感のない論文を書いてしまう学生は、たいていの場合、自分を社会的な「強者」の側においている。だが、ほとんどの場合、それは幻想にすぎない。どんな社会でも「強者」は本当に少数しかいない。なぜ、かなりの学生は、客観的には社会的弱者の側で生活しているのに(そしてこれからも基本的にはそう生きざるをえないのに)、自分が強者の側にいると錯覚して論文を書くのか。
36.データは壊れるし、なくなる。PCの設定で定期的に自動保存するようにする。また、それだけに頼らず、手動でも定期的に保存する。3カ所以上(例えば、クラウド、内蔵HDD、外付けHDD、USBメモリなど)に保存する。1日の執筆作業が終わったら、プリントアウトする(授業の課題レベルで論文・レポートを書くなら、滅失しない保存方法としては、紙が最強である)。
同様に、PCもプリンタも壊れる。自分の所有するPC・プリンタ以外に、使えるPC・プリンタをもう1組確保しておくことが必要である。
37.提出直前になると、さらに、インク・紙・ステープラ(ホチキス)・ステープラの針がない、電車やバスが運休になっているor遅延している、LMSやメールで提出しようとしてもなぜかネットにつながらない、ということが起こる。まるで、悪魔が単位修得を妨害しているかのように。従って、提出期限の24時間前までには提出可能な最終状態に完成させる。
38.渡邊弘が授業であれだけくどく言っても、提出前に2部プリントアウトして、1部を友人に見てもらいながらもう1部を自分が音読してそれを聞いてもらって点検をしない人には、いったいこれ以上何をどう指導したらいいのか???
どの科目でも、論文・レポートの採点者は、誤字・脱字・フォントの不統一・珍妙な書式などを見つけた瞬間に「ああ、この人は、この論文・レポートにきちんとした労力と時間をかけていない人だ。つまり、私の科目を軽視している人だ」と判断して採点する(教員も人間です)。
この音読チェックのための、たかだか30分ぐらいの時間をケチったばっかりに、点数が下がって大損害になりかねない。さらに言えば、誤字・脱字・フォントの不統一や形式の誤りがあると、その論文・レポートの内容に関する信頼性もダダ下がり。
また、LMSやメールで提出するときには、その操作も、友人と一緒に画面を見てもらいながら行う(「保存」しただけで「提出」できていない、というミスがよくある)。
39.テキスト、『新版 論文の教室』、これまでに配ったプリントなどに正確に従う。これだけ言っても、まだ、指導に従わない人には、いったいこれ以上(以下略
40.なぜあなた方は、教員のところへ質問に来ないのか?
質問に来れば、追加料金なしで個別指導が受けられるのに。

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