#3 母は外で働かないことを選んでいた。
私の母は主婦だ。
そして外で働かないことを選んでいる。
主婦として働いている。と言う表現の方が正しいかもしれない。
家族構成
状況が分かりやすいように、簡単な家族構成の説明を。
主婦の母、大黒柱の父、私を含む男ばかりの4人兄弟を合わせて6人だ。
私は4人兄弟の上から2番目だ。
現在、一番下の弟を除いて、上3人は既に大学を卒業し、働いている。
一番下が大学2年なので、後2年で父の肩の荷が下りる。
父と母
昔、父と母はよく口論になっていた。
自分が小さい頃から、いろんなことで言い合いになっていたことを今でもよく覚えている。
内容は母の生活の仕方であったり、お金の工面であったり、ちょっとした態度のすれ違いであったり、様々だった。
たまに2人の仲裁に入ったりした。
「こんな夫婦にはなりたくないなあ。」と心で思ったこともある。
2人の関係を良くしてほしくて、「お互い歩み寄ってほしい。」「もっと理解しようとしてほしい。」と訴えたこともあった。
別に、父と母のことが嫌いという訳ではない。
むしろ、それぞれに尊敬するところがあり、2人とも大好きだ。
今まで人生をささげて自分たち兄弟を育て上げてくれたことも、心から感謝しているし、恩返しをしていくつもりだ。
だからこそ、2人にはもっとお互いを大切にしてほしいと思っていた。
一家の収入
父の収入では一家の家計が成り立たないことを、子供ながらに察していた。
小遣いは周り友達より少な目、おさがりの服や道具も普通だった。
別に貧乏だ、惨めだと感じたことはなかった。
ただ、お金のことで不自由していると両親に感じさせたくもなかった。
ただ、父は本当に家計を支えることに精一杯だったと思う。
1人で妻を支え、4人の子供を育て上げるだけの稼ぎが必要なのだ。
父の苦労とプレッシャーは計り知れない。
まだ私には子供がいないが、この苦労を推し量るには、想像力も経験も足りていない。
母の真意
三年前。
自分は大学を卒業し、実家から働き出すことを選んだ。(現在は実家から出て職場に近いところに暮らしている。)
その時、家には父と母と私の3人だった。
下2人は家から出て大学に通っていた。
私はたまに母に向かって、「家計が困っているなら、パートやら在宅ワークとかで稼げるよ?今ならインターネットでも簡単に稼ぐ時代だし。」とアドバイスをした。
今思うと本当に図々しいのだが、家計のためを思ってのアドバイスだった。
少量だが私は家にお金を納め出すようになった。
自分が働きだしたことで、少し視野が広くなり、父の苦労が見えてきたつもりだった。
父も度々、母に向かって働いて家計を助けてほしいとほのめかす発言をしていた。
母の答えはノーだった。
父の気持ちに寄り添ってあげないことに腹が立った。
家計が苦しいと分かっているのに。
少しでも父の助けになればいいのに。
最初は本当に理解ができなかった。
子供も家から巣立って、育児や家事に追われることが少なくなったのに、なぜその時間を使って、家計の足しにしようとしないのか、わからなかった。
ただ、母の本音を知るにつれて、私の気持ちは変わっていった。
母は私にこう言った。
「私はこの家でこうやっていることが幸せなの。今の状態が幸せなの。」
個の言葉で私は目が覚めた。
意固地だとは感じつつも、それ以上は何も言えなかった。
母は主婦でいることに、家にいることに、幸せを感じていた。
私は母の幸せの状態を崩そうとしていた。
母は外で働いて、新しい知識を得たいわけでも、労働で得られる賃金や達成感を得たいわけでもなかった。
贅沢がしたいわけでもなかった。
自ら望んで主婦であり、外で働かないという選択をしていた。
家にいて、家族の日常を守ること。
実家にいる母としての役目。
そこにこの上ない幸せを感じていた。
決して怠惰なわけではない。
主婦であることが怠惰なわけがない。
私は母の真意が聞けて本当によかった。
自分の視野が狭かったことが分かってよかった。
「良かれと思って」の発言が相手を脅かすこともあると知った。
終わりに
現在、父と母は仲良くやっているように見える。
家に子供がいなくなって、2人で散歩したり、ボードゲームをしたりと一緒に過ごす時間も増えたようだ。
何十年もの子育ての苦労から解放される日は近い。
その時は、兄弟4人で盛大に恩返しをしたいと考えている。