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専門誌掲載コラム「定年」

 はじめまして。今回からこのコラムを書かせていただくことになりました「玉木」と申します。よろしくお願いいたします。
 黒澤明監督の作品に「生きる」(1952年公開)という映画があります。この映画は、定年間近の市役所の課長が最後に市民のために有益なことをして亡くなる、という感動的なお話で、主演は志村喬さんでした。志村喬さんといえば老け役が多いイメージがありますが、このとき47歳だそうです。今の47歳とは違いもっと老けて見えます。その47歳が定年間近の役を演じているのを疑問に思い、少し調べてみました。
 そもそも定年制度とは終身雇用と年功序列賃金の確立、お礼と老後の生活の保証の意味合いの退職金制度とあわせ大正時代に制度化されたようです。1998年には60歳未満の定年は不可となり、以降60歳定年制が定着したようです。それまでは一般的には55歳が定年だったようです。現在は年金制度の変更もあり60歳定年、65歳まで雇用という形となってきているようです(ざっくり)。 
映画「生きる」が公開された頃の平均寿命は男61歳、女65歳だったようですので、この時代の55歳定年というのは「ちょうど良い」年齢だったのかもしれません。また、1998年60歳定年制度が出来た頃の平均寿命は男77歳、女84 歳、それが現在の平均寿命は男81歳、女87歳ですので、まだまだ若く元気な年代とは思いますが60歳定年や65歳卒業というのもちょうど良い年齢(逆に早いぐらい?)ではないかと思います。
 思うに、定年制度とはよく出来た制度だと思います。俗に言うサラリーマンは就職(一般に20歳過ぎぐらいでしょうか?)してから、定年で退職するまで約40年近くを“職場”(今どきは転職や独立もあるかと思います・・・)で過ごします。その間、職を通じた様々な出来事や人との出会いや別れ、仕事の内容が変わったり変わらなかったり、上司や部下が代わったり。家族が出来たり、別れたり、色々なことがあるかと思います。サラリーマンの場合、会社に所属し一旦60歳で定年となり卒業をしますが、周りを見ていますと60歳近くになってくると、経験による問題解決力や推測力はものすごいものを感じますが、人によっては柔軟性が欠けて頑固になり、思い込みも激しくなり、新しい仕事も覚え難くなり、また忘れっぽくなるように見えます(若干の失礼、ご容赦を)。
 思えば、機器・設備にも寿命と定年があるように思います。寿命は本当に壊れて使い物にならなくなるとき、定年はそろそろ次期システムに更新を考える頃合いのような気がします。まだ頑張って使えば使えるが、そろそろ卒業していただいて、新しいシステムにして新しい時代、新しい感性に合ったものに入れ替えていく、何事も新陳代謝だと思います。
 システム的用語では、故障率やMTBF、MTTR、稼働率という用語になるのでしょうか?学生時代の教科書的には、
・故障率とは、単位時間内に故障を起こす割合のこと。故障率=1/MTBF。
・MTBFとは、平均故障間隔(故障と故障の間の時間)。
・MTTRとは、平均修理時間(復旧・修理にかかる時間)。
・稼働率は、MTBF/(MTBF+MTTR)。
関連する用語としては、修復率、保全度、バスタブ曲線etc.etc。システムの信頼性に関しては、直列や並列などの計算問題が色々あったように思います(もう忘れましたが・・・)。
 バスタブ曲線では、システムの寿命に合わせバスタブ状に故障率が増減するグラフで、導入当初は故障率(初期不良)が高く、その後故障率が低い状態で安定し、ある一定時間以降は、また故障率が上がっていくというものでした。故障率が上がってくると更新を検討し、ご卒業いただき、そのときには今まで使い勝手の悪かった部分をよりよいものに変更し、新しい考え方も導入し、新しいシステムを作るものだと思います。システムの更新も人の定年もこうやって見てみると、同じ目的のような気がします。進歩がなくなれば何事も衰退します。衰退に至らないように定年や更新を行ってより良いものを作っていく、これが進化・進歩の本質のような気がします。
現在の人は、卒業後にはまだまだ長い時間があります。自由な時間があり、何事にも追われない、義務もない、場合によっては子供も自立し家族からも自由、開放感が味わえ充実した“第2幕”の始まりです。羨ましい思いと、今まで尽くしてくれた先輩方の想いを踏襲しつつ、新しい時代、ものづくりをやっていきたいと考えます。
 本コラムの前任者は、これからの自由な時間・何事にも追われない、義務からの開放感で悠々自適、逆に一層元気になったように感じます。前任者同様、よろしくお願いいたします。

(2018年7月専門誌掲載)

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