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子育ての悩み。

先日、夕方から保護者との面談がありました。5歳児クラスのお子さん。同じクラスの男の子から意地悪をされて保育園を辞めたい、違う保育園に行きたいという訴えが強くなった、ということで面談の希望がありました。
お子さんの気持ちをよく聞いて下さる、とても優しく常識的なお母さん。お子さんのお話の中で、一番気になるところはどこでしょうか?という問いかけから始まり、30分程度お母さんのお話を傾聴しました。一通り、聴いた後 同席している担任と共にご心配を掛けてしまい申し訳ございません、とお伝えした上で、日々の様子をこちらからもお伝えしました。お子さんのお話を聴く限り、一方的にされているように感じて心配が強いと思いますが、言い争いをしている時はどちらも引かず「でも、でも」と自分の気持ちを主張しています。客観的に見るとそうですがお子さん視点で主観的に見ると「意地悪されている」「邪魔してくる」ということになります。自分の見解をお母さんに伝えるのです。そんな時、お母さんはお子さんが心配だからいろいろとアドバイスすると思うのですが、一番大切な事は「感情に寄り添う」ことです。お子さんがプンスカ怒っているのなら、話を聴いた後、お母さんも一緒になって怒る。お子さんが悲しんでいるならお母さんも一緒に悲しむ。「大丈夫だよ」と伝えることや「気にしないでね」という言葉は大丈夫じゃなくて悩んでいるお子さんにとって感情に蓋をすることです。
例えば、お母さんが職場の出来事をご主人に話した時、気持ちに共感する前に「感じ方じゃない?」「~だったんじゃない?」と言ってきたらどう感じるでしょう。仕事休みたい、辞めたい、と言った時,心底困ったような表情で「そんなこと出来ないよ、生活あるし。どこの職場に行っても同じだよ」と言われたらどうでしょうか。もう話すのを諦めてしまうと思うのです。
5歳という年齢は、更に大きくなる、青虫がさなぎになってさなぎが蝶になる前の、そんな大きな変化が心の中で起こっています。甘えん坊になっている、というのは心の中の葛藤にどうやって向き合えばいいのか、まだ飛び立つ準備が出来ていないけれど、もう少しで大空(小学校)に行く、という漠然とした不安の中で大好きなお母さんのお腹に戻って安心したい、という気持ち(本人は自覚なくとも)の現れてあり、決して赤ちゃん返り、後退している、という事ではなく全てが育ちの姿です。そんな時、お母さんがする事は心配の気持ちから「もう大きいんだから」といって甘えさせ、を拒否するのではなく「おいで」といって両手を広げ、赤ちゃんの様に抱きしめてあげることです。抱きしめながら「大好きだよ」と伝えてあげる。もう5歳なのに、ではなくまだ5歳。同年代の子の育ちの姿と比べるのではなくその子の過去の姿と現在の姿を比べ、出来る様になったことに思いを馳せて下さい。様々な感情を抱けるようになったからこそ、悩むのであり、友だちや先生、人的環境の中で心いっぱいに関わりながら生活しているからこそ、衝突します。自分の感情しか味わえなかった頃から、周りにいる人たちにも同じように感情があり、様々な事を感じている事に気が付いていきます。お母さんに感情を伝えることが出来る、友だちに意見が言える、思いっきり泣く。どれをとっても素晴らしいと思います。しかしながら、お子さんの悩みは深刻です。園として保育士として努力が足りなかつた部分もあります。感受性が豊かなお子さんがどんな感情を抱くか、見通しを持って事前に声を掛ける、からかわれる様な場面があれば環境を整える、など改善できる事はなんだろう?職員と共に考えていきます。と伝えました。その後、お子さんのエピソードとして、以下のお話もお伝えしました。
クラスでゲームをすることになり、いつもお子さんと喧嘩してしまう男の子がゲームのルールを提案しました。いつもの、ルールじゃなく自分が知っているルールでやりたいと主張しましたが、いつものルールと違っています。保育士からも「みんなのルールで」と言われた彼は、荒れた状態で職員室に来ました。何に困っているの?と聞くと泣くのを辞めて話し始めてくれた彼。要約すると「前、通っていた所でやっていたルールの方が楽しいから皆にも教えてあげたいのに誰も聞いてくれない」という気持ちです。「そっか、わかってくれなくて辛いね。でも皆もいつものルールでやりたいんだよね。そんな時にはね、多数決っていう決め方があるんだよ。園長先生が皆に教えるから多数決で決めてみようよ」と言いました。彼は納得した様子でクラスまで戻りました。でもクラスの前でまた感情的になりました。「〇君が知っているルールの良さを伝えないとだから、落ち着いてわかるように話そう!」というと魔法の様に落ち着いてみんなの前に立ちました。私から多数決、という決め方を提案するとみんながいいね!といいました。まずは彼が「僕の知っているルール」を提案しました。その後、別の子がいつものルールを伝えました。多数決の結果、いつものルールになりました。彼は納得して小さな声で「いつものルールの後に僕のルールでもやってね」と言いました。するとお子さんが「〇くん、ありがとう。優しいね」と言いました。私はその時の〇ちゃんのありがとう、の美しさに心が揺れました。いつも喧嘩ばかりしているのに、この場面で心からのありがとうが伝えられる〇ちゃんは大丈夫だ、と思いました。ありがとう、は心に内在していなければ自発的に伝える事は出来ません。ありがとうは?と言われて,伝える事が出来ても、自分から「ありがとう」を伝える事はなかなか出来ません。〇ちゃんは心の中にありがとうが常にある。それは「ありがとう」を伝えてもらう豊かさを知っているからです。なぜ知っているのでしょうか?それはお母さんやお父さんが日々の中で、伝えてくれているからです。お母さん素晴らしいです。お父さんも素晴らしい。いつも本当にありがとうございます。
…話し始めた頃の不安そうな表情は消え去り、お母さんの表情はとても明るくなりました。90分の面談を終えてお子さんを迎えに行くお母さんの目には涙、お母さんを見つけたお子さんはこちらに元気に走ってきました。

子育ては悩みの連続です。みんな真剣だからです。愛しい皆さんと共にお子さんの育ちを感じる事が出来る保育士という職業が私はとても好きです。

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