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幻の光 美食家ダリのレストラン

信頼できる知り合いの幻冬舎の石原さんが、能登半島地震の輪島支援の為に「幻の光」が29年ぶりに特別上映されると告知をしていたので、渋谷まで自転車を飛ばして観に行く。「幻の光」( 1995年。監督: 是枝裕和 )。日本海の荒々しい黒い海と家々の黒い瓦が美しい。能登、輪島の当時の様子が見られた。きっと地震がある前まで、能登半島、輪島の光景は映画の中と大きな変化はそうもない、人々の生活が日々送られていたのではないかと思う。

そして現在は、復旧、復興支援も進められているようだけれど、被害の大きさもあって全く追いついていないそうで、「幻の光」の興行収益から諸経費を除いた全額を輪島市に届けるという。デジタルリマスターで29年ぶりの上映。江角マキコが演じた女性ゆみ子の心の中の混乱、どう解決していったらいいのか、、一見幸せそうな家族の情景と、身の置き所のない不在感に揺れたゆみ子の様子が、暗く荒々しい日本海をバックに写し出されていく。この刹那さと余韻は、映画館で観たからこそ。



ごくごくプライベートな思い出が蘇った「美食家ダリのレストラン」(スペイン。2023年。ダビッド・プジョル脚本・監督)。スペイン、カタルーニャ地方、カダケスが舞台。いっときは世界一のレストランと表された、「エル・ブジ」のシェフ(フェラン・アドリア)が映画の中の料理人のモデルと聞いては、観るしかないでしょう(自分だけの中で)!

カダケスが位置するスペインカタルーニャ地方はフランスから近いので、当時パリに住んでいてた私は、毎年夏は元カレとカダケスで3週間程過ごしていた(元カレとは、今でも毎夏パリで会う大親友。彼はその後、カダケスに家を買った)。朝早く荷物を詰め込んだカミオン(camion 小さいトラック)でパリを出て飛ばせば、夕方にはカダケスに着いたいた。友人たちと借りたアパートを拠点に、時間があれば、海辺のカフェでフランス人の友人らと戯れ、おしゃべり。仲のいい数人で、海岸から少し離れた岩場に繰り出す毎日。適当な時間に街で地元料理を食べて、泳いで潜って、カンカン照りの中日に焼けて、ヌードビーチではないけれど、女性はトップレス、男性は海水パンツも脱いで開放的に海辺で半日過ごして。夕方になると海から引き上げて。シャワーを浴びて少しオシャレをして、またカフェでおしゃべり。夜はふらふら夜の街をぶらついて、遅い夕食にありつき、、バカンスをめいいっぱい楽しんだ若かりしあの頃。

と、今から20数年以上前、私は5、6回くらい、毎夏カダケスでバカンスを過ごしていた。その時からカダケスの隣街のロザスのレストラン、「エル・ブジ」の名は響き渡っていた。誰しもが行きたい憧れの世界的に有名なレストランが「エル・ブジ」だった。ある日、いつものようにカフェでおしゃべりをしてから友人数人で岩場へ移動。半日そこで過ごしていた中、「エル・ブジ」に行きたいね、と話は今話題の「エル・ブジ」に。元カレが、「エル・ブジ」に電話して、キャンセルがあるか聞いてみよう、と岩場から携帯で電話してみると、なんと、「今晩キャンセルが出たので今晩どうぞ」と、突然の驚きの又とないチャンスが目の前に!私と元カレは大急ぎで友人を岩場に残してアパートに帰りシャワーを浴びて、いつもよりもう少しオシャレをして、カダケスから元カレの運転するスクーターでひと山越えてひた走り、プライベートビーチのような海辺に薄暗くたたずむ「エル・ブジ」へたどり着いた。

ゆったりとした落ち着いた誰かの邸宅のような趣の「エル・ブリ」。料理は想像以上の愉快さと目にも舌にも驚きの、小皿が30皿くらいあった印象(実際は当時のメニューを見ると25皿か)。例のエスプーマ(泡)の一品はシュワーと口の中であっという間にの溶けてしまったのを覚えている。見た目が斬新で驚かせる料理の数々、そして見た目だけでなく、味が飛び切りどれも美味しかったことで、更に気持ちが高揚。帰りのスクーターで元カレの背中にしがみつきながら「エル・ブリ」の味を反芻して心が小踊りしたことをよく覚えている。


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伝票
2003年8月19日に行ったのだった
私が1杯しかワインを飲んでいない。元彼は飲めるのに、あまり飲まない人だった。帰りの暗い山道のスクーターの運転もあったか

ごくごくプライベートな思い出が蘇り、そして翌年も、翌々年もカダケスの海の岩場から電話しても、もうキャンセルは出なかった。そうしていつしか私たちのアムールにも終止符がついた。

映画「美食家ダリのレストラン」から、「エル・ブジ」の美味しさのインパクトを思い出し、ごくごくプライベートな思い出も自然と湧いて出てきた。ダリと「エル・ブジ」は同時代には存在していなかったけれど、ある種の真実と架空の映画のストーリーが、登場人物のありあり感もあり十分楽しめた(女の子達が綺麗でかわいい。彼女たちの海辺での服装もリアルで素敵にチャーミング)。ヨーロッパのスペインの、懐の大きい豊かさが実感できる作品だった。


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