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コロナ考2 嗚呼、医療難民

家族がコロナウィルスに感染すると、何が一番大変だろうか。


一ツ屋の下で病人だけ隔離させる生活を十日も継続しないといけないこと?

みんな一気に濃厚接触者で、誰も生活必需品を買い出しに行けないこと?


ノン、ノン。


無論それらも大なり小なりあるのだが、自粛&リモート生活も三年目ともなると、どうすれば狭い居住空間で住み分けが出来るか、互いの動線がぶつからずに済むか、TVや雑誌等でアイデアや議論が出尽くした感があるし、ネットスーパーやウーバーイーツ、アマゾンなど、十分すぎるほど環境も整っている。


そんな中、今回の第七波で初めて感染した我が家がとことん苦労したのは、「発熱外来の予約が取れないこと」。最も初歩的・基本的なところなのだが、これに尽きた。


発熱1日目、39℃の熱のある子供を迎えに行き、後部座席に乗せて自宅に帰りつくまでの数時間の間、私は助手席で、スマホから東京都発熱相談センターにずっと電話をかけ続けた。

この番号は24時間対応らしいのだが、フリーダイヤルでもなんでもなく、03から始まる普通の電話番号。混雑時対応のため、東京都福祉保健局のHPには、A、B、Cの三本の番号が記載されている。その最初のAにかけるのだけれど、「繋がった!」と思ったら、録音メッセージだったらしく、間髪入れずにこう切り返された。

「この番号は、ただいま大変混雑しております。このまましばらくお待ちいただくか、しばらく経ってからおかけ直しください。尚、Bでも電話を受け付けております」

言われるがまま忍耐強く数分待ってみたが、延々とメッセージが繰り返されるだけなので、あきらめてBにかけてみる。

しかし、Bでも同様に全く繋がる気配は皆無で、メッセージの最後でCの番号をお薦めされるところは一緒。

もう悪い予感しかしなかったが、念のためCにもかけると、やっぱり録音対応。

血も涙もない平坦な声で、

「尚、お電話はAでも受け付けております」

と、期待通りの応えが返ってきた。

永遠のトライアングル!?ああ、これがお役所仕事ってやつ?たらい回しってやつね!?

かかりつけ医の午後の診療が始まっていたので、連絡してみるが、やはり本日分の診療予約はとっくに終わっているらしい。「でも高熱なんです・・・」と言ったところで、通常時みたいに「今すぐ来てください」という展開にはならない。「他の病院に連絡してみてください・・・」と。

途中渋滞に捉まり、家に辿り着いたのは19時を回ったこともあり、この日の受診は諦めるしかなかった。


その夜は本当に怖かった。

家に着くなり、子供の熱は40℃近くまで上がっていた。

慌ててPCを開き、コロナ疑いでも頓服(熱さまし)を与えていいのか調べた。

情報を精査する余裕もなかったが、いくつかの医師監修の記事および厚労省のサイトで、

「アセトアミノフェン系の解熱鎮痛剤であれば服用可能」

とあったので、たまたま過去の診察で子供用に処方されていた、去年のカロナール300を、清水の舞台から飛び降りるような覚悟で与えることにした。

ちなみに、コロナ感染疑い時およびワクチン接種による副反応時の発熱には、市販の薬でも対応可能らしい。子供用だと、小児用バファリンやバファリンルナなどが相当するので、今後のためにも常備しておこうと思った。

その間、夫は今日明日中で受診できる医院を紹介してもらおうと、ずっと発熱センターABC、および在住区の発熱センターに電話をかけ続けていたが、結局すべて繋がることは無かった。そうこうするうちに、子供が穏やかに眠りに落ちたので、「急変したら、迷わず救急車を呼ぼう」ということで、二親も就寝。

ところが、実は夜中に、軽い急変を迎えていた(前日記参照)。

午前三時ごろ、下腹部がぐるぐると痛み、転げまわるほど苦しんだという。痛みに耐えながらトイレに立ったら、排便があった。その間、両親ともに熟睡して、全く気付かずにいた。親に知らせなかったのは、トイレを済ませたら痛みが潮のように引いたからだそうだ。翌日も二度、腹痛を伴う下痢があり、排便と比例して熱も下がっていった。

発熱2日目も私は、朝から夕に渡ってずっと電話に張り付いて、近隣の発熱外来のある病院に連絡を取り続けた。

時報で確認しながら午前8時50分の受付開始時刻ぴったりに発熱外来専門番号にかけたり、午前9時ジャストに予約専用ネットにアクセスすると、繋がることは繋がる。だが何故だか、「本日分の予約は終了しました」と耳を疑うメッセージが流れてくるのだ。もしかしてまだ開始されていないの?と思って、30秒後、1分後にかけ直してみても、結果は同じ。こうなりゃ数打ちゃ当たれだとばかりに二十件近くの医院・診療所に電話したが、無情にも断られ続けた。

一体、何が起こっているのだ?こんな状態で、一体誰なら予約を取れるというのか?一般庶民は、まさか、発熱した子供を連れて、診療所のドア前に列を作れということなのか?

ある病院では「PCR検査キットが底をついた」と断られた。その病院から紹介された小児科では、「小さい子優先なので、余所を当たってください(うちの子は中学生)」と冷たく突き放された。

また、比較的大きな総合病院では、やっと繋がった電話で「今日の予約枠は終わった」と言われたので、電話が繋がらないのにどうやって予約を取るのかと食い下がったら、「繋がるまでかけ続けるしかない」と根性論のような絶望的な答えが返ってきた。いや、繋がったら「もう終わり」って言われてんじゃん?ていうか、もう終わりだから、繋がったんだよね。さすがに頭にきて、「受付開始時刻に直接病院に連れて行くのは駄目なのか?」と思い切って訊くと、「直接来られて並ばれるのは、感染拡大を防ぐため認めておりません」と、ここだけもっともらしい答え。1ミリも親身な対応を取る様子もなく、苦し紛れに正論や一般論で言い逃れしているようにしか見えない。果たしてこの担当者はどこまで現状を理解しているのだろうと首をかしげるしかない。これは医療崩壊じゃないのか。病床数が確保されないことだけが医療崩壊ではないはずで、治療を受けるべき人が適切な医療を受けられないこと全般を指して崩壊と呼ぶのだろう、それならば、もう既に目の前で起きている。

パンデミックと呼ばれるようになってから二年以上経過しても、予想を超える短期間で感染が拡大すると、すぐに無力化してしまうほど、我が国の医療システムは脆弱なままだという事実を、図らずも目の当たりにした。


そんな医療難民となった私たち一家に、一筋の光が差すのは次の話。

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