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代表取締役の住所登記 ネット非公開(2)

神奈川県横浜市戸塚区の女性ライダー弁護士西村紀子です。

 一人の弁護士として、一人のライダーとして、一人の人間として、日々感じたり観察したりしたことで、皆様のお役に立つと思えることを、発信していきます。

 本日は、一人の弁護士として、商業登記についてつぶやきます。

 前回金曜日に続き、2月16日付日本経済新聞朝刊記事「社長の住所、ネット非開示 登記情報巡り法務省」について、記述していきます。

 同記事でいう、ネットで法人登記を閲覧するサービスとは、「登記情報提供サービス」のことを言います。以下のサービスです。

 今年の9月1日からは、このサービスの閲覧時に代表取締役の住所は非開示にする、というのが記事の趣旨です。

 そして、記事には、この非開示について「弁護士からは「計画倒産などの足取りをつかみにくくなる」と異論もあった」とあります。

 この記事以外にも、弁護士の反対意見としては、民事訴訟法上の裁判管轄の決定及び送達の場面で、代表者の住所が重要な役割を果たす場合がある(民事訴訟法4条4項、103条1項)という意見がありました。

 特に集団的な消費者被害の事案では被害発生時点において会社の営業所等は存在せず,責任追及を行うには代表者住所を手がかりとせざるを得ない場合があるのです。
 さらに、代表者に対する責任追及が必要となる事案においては、権利保全のため一刻を争う場合もあり、そのような場合に代表者の住所は重要な情報となります。
 その他にも、与信管理や反社チェックの際にも重要な情報として実務上参照されています。(第一法規刊 会社の法律Q&A「代表取締役の住所の登記と個人のプライバシー保護の問題」より)

 このように、インターネット上のオンラインによる情報の取得について,特に弁護士等による迅速な情報収集の必要性があるのも事実です。

 私自身、損害賠償請求事件で、相手の会社が名ばかりの実態のない会社であったときには、代表者個人の住所を調べた上で、代表者個人に対して、責任追及のために提訴したこともあります。
 弁護士らが述べる反対意見ももっともな点もあります。

  この点、日弁連(日本弁護士連合会)会長も「インターネットによる個人住所の公開の弊害を考慮すれば、今回の措置は必要である。しかし、同サービスによる代表者住所の閲覧は、消費者被害の救済を含む弁護士の活動にとって必要性は高く、今後、弁護士が、職務上必要な場合に、同サービスによって、代表者住所を閲覧することを可能とするシステムの対応を含めた措置が実現するように、当連合会として、関係諸機関に働きかけをしていく所存である。」と声明の中で指摘していました。(平成31年1月16日付、当時の菊地裕太郎会長の声明)

 私自身も、現状のネットで閲覧ができる状況では、代表取締役のプライバシーの問題は大きいと思いますので、社長さん達の生活の平穏のためにも、今回の改正には全面的に賛成です。
 ただ、前記の消費者事件や損害賠償請求事件で必要な場合には、代表取締役の住所を速やかに把握して法的措置に動く必要がある場合もあります。
 つまり社長さん達にとっても、他社の代表取締役の責任を問う必要があり、代表取締役の住所をスピーディに把握する必要がある、というケースも想定されます。
 これらのバランスを考えますと、やはり、弁護士については、代表取締役の住所の閲覧をネットでも可能とする方法を検討する必要があるのではないかと想います。
(終わり)

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