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急かす言葉を口にしたくなくて

東京ドームシティを白山通りを隔てて向かい側にドン・キホーテがある。
その裏手の水道橋グランドホテル前にはちょっとした階段があって、東大方面に出る近道となっている。

上り切った先は多くのマンションが林立する住宅街となっていて、階段を上がる親子連れは、おそらくそのどこかに帰っていくと思われる。
昨日も階段を上る親子連れを見かけた。
父親、母親と思しき2人と、年長さんくらいの女の子、それに、2歳くらいの男の子。
10mは先を歩いていたと思ったのに、男の子と男性に追いついてしまった。
女の子と女性はもうとうに階段を上り切り、近くのマンションに入っていった。
男の子はキャッキャと笑いながら階段のわきにあるスロープをてっぺんまで上った後、ジグザグに階段を降りて、今度は反対側のスロープを上がっていく。
覚束ない足どりで。
男性はベビーカーを抱えたまま、ずっと男の子の後を追っていた。
女の子と女性は近所のスーパーの袋を下げていたから、歩いたのは距離にすればわずかだったのだろう。
歩き足りなかったのか、いつもその階段ではしばらくそう過ごすのか。
男性も微笑みながら子どもに付き合っていた。

子どもたちが小さかったころ、私にもそんな時間があった。
子どもたちは三人三様に私にそんなゆったりした時間をくれた。
散歩にしろ、絵本を読む時間にしろ、今思えば、豊かな楽しい時間だった。
もちろんそのときは「早く!」とか「いい加減にして」と何度も思っただろうが、よく覚えていない。
よく覚えていないが、幼い子どもを急かすような、そんな言葉は直接言いたくはなかったし、実際口にしたことはなかったような気がする。
急いでほしいときには、「もうすぐ『忍たま乱太郎の時間』だよ」とか「買ったお肉が大変」とか、子どものわかる言葉で、子どもが自分で潮時を判断するように仕向けていたと思う。
まぁ毎回そんな言葉を言われると、子どもも「やめなきゃいけない時間だ」と察していただろうから、もしかしたら子どもにとっては「早く……!」と同じで、それもちょっとかわいそうだったが。
もちろん、それでも固執する場合もあって、そういう場合はきっぱり「もう帰る時間だよ」「終わり」と告げた。
きちんと伝えればわかってくれた。
ただ、散歩の場合は、子どもが帰ると言い出してからなお、時間がかかるのであるが。

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