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『lollypop shrine maiden unchain 』 第一章 四節【仮】


 彼女にワタシは力を与えた。カズネの手にはマイリトルポニーとかチュッパチャプスとか、そんな感じのカラフルペイントが施されたチェンソーが握られた。
「いくよ!」
「やっちまえ!」
カズネは校舎に植えられた林檎の木を思いっきりぶった斬る。斃れる幹から赤い汁が噴き出す。青い芝や白い校舎、私たちを真っ赤に染める。カズネは笑った。今まで一番の表情で。ワタシは痛快だと思った。頸木。ブッ飛ばす瞬間コレが最高なんだ。だから、出てこい。かみよ。

 アマクサが私達の背後から声を掛ける。「僕の用意した完璧なシナリオはこうだ。物怪や付喪神、氏神に八百万の神。彼らに悪魔を取り憑けて君に祓ってもらう。それこそ美しい美談だということさ」
 神は笑いながら言った。唾棄すべき本物の悪。そういうものは得てして自らの善性に何の疑いも無く、他を道具の様に弄んで自らの正しさの証明に利用するものだ。そしてそれがこの国に存在する元々の神を否定する多神教の神だった…。と。私は言い知れぬ悪意と憎悪を、目の前で戯けて見せる神を睨みながら芯の底からその感情が湧き上がった。
「誰かが死ねば誰かの養分となる。死は喪失だけではない。死ぬことによって犠牲になることによって地に帰り他の誰かの養分となる訳だ。その循環。美しいと思わんかね?」
 アマクサは形を変化させ白くドロドロとした羽衣を身に纏い得体の知れない神へと姿を変えた。

 私は俯きながら左手で眼を覆い隠すと、ゆっくりと、そう、ゆっくりと声が湧き出してきた「ハハハ……ヒヒヒ……フッ……フヘッ……フフォ……ホホホホホッ……ハァーッハハハッ!! ひゃっはっはっはー! ハハハハッ‼︎」
 両目の覆いを払うと同時に、両の手を肩甲骨ギリギリまで思いっきり開き翼の様に見立てると、視線を奴に向け、同時に脳天から足先まで身体中のありとあらゆるエネルギーを霊力に還元し、神々しい白く美しく光り輝く円輪を背中に、光はグリフィンの翼の様に円輪内側から突き出し、彼女を中心に半径3メートルの同心円上に薄く輝くヴェールが張られ、ヴェールの内側には煌めく光のオーブ、空気は蜃気楼の様に震え歪み、空気中に漂う塵同士が近づくとビシビシっと音を立てて青い放電流の糸を作った。「アンタはこの私の一番目に相応しい……、相応しい! 最高のクズだ! お前の背負う十字架ごと破魔矢で串刺しにして、今鏡の荘厳な祭壇に首から上を剥いだ亡骸を供えて弔ってやろうじゃないか‼︎」彼女の眼は天の川銀河の様に種々の煌めきを放ち、ギンギンに据わった殺意を表現していた。

「今鏡家の人間はヤバい奴らの集まりなんだ。頼まれればどんな神でも容赦なく祓おうとする。それが神道以外の存在だとしても…。だ」
 彼女はそれを聞いて流石に引いた。
「って事は、アタシも対象になったら、あんな風にバキバキの霊圧でぶっころされる可能性があったって訳?」彼女は悪寒を覚えたのか顔を惚けた様に顔を歪ませながら額から汗を垂らした。
「そういう訳でもないだろう。彼女は別の依頼で来た様だから」彼は冷めた顔でそう言うと、彼女を案ずる様に口角を上げた。「今鏡の連中はどんな依頼でも引き受けるってタイプの奴らじゃあないんだ。目算で自分達が出張らないとならないケースの場合、かつ、自分達が弔った存在の格を気にする。今鏡の誉れにならないと判断されれば祈祷依頼を引き受ける訳だ」光り輝く彼女を見据えると、「噂から、もっと化け物みたいな奴だと思ってたんだがな。見れば華奢なお嬢様だ。スクールカウンセラーとか言いながら学園中に探りを入れてる時でさえ圧を感じさせなかった。全くもって天晴れだ。流石は今鏡家といったところなんだろうな」
「なんかやけに褒めるじゃん…。アレに気でもあんの?」ムスッと表情を変えると、プイっと顔を背けてみせた。
「妬くなよ。俺はあいつが味方で良かったな、って話をしてるんだ。あのエネルギーは化け物のソレだ。あの力で立ち向かわれたら、一心同体で迎え討とうとも一瞬で消し炭だ。その力が今は俺達の仇に向いている。その奇跡に感動してるんだ」体育館の中央に逆巻く光の渦を見ながら言った。
「妬いてるとかじゃないから!」
「まぁお前もアイツと話してて分かるとこがあっただろう。霊気は隠しているが、内面の複雑さを隠す様な事はしていなかった。それは、絶対的な自信の表れと、際立った悪意がない事の証明だ。何かを護る為に彼ら……彼女は動く。その為に何かを屠る。成仏させるんだ。結局、やってることは全くもって俺と同じだって事だ。この光景を目の当たりにする事でその事実にようやく気づけたんだ。なんか素敵だろ」穏やかな表情をして、はにかんでみせた。

 全身を弓で射られハリセンボンの様に無惨な姿となった鬼に向かい彼は刀を構え八艘跳び上がり首上まで飛び上がりそのまま直線落下し鬼の首を切り付けた。「許せ」そう言うと、直下脚元まで降下し床板を蹴り上げ鬼の胸筋と胸骨と狭間へ向け飛び跳ね切先を突き付けた。ズブリ切先が差し込まれると躊躇なく柄の右掌を使い押し込んで食い込ませていく「成仏しておくれ」刀身を勢いよく引き抜くとその勢いで体制崩し屈み込んだ鬼の肩掴み跳ねてポーンと鬼の頭上高く飛び上がり、鬼の頚椎目掛け大きく振り被り直下横一文字にコマの様に回転し切り付けた。鬼の首は勿論、屈んだ膝下から床板まで綺麗に切り付けられた。

 ズプズプに蕩け出した白い体液を撒き散らしながらクトゥルフの神と結合したアマクサは喘ぎ咽び泣いた。
 この機を逃すまい! ユウリとカズネは向き合う様に白と黒の梓弓を引くと煌めく途轍もないエネルギーを身に纏い周囲の空間は歪み彼女達の瞳と同じくらいの光を発しながら輝き煌めいた。銀河と悠久の調べを奏でるみたいに美しく歪んでいた。
 二人は息を合わせて弦から指を離すとソレに向かい矢が飛び貫く。容赦なく。神は神に平伏す。神を舐めるな。神の喘ぎ声が木霊する。どうでもよい。私達は容赦なく何度も何度も弓を放つ。何度も何度も朽ち果てるまで。先に手を伸ばし実を齧ったのはオマエなのだから。木が朽ちる様に白き怪物はドロドロと融解しその場に溶け落ちた。晴れ渡る青空に虹が掛かる。



 ワタシは学園を背にしこの街を後にした。カズネとはまた会う事になるだろう。その時を思いながら新たな神を摘みに向かった。


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