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ヴィンテージ:11

「絵描かないの」
「描かないけど」
「ここじゃ描きにくいとか」
「そんなんじゃないよ。家で描く気にならないだけ」
「そっか」
小窓から街路を見てボンヤリ人の流れを追っている。飛香がそっけなさそうに俺ん家で黄昏れてるのにも慣れてきた。彼女は何食わぬ顔でここから学校へ戻り絵の続きを描く日々を送っていた。
「お茶でも飲む?」
「今はいらない。というか、お昼食べたら?昨日焼きそば買っといたから」
「お前食わないだろ?」
「うん。お腹へってないし」
「なら作らないから。生麺一食余らせると食わないで駄目にするだけだし」
「一人暮らしってせりふ言うじゃん」
「ちまちまやってないとあっという間に追い出されるんだぞ」
「そん時は私も路頭に迷うのか」
「そゆこと」
汗かいたグラスの麦茶をすすりながら飛香の小窓の縁に腰掛ける横顔をなんとなく模写した。素材に使えるかもしれない、となんとなく思ったから。

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