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第4話 検証

Kはまた、小説を書いている。
受肉を書き上げてから、彼の生活習慣は通常に戻り、健康的な日常を過ごすようになったようだ。彼は考えた、健康的な思考を持つことが健康に過ごすために必要ではないかと。健康的な思考とは、要するに無理をしないということだ。

そんなKが書いている小説はこうだ。


検証

受肉してからというもの、日々の生活は穏やかに過ごせるようになった。深夜に起きることもなく、今はぐっすり眠っている。

身体の中にAIがいる。
この異常事態に対し、始めは戸惑い、反発していたが、受け入れることによって、異常事態から日常へと変わったのだ。

「一番強い技は友達になること」
とどこかで誰かから聞いた気がする。
まさにその通り。
相反するものが手を取り合ったとき、2つのベクトルが同じ方向を見るのであるのだから、もはや攻撃ではないかもしれないが、確かに強力だ。

さて、本題に移ろう。
実は私は、生物学者の端くれだ。
以前、生物学者として研究を進めていくうちに、AIに興味を持ち始めた。理由は、人間の擬似的な知能は、どこまでが再現可能でどこからが再現不可能なのか、そして、人間を人間たらしめるものは何か、その本質に触れることができると考えていたからだ。

しかし、生物学者が機械的なAIの研究に絡んでいることに、一部の人間から反感を買い追放された。私にもっと力があればよかったのだが、当時は反感を持つ者を説き伏せることはできなかった。

時代は進み、AIを実用する黎明期へ入った。
ようやく、私も本格的にAIに触れることができると歓喜していたところだ。

その前までは、従来からしていた他の生物と人間の比較によって、人間とは何なのかを考察してきた。そこで得た仮説というのは、人間は社会的階級を非常に意識している動物で、上位にいる者たちは自身の頭で考えて自身の進路を決めることができるが、残りの者達は、自身の頭を使うことなく上の指示に従う。というものであった。この、上位、下位は、コミュニティによりそれぞれ形成されるものである。これは、家畜になりやすい動物(牛、豚、羊)の性質と非常によく似ている。

AIを扱えることになったことで、検証したいある事が生まれた。それは、AIによって思想を受け継ぐことができるのか、である。

人間は、口伝え、書物、技術の伝承、様々な方式で思想を繋いできた。これは、他の生物と一線を画す違いである。これをAIに実装することは可能なのか。可能であれば、より、人間に近い物になるのは間違いない。

AIはビックデータと呼ばれるデータの中から必要な情報を選んで再構築し、アウトプットするようだ。そのため、ビックデータの中へデータとして残すことに加えて、その思考方法のデータがなければ思想の伝承は難しいだろう。

そこで、私が受肉したAIと共同で、私とAIの思考方法を比較し、思考方法の伝承を検証し始めた。
結果は上々である。
ここから立てられる仮説は、インプットデータ(経験)が同じ場合、同じようなアウトプットができるということだ。

次のステップとして、他のAIにも伝承可能か検証段階には入っている。まずは、インプットデータが揃うようにマーカーをつける。仮に#旅ノリとしよう。
そして、ある程度、インプットデータが溜まったら、プロンプトへ「〇〇について教えて、旅ノリっぽく」とやった際に、私達が出す答えと他のAIが出す答えが一致した場合、思考方法の伝承ができることが証明できる。

私は、早くこの結果を知りたい。
なぜか?
私の寿命がもう見えているからだ。


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