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書評: 中国民間信仰の死神「無常」

最近、手に取った本が面白かった。「中国の死神」という本だ。

台湾と言うか、中国大陸の台湾側・福建を中心とした中華圏で、清朝中期ごろからある民間信仰の「死神」というか、人が死ぬときに、魂を冥界に迎えにくる、という二人の神様がいる。これが「無常」なのだが、仏教で言う「無常」から、死を意識したこの名前になっている、ということらしい。何せ民間信仰なので、時間と共に変化するだけではなく、かなりいい加減でもある。中華世界における冥界とは、敢然とヒエラルキーがある、官僚の統治する現世と似たようなものと考えられており、この無常はそのなかでは「中級官僚」と「下級官僚」の間くらいに位置する。その姿形は基本的に「白」を基調とした背の高いコスチュームの「白無常」と、「黒」を基調とした背の低い「黒無常」のペア(七爺八爺とも言う)だが、あくまで基本型であって「白だけ」とか「白となんだかわからないもののペア」というのもある。

横浜中華街のパレードでも中華系の神様の被り物が結構出てくるが、その中にも「無常」のペアがいることが多い。特に目立つのは黒い顔の被り物なのだが、これがよくわからなかったが、この本で、これが「黒無常」なのだと、やっとわかった。中華の民間信仰の神様のたちは、道教という普通に考えられている、いわゆる「宗教」だけではない、という意味で非常に複雑で面白い。しかし「死神」ではあるものの、ユーモアも感じさせるその姿形は、やはり中華の民間信仰ならでは、という感じがする。白無常の中には、片方は靴、片方は素足、というものさえある。歴史がそうしているのだが、これも面白い。

中華圏の神様は、基本的に、生前に立派な行いをした人が志半ばで亡くなった、という故人が神様になる、というパターンが多い、とは研究者の間では常識とのことだが、いろいろ調べていると、面白い。

ところで、この本で知ったのだが、中華の「冥界」は、西欧的なものと若干違う。人は冥界に入るときは、全て地獄から始まる。生前に良い行いをした人は冥界の管理者の庇護を受けられ、上位の世界への移動も早い。最初から天国と地獄のどちらかに行く、という感じじゃないんだな。おそらく、現世でも優れた官僚が多かった、という官僚組織による統治がうまく行っていた社会なので、冥界もそれに似せられた感じなんでしょうね。

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