大企業の経験は起業に生きる。外で通用するプロへの道
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大企業の経験は起業に生きる。外で通用するプロへの道

佐々木紀彦

40代だからといってスタートアップへの転職や、起業への挑戦を諦めることはない。アラフォー世代は今、自分の人生を最高のものに変えられる転換点に立っている――。

NewsPicksの初代編集長で2021年にPIVOTを創業し、『起業のすすめ さよなら、サラリーマン』を出版した42歳の佐々木紀彦氏と、リンクアンドモチベーションの取締役を退任し、2020年にナレッジワークを創業した同じく42歳の麻野耕司氏が、アラフォー起業について語り合う。3連載企画の2本目。

(文:田村朋美、写真:小池大介)

VC経由での優秀人材の転職が増加

佐々木 前回の記事で、ヒト・モノ・カネの“ヒト”の部分で、大企業や外資系企業からスタートアップに転職する優秀な人材が増えたとおっしゃっていました。

実際、採用のプロである麻野さんから見ても、増えている実感はありますか?

麻野 10年前に比べると、ものすごく増えています。

大企業や外資系企業で一定のキャリアを築いた方々は転職の仕方がうまくて、VC(ベンチャーキャピタル)に「どのスタートアップが成長しそうか」を聞いて、その中からビジョンが合うスタートアップに転職したりします。

佐々木 VCなら成長する・しないをある程度予測できるし、成長しそうな自分の投資先に人材を紹介したい。これをうまく活用しているわけですね。

麻野 そうです。

アメリカには、投資先に人材を紹介するために、リクルーターを大量に雇用しているVCもあるほどです。転職を考える人は伸びるスタートアップを知りたいし、VCは伸びているスタートアップに人材を送りたい。win-winなんですよ。

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実は、ナレッジワークのCTOも、VCからの紹介でビジョンがマッチした僕との起業を選んでくれました。

点と点を線にするスキル

佐々木 VCに成長しそうなスタートアップを聞いて能動的に行動できる人がいる一方で、自分の何のスキルがスタートアップに生きるかわからないと悩む大企業の人も少なくないと思います。

一部上場企業で長年働いた麻野さんは、どんな経験が生きていますか?

麻野 僕の場合は総合力ですね。20年間、大企業でジョブローテーションをさせてもらったから、ビジネスの“つながり”がわかりました。

もし、10年前に起業していたら採用と営業しか知らないから成功確率は今の10分の1だったと思うし、20年前なら採用しか知らないから成功確率は今の100分の1だったと思います。

佐々木 なるほど、欧米型のジョブ型雇用もいいけれど、総合職として大企業に入社し、20〜30年いろんな経験を積むのは悪くない。

経営という大きな営みの中で、ブラックボックスが少なければ少ないほどいいですからね。

麻野 そうなんですよね。

事業と一言で言っても、「競合がアプローチできていない顧客ニーズを理解し、顧客に価値提供するための商品を作り、営業活動をして提供し、継続的に利用してもらうために支援する」というさまざまな要素があります。

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さらに、事業の裏には組織と財務があって、組織の中には採用や風土、制度があり、財務の中には資金調達や投資などがある。

ビジネスは、こうした複雑な要素の集合体だから、一定の経験がないと点と点が線になりません。でも大企業でいろんな経験を積めたから、ある程度つなぎ合わせることができています。

大企業の仕組みを学ぶメリット

麻野 加えて、大企業で「成功した仕組み」を学べたのは僕にとってプラスでした。

前職でスタートアップのコンサルティングをしていましたが、特に若い人が起業後に苦労していたのが、仕上がりのイメージをできないことだったんですね。

成功した会社での経験がないと、事業や組織の成功をイメージできないから、「3ヶ月でいいからサイバーエージェントやリクルートでインターンをしたい」と言う学生起業家は何人もいました。

佐々木 アイデアや技術があっても、経験がないと事業や組織をどう作っていけばいいかイメージできない。

麻野 そうなんです。僕の場合、前職で約200人をマネジメントしていたから、その規模まではイメージができます。

10人、20人規模のうちは、全員が属人的に仕事をしても成果を出せますが、200人規模になるとそうはいかない。

経験のない新入社員が入ってきても成果を出すためには何を整えるべきかがわかるのは、一定の成功を収めた大企業にいたからだと思っています。

佐々木さんもNewsPicksで数十億円のビジネスを作ったから、そこまでのイメージはつきますよね。

佐々木 たしかにそうですね。組織については学ぶことだらけですが。。。

ある一定規模の組織とサービス作りを最初からイメージできるのは、経験を積んできたアラフォー起業家の強みかもしれません。

以前、楽天の三木谷浩史さんが、「日本にはゼロイチや1→10の起業家はいるけれど、100を1万にできる起業家が少ない」と話していました。

日本に欠けているのは、100を1万、さらには100万にして、メガベンチャーを創れる起業家。大企業で大規模な組織やビジネスを経験した起業家が増えれば、日本の未来はもっと良くなるでしょうね。

個人を縛り付ける、大企業の“洗脳”

佐々木 大企業からスタートアップへの転職が増えたとはいえ、大企業で働く30代40代には、会社に不満があっても仕事が面白くなくても、転職を考えない人はたくさんいると思います。

それは、なぜだと思いますか?

麻野 日本企業の“外を見せず、内に閉じ込める”よくできた仕組みがあるからだと思います。

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大企業に新卒で入社すると、会社の昇進の階段を見せられて、ここから外れたらダメだという雰囲気の中で、階段を登り続けることになります。すると、ある一定の年齢になると降りられなくなるんです。

社内の人間関係もできあがっているし、せっかく登った階段から外れるのはもったいない。だから、仕事は楽しくなくてもここにいるのが安全だ、と。

それに、会社を辞めて裏切り者扱いされたら、築き上げた人間関係が壊れると思うから怖いですよね。

佐々木 なるほど、外を見せないことで、多くの人がある意味の洗脳状態になってしまいますよね。外に一歩出たら洗脳から解き放たれると思いますが、築き上げたものがあるから出られない。たしかにすごい仕組みです。

一方で、今はSNSから生の情報がどんどん入ってくるので、今までのようには自己肯定感を保てなくなってきていますよね。

海外で活躍している同級生や、スタートアップでキラキラしている友達の情報が入ってくると、隣の芝生が青く見えすぎてしまう。

ただし、スタートアップも本当にピンキリです。大企業礼賛にも、スタートアップ礼賛にも偏りすぎずに、「自分に会った場所はどこなのか」をよりフラットに考えられるようになればいいなと。

そのためにも、リアルなスタートアップや起業についての情報が必要だと思い、新著の『起業のすすめ』に自らの体験と知見を詰め込みました。

麻野 人間の幸せは相対的に決まりますからね。

スラム街と高級住宅街が分かれているとお互い幸せに暮らせますが、スラム街の人がSNSで高級住宅街の人たちの暮らしを知ったら、自分たちは不幸なんだと認識するようになりますから。

佐々木 今までは、ある程度社内で「この会社で働く自分たちは幸せだ」という情報操作ができたかも知れませんが、SNSが広く浸透した社会では、もう通用しなくなりますね。

企業側は情報を統制して従業員の幸福感を醸成しようとするのではなく、世の中のすべてを知ってもらった上で、選んでもらえるようなコミュニケーションへとシフトする必要がありますね。

麻野 まさに、本当に良い組織は、世の中のすべてを見てもらった上で選んでもらうマインドを持つリーダーの下でしか、作れないと思うんです。

トヨタが公開した豊田章男氏の講演内容が素晴らしくて、こうおっしゃっていました。

「トヨタの看板がなくても、外で勝負できるプロを目指してください」

「みなさんは、自分のために、自分を磨き続けてください」

「それでもトヨタで働きたいと、心から思ってもらえる環境を作り上げていく」

中に閉じ込めて逃さないのではなく、こういった心持ちに変えていかないと、ブランド力のある大企業だったとしても、いずれ立ち行かなくなるでしょう。

(第3回「創業1年半で4人が育休取得。アラフォー起業家だからできること」に続く)


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佐々木紀彦
1979年生まれ。東洋経済オンライン編集長、NewsPicks創刊編集長などを経て、2021年にPIVOTを創業。現在、経済コンテンツサービスを準備中。著書に『日本3.0』『米国製エリートは本当にすごいのか?』『編集思考』など。最新刊に『起業のすすめ さよなら、サラリーマン』