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【東大理転激闘記3】授業初日編


これは小学四年生で法学部に憧れるほど文系として生きてきた人間が
東大に入って理転したお話の続きです。

0. ここまでのおさらい

 これまでの3つの記事では理転を決めるまでの話、夏休みにしていた準備の話、授業が始まる前日にあった内定者ガイダンスの話をした。上のマガジンにまとまっているので、時間があれば読んで欲しい。

 だんだんと自分でも何を書いていたか忘れてきたので、簡単に要約しておこう。

・東大に文系で入学するも、勢いで2年時に工学部電子情報工学科に理転
・1年時に数Ⅲ範囲の数学を少しやり、2年夏に少し高校物理をかじる
・新学期0日目の学部ガイダンスで授業数の多さ数学演習のやばさに絶望する

 かなり大雑把になってしまったが、過去の記事と関連があるところは、どこを読めばいいか紹介するので、安心してこの記事から読んでもらって構わない。それでは、初めていくぞ。

この物語は、内定者ガイダンス後の懇親会を途中で抜けて向かったカテキョの帰りから始まる。


1.  数学の教科書

 例の「電気電子数学演習」(以下、数学演習)である(前回の記事の「1. 内定者ガイダンス」参照」)。木曜日がガイダンスだったため、金曜3,4限にある数学演習は、ガイダンスの翌日から初回授業がある。

 この授業、教科書の問題を中心に取り扱うのだが、この教科書を全員が持っているはずがない。なんせ授業前日に「明日必要だよ」、と言われたからである。

 いくらAmazonの翌日配達を使ったって間に合わないし、大体Amazonに在庫はない。こんなマニアックな教科書は大学生協くらいでしか売っていないのだが、郵送は1週間以上かかる。
 Amazonという、文明と正反対そうな名前をしている最先端のサービスに慣れてしまった我々は、絶望する。

 だからと言って、全員が持っていないわけでもなかった。シラバスを見てちゃんと教科書を調達しておいた優秀な人たちと、私のように「EEICからのメール」にビビって買ってしまった人は持っているのだ。

 例の懇親会で教科書の話になり、持っていると伝えるとテニパのK.S.くんを初め、持っていない人に該当部分の写真を撮って送ってくれと頼まれたので、ぱっと写真を撮って送ることにした。

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↑その時の写真。一応ぼかしておいた。

 これは理転した人間としての処世術で、絶対に理系の人たちにお世話になるので、貢献できるところではただひたすらに貢献するのである。とっくのとうにプライドなど捨てているから、いくらでもお願いはできるのだが、申し訳なさはあるので、できるところでは貢献しておく他はない。


2. 味方は下北沢にあり

 そうしてカテキョに向かう電車内や、カテキョの休憩時間に、懇親会で話した何人かへ問題の写真を送った。

 8時半くらいにカテキョが終わり、携帯を見るとK.S.からこんなLINEが来ていた。

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ああ、この人は神か何かか?

 そんなことを思ったほど、天才的な救いの手が差し伸べられたのである。溺れたものは藁をも掴む、とはよく言ったものだが、このとき溺れている私に藁ではなく、日本トップレベルのレスキュー隊員の手が差し出されたのである。掴まない訳はない。

 正直言うと、私は数学演習を半ば諦めていた。問題を解くのはみんなに任せておいて、とりあえず聞くに徹すればいいだろうと思っていた。なんせ、本当に何を言っているのかわからないのである。

 最初の問題に「偏導関数」「fₓₓ」「接平面の方程式」「grad f」「∂ₓf」とか書いてある。しかし、全く意味はわからない。かろうじて「偏導関数」や「接平面の方程式」は日本語なので音読することはできるが、「∂f」に関してはもはや読み上げることすらできない。つまり、検索ができないのである。

いつでもどこでも検索ができる時代だ。すぐに色々と気になって調べてしまう性分なので、スマホがない世界などとても苦痛で耐えられないだろう。

 以前、ピエール・エルメのケーキ「イスパハン」を食べている時に、「ん?世界史で出てきたイランの都市イスファハーンと関係があるのか?」と思って、フォークをスマホに持ち替えて検索してしまったこともある。実際、イスファハーンから名付けられたバラが、ケーキの名前の由来になっていた。

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 少し脱線してしまったが、要するに偉大なGoogle先生を味方につけたとしても、一人ではどうすることもできないことを悟り、座り込んでしまっていたのである。そこに手を差し伸べて引っ張り上げてくれたのがK.S.くん、というわけであるから、感謝しかない。

 そして彼に「今夜したい!」と送った次の瞬間、閃いてしまった。その時カテキョで山手線の西側に来ていた私は、同じく西側にあるK.S.の家が近いことに気づいてしまったのである。問題文もろくに読めない私である。通話よりも対面の方が絶対にわかりやすいはずだ。

私 「なんならK.S.の家行ってもいいな」
KS「それなりに遠いよね?」
私「いや今カテキョ終わりで、意外と近いんよ」
KS「じゃあ来る?」
私「行っていい?」
KS「いいよw」

というやり取りが一分間の内になされ、私はK.S.の家にお邪魔できることになった。敵は本能寺にあり、ならぬ「味方は下北沢にあり」という感じの勢いで、駅前でマクドナルドをテイクアウトし、彼の家に向かった。


3. わからなくもない…!

 彼の家に着くと、お腹が空いていたのでとりあえず夕食を食べながら、何もわからないしそもそも読めないということを伝えた。

 すると彼は、いきなり押しかけて勝手に夕食を食べている、あまりに無礼な私に対して、

偏微分とはどういう操作で、何を表しているのか
下付きのアルファベットは、その変数で偏微分したものである
gradとはグラディエントと読み、どれだけ傾いているかを表すものである
∂はラウンドと読み、これも偏微分を表すということ

といった、基本的だがとても重要なことを、その意味も含めてわかりやすく教えてもらった。偏微分なんかは、ただその変数で微分するだけであるから、操作としては難しくないが、しっかりとここでその意味を教えてもらっていたことはとてもよかった。

 そうすると、最初見た時は本当に訳がわからず解けるはずがない、と思っていた問題たちが解けなくもなさそうであると思えるようになってきたのである。

 そして、教科書にある定理などの説明の部分を読めば解けなくもないことがわかった。ただ、普通に何を言っているかわからないことがほとんどなので、K.S.の助けを借りながら理解していった。

 あとは、この文系→EEICルートの先輩の記事を参考に、「ベクトル解析 キャンパスゼミ」を買っておいたので、それも参考にしながら解いていった。

 ただ、文系出身の私が初週から全部解けてしまうほど甘くはない。波動方程式を取り扱った問題は、普通に波動方程式が何かよくわからないし、無限に和積・積和公式を使って式変形していくみたいな問題だった。実はこれが文系出身にとって一番辛いタイプの問題だ。

 単に偏微分したり、gradを求めたりなら、新しく解き方を覚えればいいので一度理解してしまえばそこまで難しくはない。しかし、式変形に関しては、理系の人々に対してあまりに経験が少なすぎて、適切な式変形の方法が思い浮かばないのである。
 「え、そこ半角公式に持ってくの?」「えーー、なんでそんなキモいの思いつくねん」「知らんがな〜、知ってはいるけど。。。」みたいなことの連続である。単純に自分の実力不足を痛感する。

 この日は結局気づいたら2時間半近く粘り、終電ギリギリになっていたので焦って帰ることにした。この時、予習すべき問題全ては解き終わっていなかった。最初の週ということで、問題の量は他の回より少なかったのだが、それでも終わらなかったのだ。まあ、問題文の読み方から教えてもらっていては、2時間半で全て解き終わる訳はないのだが。

 深夜0時の終電間近の電車にいるのは、飲み会終わりの酔っ払いか疲れたサラリーマンくらいなもので、理工書を開いて式変形をしているのは当然私だけであった。こんなに苦労しなければいけないことを普通なら嘆くだろうし、嘆きたいのだが、"学んでいる" という感覚を得られて少し興奮していたのもまた事実であった。
(下の画像は https://raorsh.com/syuden より)

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 家に帰るなりさっとシャワーを浴び、問題の続きを解いてわからないところをLINEでK.S.くんに聞くとメッセージが返ってきたので、解説をしてもらいなんとかわかった。が、やはり対面の方がいいんだなということがここでよくわかった。

 翌日は8:30から1限が始まる。しっかりと睡眠も取らねばならない。解き切れてはいなかったが、翌日(正確にはもう当日なのだが)の自分に期待して、2時前には床に就いた。


4. 金曜1限:エネルギー工学

 9/25(金)、8時15分。3つ目のアラームでようやく起きた自分は、オンラインのありがたみを感じながら水を飲んで勉強机に座る。SlackにEEICのすごい人たちが貼ってくれた授業のzoomのリンクをふみ、授業開始を待つ。

 最初の授業は金曜1限のエネルギー工学である。EEICの、電気電子寄りの科目で、電力網とか脱炭素化とか、そういうかなりマクロ的な電気の話である。

 地球温暖化の進行を防ぐための世界的な脱炭素化の流れは、社会的な問題・テーマであり文系出身の私としては興味深く、そういった話を技術的な面などから話してくれる。過去には論述的な要素の強い期末試験もあったらしく、文系出身者も戦えそうな科目であると考え、履修することにした。

 3.11から10年が経つが、その10年前に放射線の影響が心配な母親たちに対し、データをもとに説明して、子供たちが野球をできるようになった話を、先生は半分泣きそうにながら語ってくれた。初回授業だったかはあまり確かではないが、いずれにしろ、あー感動的な話だな、と思いながら聞いていた。


5. 金曜2限:電子デバイス基礎

 金曜2限は電子デバイス基礎である。こちらもEEICの、電気電子寄りの科目で、現代社会に欠かせない存在となっている半導体の仕組みについて、原子レベルの話から設計の話までしてくれる授業となっている。

 これは難しい。半導体は量子力学的な話に基づいているため、量子力学を一定程度理解しておく必要がある。この量子力学、物理学の中でも最高レベルに難しい内容である。最近Clubhouseで見られる "量子力学" なるスピリチュアルものに人々が騙されてしまうのも、量子力学を正しく理解できている人間が少なすぎるからだろう。

 基本的に高校でやる物理は、「力学・熱力学」「電磁気学」「振動・波動」あたりに大別できる。次の画像は、ベクトル解析の参考書として活用した「キャンパス・ゼミ」のロードマップだが、力学を元にした「解析力学」と、熱力学を元にした「統計力学」を応用させたのが『『量子力学』』である。

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は?いや強すぎやろ。

 ポケモンでいえば、ジムリーダー(高校物理)を全員倒した後に、四天王(解析・統計力学)を全員倒して、ようやく戦えるチャンピオン(量子力学)的な存在。いや、それだとまだやばさを表現できていないなと感じるくらいにはやばい。

 つまり、どういうことかといえば半分諦めるのが吉である。とはいえ、単位は取っておきたいので、何を言っているかはよくわからなかったが、とりあえず頑張って聞いてはいた。

 この授業での発見といえば、EEICは物理(特に電気)とそのための数学がメインだが、化学の知識も重要であるということである。高校化学でやったsp混成軌道の話は半導体の仕組みを考える上でとても重要らしく、また元素周期表の並びもとっても大事らしい。化学って大切なんだな、ってわかった。化学はわからないけど。


 ちなみに、金曜1,2限のこれらの授業は先生2人が前後半で分けて担当しているので、それぞれの先生の特色が出て面白い。エネルギー工学は環境というか社会寄りのイメージの人と、実際の電送技術寄りの人って感じ。電子デバイス基礎は半導体を実現する理論寄りの人と、民間で半導体作ってた経験から実際的な設計の話をしてくれる人という感じで面白かった。


6. 金曜3,4限:電気電子数学演習

 さあ、みなさんお待ちかね。ついに本丸の登場である。「数学演習」の授業だ。
 半分諦めていたところから、K.S.くんの助けによって前日から勉強し、なんとか教科書の問題文が読めるようになった科目である。


 ただ、すでに5,000字に到達してしまっているので今回はここまでとしておこう。

次回、数学演習初回授業、乗り切れるのか!? お楽しみに!

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