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偶然と必然

私と彼との出会いは偶然なのか
それとも必然なのか
サイコロの目が6と出たのは
偶然なのか必然なのか
どうも偶然とは事後的に
必然となるようだ

電車の中でこんな若者を見かけた
それも偶然に
年季の入った和服
膝の上はすれて、あせている
足元は足袋に下駄
髪型はちょんまげに結っている
もともと生え際の両脇がM字気味で
まるで侍のような髪型だ

彼は黒いケースを左手に抱えている
木刀がケースの外側に
上と下はケースにはまり込んで
ケースの中からも上に一本のぞいている

この狭い車内では
そんな長尺の木刀は意味があるまい
そう声をかけると
取り出して突きを一本
私の喉元に決めた
私は後ろにひっくり返って
後頭部を打って絶命

電車の中で通り魔が出ても
彼が追い払ってくれそうだと期待していたのに
彼が通り魔だった

私も剣術には覚えがある
玄関の脇には木刀を護身用に飾っている
家族は問うた
それで本当に思いきり強盗を叩けるの?
この狭い玄関で振り回せるの?
当たったらめちゃくちゃ痛いよ?

あれはフラッグだった

彼の目は細くて
何を考えているか分からないような
今から考えれば
どう見ても殺人鬼の目だった

武士の格好をしているのは
居合の大会の行きか帰りかもしれない
私はそう思っていたが
いま思えば
普通の人ではなかったのだ

普通ではない人間に
私はなぜ声をかけたのか
それは私のどこかに
どうせ死ぬなら戦いの末に
という願いが潜んでいたからかもしれない

さて私が死ぬのは
偶然なのか必然なのか
神のみぞ知る

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