2021年から、アルバム10枚
今年からは新しい音楽をきちんと聴こうと心がけるようになった。それは何よりも自分自身がサブスクにEPを発表したということが大きい。
Norichika Horie『Life After Life』
個人的には古い音楽にひかれる。このEPも80〜90年代のUKニューウェイブ、ポストパンクを意識したものであった。しかし、「いま世に問う」ということになると、現在のクリエイターたちを意識せざるをえない。距離感を持つことの方が多かったが、キャリアの長いアーティストの作品には、親近感を覚えるものがあった。
Ben Watt『Storm Shelter』
Ben Wattは去年もベスト1に推した。そこに収められた曲をピアノ・アレンジにしたのが本作だが、曲の良さが際立った。加えてオープニングにハウス・クラシックの「That’s the way love is」のカバーを持ってきた。懐かしさを感じさせると同時に、新しい試みとなった。病気を克服しての創作活動にも勇気づけられる。同様に、Paul Wellerの頑張りも敬服するところだが、正直そこまで曲が好きになれないのと、声の衰えが顕著すぎて、あまり聴いていない。
折坂悠太『心理』
折坂悠太にはデビュー時から興味があったがきちんと聴いてこなかった。本作も最初に聴いたときは、それほど響かなかった。しかし、徐々に心ひかれるようになった。そして我慢ができなくなって(笑)、ついに「心理」ツアーの追加公演に参戦。その魅力に参ってしまった。曲自体はすごく素朴で、フォークや演歌に通じる。歌詞は、少し古めの近代文学や芝居を思わせる。歌い方は非常に独特で、特にファルセットの使い方に特徴がある。この歌詞と歌い方が奇をてらっているようで敬遠している人もいるだろう。でも、モリッシーが出てきたときも、そんな感じじゃなかったかなと思う。抵抗と魅力だ。バックの「重奏」という名前のバンドがジャズ寄り。実験的なテイストもあるが、ポップスに落としこむ力量はすごい。エンジニアの中村公輔さんも含めて、彼は人に恵まれている。
ストレイテナー『Crank Up』
正直言って音は古くさい。たぶん3年前なら、つまりコロナ前なら、邦ロックとして特に古くは感じなかっただろう。しかし曲がいい。EPなので曲数は少ないが、どれもいい。もしかしてアルバムを準備していたけれど、諸般の事情で結果的にいい曲ばかり選んでEPになったのではないか。最後の「七夕の街」まで聴いてほしい。泣けるから。なお、古い、古いと言っているが、一曲目「宇宙の夜 二人の朝」のコーラスの効いたベースの音はおっと思わされた。この手の邦ロックは、編成やギターの音色はオーソドックスで、狭いレンジのミックスが古くささの元なので、ライブで聴けば、曲の普遍的な良さが楽しめるだろう。次のライブを楽しみにさせてもらえるEPだ。でも、いつか「Killer Tune」みたいな曲をまた作ってほしいな。
Megashinnosuke『CULTURE DOG』
僕の新曲チェックは、Apple MusicのFor Youの「New Song」と、Spotifyの「Release Radar」のプレイリストを、金曜日にチェックするというものだ。Megashinnosukeは1曲ずつシングルとしてサブスクにリリースすることが多いので、1年中ヒットを飛ばしているようなイメージが自分のなかでできている。しかし、11曲入りの聞き応えのあるアルバムを出してくれた。初期の邦ロックからは脱却し、完全に時代とシンクロしてエレクトロニックなポップに変化したと思ったら、「甲州街道をとばして」のような良メロのロックも出してくれた。ヒップホップぽい曲もあり、実に音楽性が幅広い。まだ若いのと、英語の曲もあるので、インターナショナルな活躍をしそう。
w.o.d.『LIFE IS TOO LONG』
捨て曲ほとんどなし。メロディも曲もヴォーカルも良い。個人的にはThee Michelle Gun Elephantの継承者なのだが、あちらは「パブロック」と呼ばれ、w.o.d.は「グランジ」と呼ばれる。しかし違いがよくわからない。それより、こうしたうるさいギターロックは、いまどき流行らなそうなのに、完全無視がいさぎよい。シンプルな編成で迫力ある音。ラウドネスコントロールによって音量が下げられがちなので、ミキシングはもうちょっと洗練させた方がいいと思う。でも、ただうるさいだけではなく、曲のなかにもアルバム全体にも緩急を付けているので、飽きさせない。
インナージャーニー『風の匂い』
今年はインナージャーニーに癒されっぱなしだった。andy moriをそのまま女性ヴォーカルにしたような感じだと思っていたが、バンドとしてどんどん成長している気がする。ヴォーカルはピッチを外しているようで、その外し方も、きちんと演出されている。メロディセンスも歌詞も、どうしてこんなのを思いつくのかと思わされるような細部が満ちあふれている。天才的なものを感じる。
ポニーのヒサミツ『Portable Exotica』
はっぴーえんど、細野晴臣の路線をもっとほのぼのにした感じ。折坂悠太が出てきた頃にも通じる都市型フォーク。しかし、ほのぼのとしたなかに、どこか冷たい格好良さも感じるのが不思議。心が静まるような。それなりにどの曲も良くて、インタールードもあって、アルバムとして通して聴ける。「散歩娘」という曲のように、散歩しながら聴きたい。
GAME CENTER『LOVE』
ゼロ年代のくるりを思わせるオーソドックスで少し古い邦ロック。良い曲が多い。ファーストアルバムとのことで今後の活躍も期待できる。というのもおこがましいほど、貫禄のある曲がそろっている。
DYGL『A Daze In A Haze』
前作では「Spit it out」というThe Smithsぽい曲で嬉しくなったが、今作はもっと現代的になっている。80年代から0年代のUK/USインディーズを総まとめしているような音楽性で、通して聴ける。しかし、正直そこまで聴き込んでいない。もっと聴きこんで予習して、ライブにも行ってみたい。
10枚のアルバムの候補だったもの
・グソクムズ『グソクムズ』
シティポップと言われるものなかでも1番よいが、ヴォーカルがちょっと弱くて、惜しくも選外。
・Yogee New Wave『WINDORGAN』
これもシティポップ。
・大和那南『Before Sunrise』
幼い女性ボーカルのポストパンク
・Maika Loubté『Lucid Dreaming』
エレクトロニック、女性ボーカル、
・羊文学『you love』
人気があるし、良いとは思う。
・三田村千晴『Marking』
コロナ禍を歌ったポエトリーリーディング「記す」は圧倒的。
・gato『U+H』
シューゲかと思った「teenage club」が良い。全体的にはエレクトロニック。幅広い音楽性。
・Parquet Courts『Sympathy for Life』
マッドチェスターっぽさを感じさせる「Walking at a Downtown Pace」はよく聴いた。でも、他の曲は大人しかった。
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