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朝起きたらスマホになっていた

モバイルさん、モバイルさん、私を買って(私を狩って?)

ふとそんな声を聞いたかと思うと
布団の中
どうやら朝らしい
私はアラームを消して、スヌーズも許されなかった
あらゆることが文字になって入ってくる
瞬時、瞬時
スピードに私は支配された
雨雲が近づいている
雨雲レーダーは
近くの山の麓でゲリラ豪雨が起きていることを知らせた
大丈夫かな、川の水位は
あふれてないかな
心配だな
でも先に進む
優雅な朝食もなく、傘をさして、経路を調べる
遅延情報をキャッチした
でも5分なら、路線変更なし
5分前にいつもの道路を横切る
4分前に高架線下にたどり着く
3分前に自転車置き場を通り過ぎる
2分前に駅に入り
1分前にピピっとジュースを買って
ベルに急かされて電車に乗り込む
ドアが閉まって溜息をつくと、9時1分
この電車はいつも定刻より数秒早くドアが閉まる
いつか鉄道会社にモンスター・クレームをつけようと思う
だけど、それはバッテリーと時間の無駄
瞬時、瞬時

モバイルさん、モバイルさん、私を売って(私を打って?)

ふとそんな声が聞こえたかと思うと
何かの通知が入るが無視される
しかし、おもむろに文字が打たれ、終了
また文字が打たれ、終了
また文字が打たれ、もはやこれは終了ではなく休止だった
その間、私はぼんやりと車内を眺める
これは盗撮ではない
記録されていないから
でも私には記憶されている
それに誰も気が付かない
女は女の隣に座りたがる
男も女の隣に座りたがる
でも、車内の男女比は6対4
結局、着膨れして雨に濡れた男たちがひしめき合って
縮こまって、押し黙って、じっと座って
どこか遠くへ運ばれていくらしい
かばんに吸い込まれ
一時休止

モバイルさん、モバイルさん、私を飼って、私を撃って

ああ、鬱陶しい
何の声なんだ、これは
立ち上がり、エレベーターを降りる
左へ曲がって、階段を登る
またいつもの女がいる
またいつものゲームをしている
向こうもこっちに気づく
もちろんお互いに無視する
近づくと圧力の高い空気の壁が
ぐうっとゴムのように間に挟まり
瞬時、瞬時の文字も跳ね返る
独白、雑居
コネクト、アンコネクト

いつか私のバッテリーは
満腹と空腹を繰り返し
何も食べられなくなる
食べられなくなったらどうしますか
食べられなくなったらおしまいです
お払い箱です
でも、その時、この買い主は(この飼い主は?)
この打ち主は(この撃ち主は?)
私を売ったりしないだろう
もちろん、お祓いをしてからお払い箱に入れるわけではない
ただのずぼらだ
まず机の上に置かれ
本棚にしまわれ
箱に入れられ
押し入れに入れられるのだ
そこからはカビとの闘い
カメラのレンズさえ、ここではカビに蝕まれる
SOS
SOS

モバイルさん、モバイルさん、付喪神になれそうかしら
なれたら、未来においで
未来ではもうモバイルさんは
ユビキタスさんだから

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