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シェールより海底油田の方が深刻か?②

前回から大分時間がたってしまったが、海底油田開発が直面している新たな現実について簡単にまとめてみたい。

海底油田からの生産量はシェールオイルの3倍以上

EIA(米国エネルギー情報局)によると、世界の石油生産に占める海底油田(offshore)からの生産量の割合はおよそ30%前後で、急成長し注目度の高いシェールオイル(こちらは約9%)に比べると話題に上がることは少ないものの、無視できない量を供給していることが分かる。

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そして、一般に海底油田の石油は陸上油田に比べてコストが高く、しかもシェールオイルよりも高い水準にあると位置づけられている。

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BPのSpencer Dale氏が2015年に行った講演資料に加筆

IEAが先日発表したレポートによると、2020年の石油・ガスセクターの上流投資は、前年比で約30%減少するという見通し。当然のことながら高コストな海底油田開発はそれよりも大幅に削減されることになるだろう。

$45/バレルでも約3割は開発不可能

英国のアバディーン大学の研究によると、石油価格が$45/バレルであっても、北海油田の資源の28%は採算がとれないと指摘している。また英国の石油業界団体によると、3万人の雇用が失われる可能性があると表明した。実際英国の石油メジャーBP社は、つい先日1万人の人員削減を発表した。

現在起きている現象は、単純な価格下落ではなく、需要の大幅な縮小である。過去に、これほどまでの需要縮小の事例はないので実際にどうなるのかを知るのは難しいが、参考としてマッキンゼーが2035年に電気自動車が普及するなどして大幅に石油需要が減った場合、どのタイプの石油生産が現象するかという試算があったので紹介したい。

このレポートによると、仮に2035年に技術革新によって世界の石油需要が108.0 MMb/d(日量百万バレル)から82.1 MMb/dに25.9MMb/d減るとすると、そのうちの46%にあたる11.9 MMb/dが海底油田の生産減少によるもので、次いでシェールオイルの6.1 MMb/d減が続くというものになっている。

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この様に、低油価で石油需要減の世界では、海底油田開発がかなり大きな打撃を受けることが想定される。

変動の激しい世界では長期プロジェクトはやりにくい

しかも、海底油田開発は、「なぜ石油生産を止められないのか」で書いたように在来型石油開発の長期ブロジェクトの典型例とも言え、開発のリードタイムが長く、数千億円の規模のビッグプロジェクトとなるのもザラだ。このような開発では、ある程度長期的に最低限の石油価格が維持されることが見通せない場合、投資がつき辛くなる。21世紀において、再びパンデミックが起きるなどして、石油価格が乱高下が多発するのだとすれば、このような長期ブロジェクトは大きなリスクを抱えることになる。この点は、ビジネスサイクルが速いシェールオイル開発と大きく異る点である。

海底油田開発はパンデミックに弱い

さらに、今回のパンデミックによって海底油田開発がさらに悩ましいのは、海上プラットフォーム上で感染者が多数出てしまったことである。ここ数週間で、メキシコ湾、北海、モザンビーク、カナダ、カザフスタンの沖合の掘削現場で、何百人もの労働者がCOVID-19に感染した。海上プラットフォームの作業現場は陸から隔離され、必要最小限のスペースで作られているため、「三密」に極めて近い労働環境と共同生活を強いられる。作業員に感染者が出ると、そのオペレーションの維持が難しくなる。海洋開発のリスクとして、原油価格、石油漏れ事故に加えて、感染症が新たな項目として加えられた。

先程述べたように、多くの海底油田開発は長期プロジェクトであり、今年の投資計画が延期された影響は5〜7年後に出てきます。この業界は、2015-2016年の原油下落の打撃から立ち直り始めたばかりで、その時の投資減の影響は来年あたりから出てくると思われます。石油開発はこのようにリードタイムが長いので、突発的な現象の影響は長い期間にわたって起こりえます。現在は原油需要が急減し、石油が余っている状態ではありますが、需要が回復してきた頃には、供給が逼迫する、などということもあるかも知れません。その恐れが市場で理解される頃には、既に手遅れになる可能性があります。


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