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主夫が提言するこれからの父親支援 〜『イクメン』世代のジェンダー観と男性問題〜 3

3 父親支援の移り変わり

 父親の育児支援活動を始めた平成22年(2010年)当時、行政から依頼を受ける父親講座の目的で一番多かったのは「父親を子育てに参加させること」だった。タイトルの例を挙げると「イクメンのすすめ」「パパも子育て楽しもう」「父親の家庭参画で家族もハッピー!」といったもの。実際、イクメンという言葉が広まっても子育てに前向きな父親は少数派だった。
 平成22年(2010年)、とある市が日曜日に開催した父親講座で一般申し込みが1人だったことがある。仕方がないので市の男性職員を動員して、なんとか8名に参加者を増やして実施した。それぐらい子育てに関心を持って学ぼうとする父親は少数派だった。他の父親講座では一般申し込みが10人あったけれど、そのうちの8人は妻が申し込んだので仕方がなく来たというケースであり、平成25年(2013年)くらいまでは妻の申し込みが多数派だった。でもその比率は年々下がって行き、私が担当した講座の中では平成28年(2016年)に開催した岸和田市の父親講座で、初めて全員が自分で申し込んだ父親の前で講座をすることができた。その時の参加人数は12人だった。
 父親支援活動にご依頼いただく講座の中で、父親を子育てに参加させる目的の他に目立つ目的が3つあった。どれもイクメンがすっかり社会的に認知された平成25年(2013年)ごろから急増した。『夫婦関係』と『イクジイ』と『イクボス』だ。
 『夫婦関係』は父親たちの中のイクメン率が増えたことへの副作用だ。当初、イクメンのイメージはキラキラとした極めて肯定的なものだった。父親が子育てに参加すれば、妻は楽になり子供は豊かに成長し家族みんながハッピーになる。イクメンの代表はつるの剛士に杉浦太陽に照英。どの家庭もすごく幸せそうだ。でもそれは誤解だった。イクメンタレントたちの家庭が実際にどうかはわからない。けれども、現実に出会った家庭の話を聞くと、夫がイクメンである方が夫婦喧嘩は増えるのだ。
 これまで妻が一人の考えで自分の責任で引き受けていた子育てに夫が別の考えややり方を持ち込んでくる。これで摩擦が起こらないはずがない。この摩擦を乗り越えたところに夫婦の進化があるのだけれど、そこにたどり着くはるか手前で悩んでいる夫婦が増えた。『夫婦関係』講座の種類は大きく分けて2種類だ。妻だけを対象にした講座の目的は、夫を育児に巻き込む方法を伝えること。夫婦を対象にした講座の目的は、夫婦コミュニケーションのコツを伝えること。不思議なことに夫だけを対象にした「妻に育児をやらせてもらう方法」という講座はほとんどない。これはこれからの課題として後述する。
 『イクジイ』はイクメンから発展した言葉だ。子育ては母親一人では大変だし、夫婦二人でも大変な役割だ。そこでおじいちゃんの出番です。というわけだ。どうして『イクジイ』だけで『イクバア』がないのかといえば、おばあちゃんの多くは何も言わなくてもすでにやってくれているから。孫との関わり方がわからないのは圧倒的におじいちゃんが多い。『イクメン』があるのに『イクウーマン』がないのと同じことだ。
 祖父世代のほとんどは我が子の子育て経験がない。でも孫が生まれたら可愛い。かまってやりたい。でもやり方がわからない。そんなおじいちゃんたちに現代の子育て知識と孫との関わり方をお伝えする。受講した祖父母世代の男性は口を揃えておっしゃる。「孫や身近な子供に関わって子世代への罪滅ぼしをしたい」「こういった子育ての知識を40年前に習いたかった」。私の父もそんなおじいちゃんだった。私は父に遊んでもらって楽しかった記憶は一つもない。そんな父が平成27年(2015年)に京都府とファザーリング・ジャパン関西の共同で開催した子育て講座に参加した。受講してから父は京都市の小学生対象の放課後事業に有償ボランティアで参加し始めて今も続けている。人は何歳になっても変われるものだし、潜在的に孫育てや地域の子供に関わりたい祖父世代はたくさんいる。
 『イクボス』は家庭ではなくて職場を変えることが目的。父親の子育てのネックの一つ、長時間労働に象徴される男性の仕事優先文化に対しての取り組みだ。イクメンが生まれた当初からこのテーマは『ワーク・ライフ・バランス』として課題に上がっていた。仕事と生活の時間配分・労力配分を上手くして人生を充実させようというのが『ワーク・ライフ・バランス』だ。しかし、いくら父親個人がそれをしたくても職場の仕事優先の文化に阻まれてしまう。上司の理解がなければ子供の保育園や習い事の送迎のために定時で帰りにくい。子供の行事や病気でも休みを取りにくい。育児休業なんてはるか遠い夢になってしまう。
 部下の生活面にも配慮できる上司が『イクボス』。それが社会に求められている。令和元年(2019年)から始まった政府の『働き方改革関連法』によってそのニーズは増え続けている。10年前、父親個人に努力を求めて始まった父親の子育て支援は、夫婦から多世代へ、そして職場をも巻き込んでその対象は広がっている。

2019年度 吹田市立男女共同参画センター調査研究報告
男性問題から見る男女共同参画〜ジェンダー平等の実現と暴力・DVの根絶に向けて〜
に寄稿した記事の再録です。

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