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function follows beauty 機能は美に従う

「form follows function (形態は機能に従う)」という有名な文句がある。20世紀以降の現代建築の主要な潮流を凝縮している文句である。 ここで使われている「function(機能)」という言葉は一般的に、コストパフォーマンスや温熱性能、光環境、構造強度、使い勝手など、客観的・科学的に数字で表現できるものを指している。

19世紀末に、この言葉を建築の世界で最初に提唱したシカゴ派のサリヴァンはしかし、「function(機能)」を包括的に捉えていた。1896年に公表された彼の論文『The tall office building artistically considered (高層オフィスビルを芸術的に熟考する)』に書かれている次の文から、それが理解できる。

「すべての有機物と無機物、すべての物理的事象と形而上学的事象、すべての人間的、超人間的な行い、頭脳、心、そして魂から起こるすべての現象、それら生命の表現から認知できる法則は、形態がいかなるときでも機能に従う、ということだ」

サリヴァンらシカゴ派の建築家たちは、高層オフィスビルの建築に取り組んでいくが、その際、装飾や紋様といった主観的な美の要素を、新しい現代建築に積極的に融合した。美や象徴にも、そこに住む人間にとっての機能がある、と捉えていた。

しかし、20世紀の現代建築の大きな潮流をつくったドイツのバウハウスは、「form follows function」を還元(退縮)的に解釈した。装飾や紋様といった主観的な美の要素を機能とは捉えずに、放棄した。客観的な機能性を基盤とするデザインの建物や家具、調度品が作られた。装飾や紋様が削ぎ落とされ、客観的に必要だと思われるものだけに還元された機能性が形作るもの。そこにも美しさ(機能美)がある、という評価もある。モダニズムの美であると。しかし、それらを昔の建物や家具などと比べたときに、主観的に「シンプルでカッコいい」と思える一方で、「無機質」「冷たい」「寂しい」という印象を受ける現代人は、私だけではないと思う。

本稿のタイトル「function follows beauty (機能は美に従う)」は、ドイツの著名な神学者・哲学者のヨハネス・ハルトルが名著『Eden culture エデンの文化』で書いている言葉だ。彼は、危機的な状況にある現代社会の問題を解決するために、人間の「生態学的なエコロジー」から、人間の「心のエコロジー」への昇華を提唱している。それは「結びつき」「意義」「美」という3つの人間性(人間らしさ)を主軸にした社会の構築である。

私は、主観的な美意識を格下げしてしまった20世紀以降の現代建築の潮流に、主観を軽視する現代社会システムに、主観と客観は分離しなければならないと思い込んでいる多くの現代人に、「Function follows beauty (機能は美に従う)」を提唱したい。



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