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#3 女子の嫌がらせと 越える力

~娘の涙の記憶~


★この記事は過去のブログから移行したものです (少し修正を加えた箇所もあります)。


2010.11.25

小6の娘のこと。

先日、娘が学校であるものを盗まれた。あるものとは、「ケロッグ」と呼ばれる「学級通貨」である。

ケロッグという名前は、学級通貨の名前をクラスで募集して学級会で決めた名前だそうだ。発表を1回すると1ケロッグ、自主勉強5ページで1ケロッグ…など、いわばご褒美的なもの。カエルの絵の書いた小さな紙をもらえる。

それを集めていろいろ使えるらしいのだけど、娘が活用しているのは、給食のおかわり。揚げパンなど、人気の給食でしかも数が限られているものは、ケロッグによるオークションが行われるらしい。好きなおかずをオークションで勝ちとるために、娘は「毎日最低1ページ」という自主勉強の宿題を、毎日5ページやってケロッグを集めていた。

そのケロッグを、10枚盗まれたのだ。

娘は自分で「ケロッグ入れ」を作っていた。集めたケロッグがなくならないように、100均で買った小さなジップロックにケロッグを入れ、学校の机の引き出しの奥にしまっておいたとのこと。それが、朝、学校に行って引き出しの中を見たら、ケロッグ入れのチャックが開いていて、中身が空っぽだったらしい。ケロッグ入れにはもともと11枚入っていて、10枚盗まれ、1枚は引き出しの中に落ちていたそうだ。

そして、先生にそのことを言ったら、先生は「学校に置いて帰るのが悪い。きちんと管理しなさい」と言ったらしい。

娘は「悔しい」と泣いた。「ケロッグ10枚分は、自主勉強50ページ分なんだ」 「一生懸命がんばったのに」と。


こういうことは、実は初めてじゃない。2年前から数回あった。

4年生のとき。カラーペンが1本なくなったり、学校に置いて帰る名札が朝なかったり。金曜日に体操服を持って帰ろうとしたら見当たらなくて、下駄箱の上に砂だらけで放置されていたり。

娘は、親のわたしが言うのもなんだが、まじめで成績が良く、先生や親しい友だちからの信頼も厚く、ほめられることが多い。運動はできないが、いわゆる優等生タイプなのだ。そのわりにのんびりしていて、ちょっと抜けているところもある。だから、物がなくなったときに真っ先に言うのは「ちゃんと片づけたの?」だ。娘も「うーん、たぶん片づけたと思うんだけど…」という返事の場合が多かった。だから、最初はあまり気にしていなかった。

だけど、あんまり頻繁に続くので、娘には気をつけるように注意をしていた。まず自分自身がきちんとすることだ。きちんと物を片づけること。そして、片づけたことを自分できちんと覚えていること。

そして決定的なことが起こった。全員参加のクラブ活動、娘は編み物クラブに入っていて、半年かけてマフラーを編んでいた。そのマフラーが、年度末が近づいた2月初めに盗まれてしまった。

状況を聞くと、手提げバッグの一番奥に入れていて、上から他のものをつっこんでおいたので、うっかり落ちるわけがない。そして、その手提げを机の横にかけていたのを娘はしっかりと覚えていた。昼休みまではあったのに、クラブの時間に持っていこうとしたら、手提げ袋の中のマフラーだけがなかったと言う。ここで確信した。今までのことも、うっかりではなかったのだと。

当時、担任だったT先生は、定年間際のおばあちゃん先生だった。「古い考えの先生で融通が利かず、すぐに怒る」と噂され、保護者からも生徒からもあまり好かれていない先生だった。その先生に、マフラーのこともそれまでのことも全て話をした。「もしかしたら娘のうっかりなのかもしれないのだけれど」と言葉を添えて。

しかし、T先生はものすごく親身になって聞いてくれ、娘やわたしの代わりに怒りをあらわにしてくれた。一生懸命、他の生徒に聞き込みをしてマフラーを探してくれて、クラスの生徒に「もし悪いことをしてしまった人がいるならば、名乗り出てほしい」と話をしてくれた。

T先生は、わたしや娘に「嫌な思いをさせてごめんなさい」と何度も謝りつつ、犯人探しをすることに対しては「問いつめて、ごめんなさいを言わせたいわけではない。今、止めてあげないと、これからのその子の将来が心配だから」と、盗んだ子のこともとても心配していた。

結局、マフラーも犯人も見つからず、年度末に自分だけ作品がないのは嫌だから…と、娘はがんばって1ヶ月でマフラーを仕上げた。T先生はその年で転任になってしまったのだけど、「次の先生に注意するように、よく伝えておくから」と言ってくれた。

それから、小さなものがなくなることは5年生でも数回あり、それがうっかりなのか盗られたのかはっきりしない場合は先生に伝えず、娘に「またやられる可能性があるのだから、自分の物の管理はきちんとすること。大事なものは、持って帰れるものなら持って帰ってくること」と注意していた。しかし、6年生になってそういうことがなかったから、わたしも娘も油断していたのだ。

今回のこと。

「大事なものなのに、置いて帰ったのが悪い」…そう言われたら確かにそうだ。こちらに少しでも非があるのなら、文句は言えないとわたしは思う。以前と同じだ。うっかりなのかもしれないと思うのなら、人を責められはしないのだ。自分で絶対にきちんと管理していたと思えるのなら、先生にそう自信を持って言えばいい。そうしたら、先生ももっと事の重大さに気づき、対応してくれたのではないかと。

T先生の言うように、人の物を盗んで自分の物にすること、人のものを隠して嫌がらせをして楽しむこと、そういうことを平気でできるような人になってしまうかもしれないということを放置してしまうことの重大さ。物を盗られて泣き寝入りしなければならない娘の辛さを見過ごすことの重大さ。

正直、納得いかない部分もある。だけど一番強く思うのは、こういうことを娘自身が乗り越えていかなければならないということ。きっとこの先も娘はやられ続ける。対応してくれる先生も、してくれない先生もいる。学生時代が終わって社会に出たって、嫌がらせをする人も平気でひどいことを言う人もたくさんいると思う。それでも、自分に非がないのなら、屈せずに堂々とがんばるしかない。一生懸命がんばることは間違ってはいないのだから。

「悔しい」と泣く娘を前に、わたしもすごく悔しかった。だけど、一緒に泣いて「悔しいね」と言うだけでは、終わりにできない。だから、一生懸命、わたしの思うことを伝えた。

自主勉強を50ページやったことが消えるわけではない。それは確実に力になっているのだ。たとえば、その盗んだ子が盗んだケロッグで何かを得ても、それはその子の力にはなっていないんだ。悔しいけれど、またがんばればいい。勉強したことが無駄になったわけではないんだから。

一生懸命がんばることは決して悪いことじゃない。まじめにがんばっていることを妬んだり、よく思わない人もこの先たくさん出てくるだろうけれど、その人たちを恐れたりすることはない。何も悪いことはしてないんだって堂々としてればいい。

悔しいのはわかる。悔しいと泣くのもいい。だけど、泣いてるだけじゃなくて、そのたびにそれを乗り越えなければ。今回のこと、これ以上は何もできないけれど、もしもっと続くようなら……たとえば、もし嫌がらせだけですまずに直接何かやられたりしたら、一緒に先生に言おう。今度こそちゃんと先生に対応してもらおう。そう伝えた。

わたしは、人の物を盗んで平気でいられる人や、嫌がらせをして良い気分になる人の気持ちが全くわからない。わたし自身も小学生のときは、今のような陰湿な嫌がらせはないにしても、陰で悪口を言われたりした。だから、どうしてもやられる側目線になってしまうのかもしれない。

正直、娘に伝えたことが正しかったのかなんて、わからない。価値観とかモラルなんて人それぞれだし、しつけは親の価値観やモラルを押しつけることになるのかもしれない。だけど、わたしが40年近く生きてきて考えられる精一杯の答え。親に頼り、甘えながらも、自分の力で何度でも立ち上がる子になってほしい。



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