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【短編小説】あなたにひみつ

いつまで私は彼を騙し続けるつもりなのでしょうか

彼と出会ったのはそう。
ちょうど1年前の暑い暑い夏の日。

柳の下で落としたお財布を探していた彼に私は恐る恐る話しかけた。

どうせ私の顔を見て、逃げてしまうと思ったから。
けれども、彼は逃げることもなく
「ありがとうございます!なんと優しい人なんでしょう」
と感謝を述べられたのです

私は、彼の反応が想像と反していたの驚きやら、喜びやらでたじろいでしまいました。

彼はお礼としてお茶屋へ誘ってくださいました。
もちろん、私は彼と仲良くなりたいがために快く承諾しました。

私は人間と話すのが何よりも久しぶりでしたから、興奮のあまりとてもおしゃべりになっていたのです。

そんな私を彼はとても好んでくれて、
すっかり意気投合。

話していくうちに、どんどん仲良くなり彼のことを知っていきました。

けれどもそこで知ったことは、
彼は目が不自由だと言う事。

その話にふにおちました。


私はのっぺらぼうの娘です

誰に話しかけてもみんな去っていってしまう。怖がられてしまう。

人間と仲良くなれたことは
今までなかったのです。

だからこそ、私は嬉しかった。

もちろん、のっぺらぼうの私に恋人が居たためしなんてありませんでした。

彼も目が不自由だからと言う理由で、嫁のあてが見当たらず、独身のままだったそう。

その日から私たちは度々合うようになり、どちらからと言うこともなく恋人関係になっていきました。

けれども、私はまだ伝えられていない

のっぺらぼうだと言うことを。

彼は優しいからそんなこと気にしないと言ってくれるかもしれない。

けれども、今までの人間たちの反応が忘れられない。

1人でずっと寂しかった。悲しかった。

隠しているままだけれども、許してください。
愛させてください。

この幸せの日々が続いて欲しいのです。

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