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「崩し」の技術

 先日盛大な自転車事故によって欠けた前歯。

仮歯期も終わり、ついに正式のレプリカ歯が装着された。

保険内の歯とはいえ、パッと見本物と見紛わないくらいの出来。仮歯の時ですら凄いと思ったのに、本番のものは当たり前だがそれ以上だった。

驚いたのは、他の歯との違和感がないよう、ステインまできちんとそれっぽく完コピしていたところ。こうした「崩し」の技術 をそれとなく差し込んでくるところに、技工士たちの仕事に対する感動を覚えた。

 大昔、フル CG の『ファイナルファンタジー』の映画が公開された時、インタビューで、「リアルを出すためにキャラクターの肌のシミやシワ、ソバカスなどに一番力をかけた」とディレクターの坂口博信氏が語っていたことをふと思い出した。映画自体は大コケしたが、確かに言う通りだ。

ヒューマノイド技術も、少し目を離すと信じられないくらい動きも見た目も向上している。ASIMO のようなロボット然としたものもそうだが、何より人間の女性そっくりなヒューマノイド達の見た目の精巧さには目を見張るものがある。

外見はもちろん、ふとした繊細な表情や軽い微笑みなど、本来「途中のモーション」である仕草にほど力が込められており、人間よりも人間らしい魂が宿っているような美しさ、リアルを感じる。

ここでもやはり、「崩し」の部分に技術を注ぎ込んでいる印象を受けた。"不気味の谷" に至らないレベルで、彼らはどこの解像度を高くすれば魅力が増すかを熟知している。

他にも少し例えはズレるが、音楽家の小室哲哉氏は、ほぼすべての楽曲において、全ての楽器をステップではなくリアルタイムで手弾きしていくそうだ。人力の揺らぎやリズムのよれを大事にしているから、特に TM 〜 trf 〜 globe 期の楽曲などはデジタルなのに、より人肌感ある響きに聴こえるのだろう。

みなそれぞれ、手法や度合いは違えども、リアルへの追求に対するアプローチのベクトルは同じだ。

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 リアルを作るためには、本物に付随するノイズたちをいかに深く拾い上げていくかが再現性の肝となることは明白だ。自然と技術の知恵くらべ、いわば "神へ近づくための挑戦" が、そこかしこで常に繰り広げられている。

この挑戦が、数々の創造力あふれる未来を築いてきたのだろうし、僕自身は身近な「歯」という形で恩恵を受けている。

人間は「崩し」が垣間見えるところに、かえって精巧さを感じるように出来ているように思う。

今日はこんなところで。

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