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もし先に「無観客」を決定できていたら

本日、2021年7月11日。東京都は4度目となる緊急事態宣言期間に入りました。

新型コロナウイルス(の中でも伝播性が高いとされるデルタ株)の蔓延が危惧され、ワクチン接種についても自治体主導のものと職域接種が混在し、在庫不足が発覚。緊急事態宣言の発令もやむなしの情勢でした。

一方で東京2020オリンピックは一部地域を除いて無観客での開催が決定し、緊急事態宣言下のまま7月23日の開会式を迎えようとしています。

正直、「もうちょっと何とかならんかったんか」と思ってます。

ウイルスの蔓延を落ち着かせ、市民の営みもパンデミック以前の姿を取り戻し、招致に成功した大会を笑顔で迎えることがどうしてできなかったのか。ひとりのスポーツファンとして、とても残念に思っています。

もちろん医療従事者のみなさんや、大会組織委員会の現場のみなさんが身を粉にして奮闘されていることは百も承知です。こんなにも早くワクチンができたんだから、それだけでも良しとすべきかもしれません。

それでもオリンピックについては、もうちょっと「政治の力」で何とかならなかったのか。観客を入れての通常開催ができる可能性もゼロではなかったのではないかと個人的に思っています。

そう、「ものの伝え方」次第では。



そもそもオリンピック開催の是非や「五輪ありき」に映る国や都、大会組織委員会のふるまいについては議論の分かれるところです。ネットを見ていると、やはり否定的な意見が多く目につきます。

その点はひとまず置いておくとして、従来のように観客を入れた形のオリンピックをめざしていたのだとすれば、そもそも「伝え方の順序」が間違っていたのではないでしょうか。


菅首相は2021年7月1日、記者団に対してこう述べています。

「先般、記者から『緊急事態宣言の時はどうするのか』という質問をいただいた。その時に『無観客もありうる』ということを私から明言している。


本来の日程から1年後に延期された「仕切り直しの大会」まで1か月を切った段階でなお「無観客もありうる」という伝え方を、国のリーダーがしています。

つまり有観客ありきの姿勢は揺らがず、無観客はプランB。

そのプランBすら存在しているのか疑わしいところです。

いざ大会が始まれば「実は無観客を想定して、こんな準備をしてました」ということが明らかになるのかもしれませんが、現時点では具体的な計画があるのかないのか言及がありません。

なので「なし崩し的に決まってしまった無観客開催」を今からどうにかやり過ごすのでは、という悲観的な見方しかできません。


【 現実 】

有観客ありき → なし崩し的に無観客開催


この順序が、もしも逆だったとすれば。

できるだけ早い段階で「無観客開催」を決めてしまい、たとえばウイルスの感染状況を示す指標である実行再生産数が「○月までに○○以下」になれば有観客にする、といった数値目標を掲げることができていれば。

もしかしたら「目標達成に向けて、みんなで頑張ろう」という機運を盛り上げられたかもしれません。

その結果、市民のあいだでもウイルスの感染拡大防止に対する強い意識を保ち続けられたかもしれません。


【 理想 】

無観客決定 → 目標を達成できたら有観客開催


もはや慣れっこになってしまって4度目の緊急事態宣言が十分な効果を発揮しそうにない今、つくづく「ものの伝え方」が大事だったなと感じています。

それに、もしも無観客開催を早々に決定していれば、無観客であることを逆手にとった面白い試みができていたかもしれません。

メディアアーティストの八谷和彦さんも、こんなことを述べられています。



他にも、たとえば複数のドローンを用いて夜空に映像を映し出し、まるで月を見上げるようにどの家からも等しく見られるような技術にトライできていれば「みんなで空を見上げるオリンピック」が実現できていたかもしれません。

スタジアムやパブリックビューイングの会場などで大勢が一か所に集まることなく、自宅にいながら空を見上げるだけで選手の頑張りに触れられる。ぐひいては都心の空を飛行して医療従事者を励ましたブルーインパルスのような効果も期待できたはず。

実際、技術的には近いところまで確立されています。こちらの動画は上海での試みですが、2021年4月に1500機のドローンで編隊を組み、夜空にアートを映し出すショーを実現しています。

(ちなみに現時点で編隊ドローン数のギネス記録は3,281機だそう)



映像というのは「光の粒の集まり」で構成されていますから、こうした発光ドローンをコントロールする技術を突き詰めれば「競技のLIVE中継」は難しくとも「その日の主な競技のハイライト」を映し出すくらいは実現できたのではないでしょうか。

市民に向かって「飲食店の営業は20時まで」「お酒の提供は認めない」といった強いメッセージを打ち出せるのなら「夜空にドローンで映し出せ」くらいのことは政治主導で成し得たのではないかと思えてなりません。

(すでに関係者が準備中だったらすみません)



思えば「緊急事態宣言」という言葉もずっとあいまいなままでした。

いまだに「緊急事態」と「非常事態」を混同する人が少なくありませんし、何がどう緊急事態なのか言葉の定義が分かりにくいまま「心に響かない4度目」を迎えてしまいました。

個人的には、もっと具体的な言葉に言い換えてもよかったように思います。

たとえば鹿児島県らが独自に発令していた「感染拡大警報」のほうが、何が危険であるかのイメージが湧きます。あるいは「外出注意報」「自宅待機宣言」といった具体的な行動を伴う言葉のほうが、私たちが何をすべきか明確でした。

小池百合子都知事も「五つの小」「ひきしめよう」「8時にはみんなかえる」といった分かりやすい標語を掲げていましたが、こちらはメッセージが乱発された印象で、どうも覚えにくかったです。唯一、定着したのは「3密」くらいでしょうか。



やはり言葉というのは大事です。

しっかり定義された具体的で強い言葉を定めて、周知徹底に努める。みんなが一丸となれるようなポジティブな発信をする。順序も含め、伝え方にも留意する。

パンデミックを落ち着かせ、オリンピックを万全の状態で開催するには、こうしたことが大事だったように思います。

今となっては「後の政(まつり)」なんですけどね。

とにかく今はクラスターの発生やデルタ株の蔓延を抑えて、無事に大会が終わることを祈りたいと思います。どうかこれ以上、オリンピックが嫌われませんように。

あ、サッカー男子のメダル獲得に期待してます。


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