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転売屋をなくすため、草むしりから始めたい

転売ヤーと呼ばれる、市場を乱す迷惑な人たち。中でも悪質なのが、在庫を持たずに空売りしている「無在庫転売屋」、名づけてムザイヤーです。

えっ、在庫もないのに転売できるの? と思いがちですが、できます。商品画像さえあれば、ネットで簡単にできてしまいます。

でも、無在庫転売なるものがこの世に存在するなんて、ご存知ない方もいらっしゃると思います。

今日はこの問題に悩まされているメーカーのひとりとして、無在庫転売とは何か、どうすればそれらをなくすことができるのか、考えをまとめてみたいと思います。


無在庫転売に気づいたきっかけ


私は普段、オリジナル文具や雑貨を販売するメーカーを経営しています。最近だと「WORKERS'BOX」という書類収納ボックスを販売しています。



この商品の販売サイトは現在、自社で運営している「STORES」と、在庫を預けて発送までお任せしている「Amazon」の2つに限定しています。

ところが店舗を持っていない「楽天」や「Yahoo!ショッピング」内で「ワーカーズボックス」と検索してみると、自分たちの知らないうちに販売されていることがあります。しかも店名を見てみると、聞いたことのない名前ばかり。取引先の小売店さんでもありません。

そして、それぞれの販売ページをざっと見てみると、ある共通点に気がつきました。


・Amazonのページから商品画像を流用している

・Amazonのページから商品名をコピペしている

・Amazonで設定している価格より5割ほど高い


Amazonの販売ページに掲載している画像はAmazon用に独自に作成し、商品名もAmazon独自の表記ルールに則ってつけてます。ですので、ネタ元がすぐに分かります。

間違いなくAmazonからコピペされています。

そこで「なんだこれは」と思い、ググってあれこれ調べているうちに「無在庫転売」なるビジネスが存在していることを知りました。


ムザイヤーのやり口


彼らのやり口は、こうです。

まず「ネットで売れそうな商品」を見つけ、Amazonに販売されていたら、そこから掲載画像をダウンロード。商品の説明テキストもあわせてコピーします。

次に彼らがアカウントを持っている楽天やYahoo!ショッピングといったショッピングモールにペーストして「出品」し、Amazonの価格よりも5割ほど高い値段を設定します。

一見手間に思えますが、出品作業を自動化するツールもあるようです。

そして楽天やYahoo!ショッピングでモノが売れたら、ネタ元であるAmazonで購入(=仕入れ)します。つまり在庫は持たず、売れたとなったら初めて仕入れるスタイルです。金銭的にノーリスク。

その際、一度自分たちの手元に商品を取り寄せる場合もあるでしょうが、ほとんどの場合はお客さんのもとに直送します(=Amazonで購入する際に届け先として指定する)。その方が自分たちで送料を負担しなくて済みますから。

ですので無在庫転売は「直送転売」とも呼ばれています。

このように在庫を抱えるリスクもなく、なんなら商品の実物を一度も見ずに、ネタ元の価格に上乗せした分を「手数料」として手に入れる。これがムザイヤーの手口です。


【無在庫転売の一例】

Amazonで3,000円の商品を見つける

楽天にコピーして5,000円で出品する

楽天で売れたらAmazonで3,000円で購入する

楽天で買ったお客さんにAmazonから直送する

2,000円(5,000円-3,000円)の利ざやを得る


もちろん上記とは逆に、楽天で見つけた商品をAmazonに高額出品する、というパターンもあります。

ヤフオクなどのオークションサイトや、メルカリなどのフリマアプリも含めれば、ネタ元と売り先の組み合わせはさまざまです。


ただし転売は違法ではない


ただしモノを転売すること自体は、違法ではありません。

2019年6月に施行された「チケット不正転売禁止法」の対象であるコンサート等のチケットや「国民生活安定緊急措置法」の改正で名指しされた高額転売マスクは規制の対象ですが、法律で指定されていないものを転売することは現在の法律には反していません。

思えばフリーマーケットやメルカリなども未使用品を出品できるという意味では転売と言えます。なので、それらを広く取り締まることは難しい側面もあるのだと思います。不要なものを捨てずに、必要な人に届けられる点では地球にやさしいとも言えますからね。


モールは無在庫転売を禁止している


その代わり、ショッピングモール側は明確に無在庫転売を禁止しています。

たとえばYahoo!ショッピングのガイドラインには次のような記述があります。


Yahoo!ショッピング ストア運用ガイドライン
第1章 基本ルール
第2 運営理念
6 商品の在庫が確保されていないにもかかわらず商品掲載をおこなう見せかけ販売や、その商品の人気が高いように見せるようなランキング不正操作などの客引き行為をおこなうことは禁止します。
(2020年6月16日改定)


上記に反した行為が発覚すると、出品者は警告を受け、それでも改善されない場合は休店またはアカウント停止の措置をとられる可能性があります。

楽天においても規約やガイドラインで「無在庫転売を禁止」とは定めていないものの、それに類する行為が確認されれば反則ポイントを与えています。ポイントが累積されると利用制限や営業停止の措置をとる「違反点数制度」で、取り締まりを強化しているようです。



また、Amazonは在庫を持たずにモノを販売することは認めているものの、「別のオンライン小売業者から商品を購入し、その小売業者から購入者に直接出荷すること」は明確に禁止しています。


Amazon ドロップシッピングポリシー

出品者が、在庫を持たずに、卸売業者やメーカーなどから直接購入者に商品を出荷・配送する形態であるドロップシッピングは、原則として認められています。

(中略)

例えば、以下のようなドロップシッピングは禁止されています。
・別のオンライン小売業者から商品を購入し、その小売業者から購入者に直接出荷すること。
・納品書や請求書などに自身以外の販売者名や連絡先情報を記載して、注文商品を出荷すること。

これらの要件が遵守されない場合は、出品者の出品権限が一時停止または取り消されることがあります。


このようにモール側が具体的な対策に乗り出しているのは、ムザイヤーを放置すれば「モールの信用を棄損するから」に他なりません。

だって、相場以上の価格をつけられた商品ばかりがコピペでずらずら並んでいたら、モノを売り買いする楽しみが奪われるじゃないですか。誰もそのモールを利用しなくなるし、誰も出店しなくなるでしょう。

だからモール側としても、利ざやで稼ぐだけの出品者がはびこる事態は避けたいはずです。


一番の被害者はお客さん


無在庫転売というやり口は現時点では違法ではないものの、ビジネスとも呼べない、まさに「虚業」。誰にも歓迎されない、さもしい商売です。

そして言わずもがなですが、一番の被害者はもちろん、ムザイヤーが「販売」したものを知らずに買ってしまったお客さんです。

本当は3,000円で買えるのに、不当な2,000円を上乗せされて、結果的に5,000円で買ってしまったのだと後で知ったら、自分だったら馬鹿にされた気になります。

本来は楽しいものであるはずのお買いものが、とても残念な体験になってしまう。こういう世の中は変えていかなきゃいけないと、一当事者として感じているところです。


メーカーには何ができるか


必死の努力でオリジナル商品を生み出して、1円単位でコストを計算しているメーカーの立場からしても、ムザイヤーの存在を見過ごすわけにはいきません。

法外な「手数料」を勝手に上乗せし、メーカーの知らないところでこっそり販売されてはたまったものではないですし、自分たちの知らないところでお客さんを悲しい気持ちにさせているかもしれないからです。

じゃあ、メーカーに何ができるのか。

これはもう、地道に「通報」するしかないと思っています。

楽天やYahoo!ショッピングの販売ページには「不適切な商品を報告」とか「違反商品の申告をする」といったテキストリンクが必ず貼られているので、そちらから「この業者は無在庫転売をしている」とモール側に伝えるのです。

もちろん業者の連絡先に直接コンタクトを取るのが早いのですが、当事者間でやり合うのはトラブルの元。まずは通報システムでモール側にジャッジしてもらうのが先決でしょう。それでも改善されないようなら、直接ナシをつける。

業者も業者で、これがメシの種ですから、一瞬姿をくらまして、また同じページで再開したり、アカウントを変えて同じことを始めるかもしれません。なのでメーカーは定期的にパトロールして、また現れたら何度でも対処すべきです。面倒くさいですけど、お客さんに損をさせないためです。

それにネット上できれいな花をいつまでも咲かせたいなら、まわりの雑草は刈り取ったほうが絶対いいです。


本当の被害者はムザイヤーかも


と、ここで書き終えてもよかったのですが、最後に思ったのは「本当の被害者はムザイヤー自身なのかもしれない」ということです。

「無在庫転売」や「直送転売」のキーワードでググってみると、そのノウハウを伝授するサイトが山のように見つかります。note内で検索しても、そのようなお行儀のよくない情報がたくさんヒットします。

さらには「ノーリスクで儲かるよ」の煽り文句で、そのテクニックを高額で売りつける「情報商材」まで存在しています。

だから今はムザイヤーと化している人たちも、本当はそんなことをやりたいわけではなくて、でも何らかの方法でお金を稼がなきゃいけなくて、その手の煽り文句に乗せられて、つけこまれている可能性があります。そう考えると、彼らにも同情の余地があります。

インターネットやECの歴史はまだまだ浅く、人類が直面して間もないものです。だから「こういうのはよくないよね」というものをなるべく減らしていって、お庭をきれいにしていく意識が大事だと思います。

自分自身もメーカーのひとりとして、「いいインターネット」を後世に残せるよう、まずは「通報」という名の草むしりから取り組んでいこうと思います。



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