ブルーボトルコーヒーが自動販売機を置くワケ
先日、吉祥寺でこんな自動販売機を見かけました。
なんと、あの「サードウェーブ」という言葉とともに上陸したブルーボトルコーヒー専用の自動販売機です。
まっしろなボディーに青のブランドロゴがひときわ映えるデザイン。前を通りかかった人が思わず足を止め、まじまじ見つめているのが印象的でした。
ラインナップは水出しのコーヒー缶が3種類、コーヒー豆が3種類。加えてインスタントコーヒーと羊羹まで並んでいました。
検索して調べてみたところ、こうした自動販売機が設置されているのは現時点で都内に7か所(うち吉祥寺に2か所)。
場所によってはブルーボトルオリジナルのタンブラーやマスクケースなど、食品以外のラインナップもあるようです。
この自動販売機をひとめ見て、自分なりに「こういう理由で設置したんじゃないか」という推察をしたいと思います。
売上が出る広告として
まず感じたのは「ブランディングの一環」ではないかという点です。
この自動販売機は1台に複数のメーカーのドリンクが混在しているわけではなく、あくまでブルーボトルコーヒーの商品のみで構成されています。
数も少なく、同じ種類をいくつか並べていたりして、自動販売機のラインナップとしてはやや物足りない印象です。
けれども本体にプリントされた大きいロゴや統一感のあるパッケージがブランドの存在感を際立たせます。まず人の足を止め、ブランドの認知度を高めることにつながっている。
要するに広告ですね。
加えて自動販売機なので、実際に商品を買えてしまう。つまり「売上が出る広告」というわけです。
広告は街中に掲出すると期間に応じて費用が発生するばかりで、直接的な利益を生み出しません。ところが自動販売機が広告の役割を担ってくれれば、設置費(場所代)を補って余りある売上が見込めます。
もしかしたら商品補充の人件費を差し引いても余裕でお釣りがくるのではないでしょうか。
1本640円で意思表明
ブランディングの一環であることは、目玉商品である缶コーヒーが1本640円することからも分かります。
もともとブルーボトルコーヒーの店舗内でも買える缶コーヒーですが、自動販売機やコンビニで1本100円ちょっとで買えてしまう一般的な缶コーヒーとは一線を画した、強気の価格と言えます。
「缶コーヒーってこれくらいの値段だよね」という固定概念にとらわれず、「我々は安売りをしない」「味には自信がある」というブランドのたしかな姿勢を表明していますよね。
ダイレクトに届けるD2C
モノの値段というのは売り手と買い手の納得値ですから、そもそも「市場価格」というのはあってないようなもの。買う側がその値段に納得し、満足感を得られれば取引が成立するわけです。
なので1本640円の缶コーヒーがあっても何ら不思議ではないですし、メーカーとしても消費者の期待値を鑑みた上で設定した価格なのかなと個人的に思います。
もしこのメーカーと消費者のあいだに卸売業者なんかが割って入ると価格のコントロールは難しくなりますが、メーカーがダイレクトに届ける関係性にある限り、価格設定は自由です。
ちなみにメーカーと消費者の間に卸売業者や小売業者が介在しないスタイルを「D2C(Direct to Costomer)」と言います。
ブルーボトルコーヒーが自動販売機を通じて体現している形も、「D2C(Drink to Costomer)」と言えるでしょう。
いや、ちょっと言いたかっただけです。
未出店エリアに「はじめまして」
この自動販売機はブランディングの一環であると同時に、マーケティングの役割も担っているように思います。
というのも、現時点で設置されているのは7か所と少数ながら、いずれもブルーボトルコーヒーが出店していないエリアであるという特徴があるんです(六本木を除く)。
つまり未出店エリアかつ、将来的に進出するかもしれない「見込みのあるエリア」で、テストをしているのではないでしょうか。
いきなり大きな費用をかけて店舗を構えるのはリスクがありますが、その前に自分たちのブランドが近隣の方々にどの程度受け入れられるのかを、自動販売機を通じて見定める意図があるように思います。
それにもし将来的に出店することになれば、この自動販売機が結果的に「はじめまして」と自己紹介をしていたことにもなりますね。
ある意味、ティザー広告的です。
あえて現金を使わせない?
マーケティング目的を担っているのでは、と推察した理由がもうひとつ。
自動販売機の本体に現金の投入口があるにはあるのですが、なんと使えません。使える決済手段はクレジットカードか交通系ICカードのみです。
これは「自動販売機としての利便性は二の次」であることを表していると思います。ブランディングやマーケティングの一環(推察)ですし、決済手段を増やして消費者が買いやすくするという考えはあまり強くないはず。
現金だと回収するスタッフも必要になりますし、盗難リスクもありますしね。(日本ではあまり聞きませんが、海外では自動販売機ごと盗まれるケースがあります)
それに、ここが大きな理由だと思うのですが、クレジットカードや交通系ICカードで決済されれば購入履歴が取得できます。何が、いつ、何個売れたのか、データとして蓄積されれば今後の出店計画の大きなヒントになり得ます。
なので自動販売機の本体そのものは現金の投入口がもともと付いてる既存のものをリースか何かで取得しつつも、あくまで履歴が残るカード決済のみに意図的に絞っているのではないでしょうか。
モノを売るのは面白い
以上のことは、いずれも憶測の域を出ません。もっと他の意図があるかもしれませんので、断定できることは何ひとつありません。
ただひとつ言えるのは「モノを売るって面白い」ということ。
自動販売機ってこうだよね、缶コーヒーってこうだよね、ブランディングってこうだよね、という固定概念にとらわれないブルーボトルコーヒーの試みからは「モノの売り方にはまだまだ工夫の余地がある」と感じられました。
モノを作るのも面白いですが、それと同じくらいモノを売るのも面白いんですよね。そして、そのアイデアを考えるのが何より楽しいです。
モノづくりをされている方、販売や販促に従事されている方。アイデア次第で世界はまだまだ面白くなるはずですよ。
僕もがんばります。
【お知らせ】
この note はモノづくりするラジオ局「Quest FM」の Podcast をもとに書きました。3名のメンバーが「YOSAGEMONO(良さげもの)」をプレゼンする番組で、毎週月曜夜10時に Youtube LIVE を、翌火曜日に音声のみの Podcast が配信されます。
「QuestFM」の活動をチラ見したり、収録のライブ配信をリアルタイムで見られるFacebookグループ「Quest FM ARENA」や、ライブ収録後に行われるアフターショー(ZOOM)に参加できる月額有料コミュニティー「Quest FM Backstage」も。
詳細やリンク先は「QuestFM」のサイトをご覧ください。
【松岡厚志 PROFILE】
ハイモジモジ代表。書類収納の決定版「WORKERS'BOX」ほか、思わず膝を打つアイデア・プロダクトを発信している。フリーライター、ネーム・デザイナー(ネーミングの専門家)、モノづくりするラジオ局「Quest FM」のDJ Atsushi、御茶の水美術専門学校非常勤講師などの顔を持つ。
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