食材

 作業所からの帰宅後、時間に余裕が見られたので気まぐれにも自炊に挑戦してみた。同居している両親や兄を合わせた四人分を想定して、万一または半々、それか十中八九の確率で失敗作に終わることを考慮に入れつつ、食べてみたい料理を思い描いては冷蔵庫を漁る。
 開封済みの徳用もやしを見つけた。1パック100g弱の豚こま肉も取り出した。長いこと野菜室の番をしている板こんにゃくを救出して、柔らかく熟すトマトも拾い上げた。未開封のピザ用チーズと結びつけて、半端に余るお好み焼き粉に目を留めて。そして、卵だ。ここからわたしの頭の中は「豚平焼き」なる解答をはじき出した。

 豚平焼きを作ったのはいつ以来だろうか。否、どうやら全くの未経験、未知数の料理である。では、豚平焼きを食べたのはいつ以来となるだろう。ここに数年前の古い記憶が呼び起こされる。実のところは後にも先にも一度っきりと味わった炉端焼き店のおぼろげなセピア調の思い出であった。
 後に二枚のフライパンを行き来する物体を見た母親は、それをお好み焼きの未完成品と認識して、調理中のわたしにフォローの言葉をかけた。

「いや、豚平焼きを作ろうと思って」
「豚平焼きって言うの、それ。一体、どんな料理なんだろう」



 こんな料理である。大雑把な解釈で言えばお好み焼きの具材を粉でまとめずにオムレツで包むイメージとなるようだ。

 ふむふむ、なるほど。言うまでもなく失敗作ができあがってしまった。わたしはお好み焼きもどき二食分を腹の中に収めて、残りを家族に食べてもらうことにした。
 お腹の中も心の中もいっぱいいっぱいになっている。ピザ用チーズを入れ過ぎたことでやや胃もたれもしている。ちょうど今の時間に両親が食しているところでもある。食後の感想はnoteを書き終えたあとにでも聞いておこうと思う。

 そんなわけでいっぱいになって一敗を喫した今日の気まぐれなクッキングであったが、とん平焼き、いつかリベンジを果たしたいと誓う。わたしにとって自炊、調理は自分自身が満足の行く言葉を得られるまでと定めており、洗い物を済ませることで完了となる。いつかそんな話を得意気に作業所の女性スタッフへ告げたところで、「次に調理する際はちゃんと買い物から行ってくださいね」と一蹴されてしまうのだけれど。
 主婦または主夫、親による目線というものは想像以上に鋭い。

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