寄り道

 まずは記事を開いてくれてありがとう。
自己紹介しますね。

 わたしは今年35歳になりました。
これまでで社会人、正社員として働いた期間は23歳から24歳までの1年ほどです。
現在はパートタイム雇用で、とある福祉事業所に従事しています。
11月で丸3年、目標とする勤続6年、なかなか行き先は見えない状態です。


 ええと。
 社会人とは言ったものの実家から通う身はよそから見たらどう思われてるだろう。
あまり考えずに日々を過ごしてるけれど振り返られる昔よりもずっと他人の目が行き届かなくなってるのかもしれない。
年齢によるものか、周辺の環境変化によるものか、まあ相手にとってわたしはそこまで重要な立場にいないんだなあって。
だからだろうね、今から生きていく時間こそ誰のために残すか意識するんだと思う。
まず一番にわたし自身のため、それ以上に大切な人のため、近しい人たちに家族、他の人々、優先する順番を考えてみる。
これって、この年齢になってようやく分かりつつあるんだけれど、優先度の低いところは簡単に退けられる、そうなってるんだ。

 実例を挙げると2週間も続かなかったバイト先かな。
「無理です、辞めます」そんな一言で店長は辞めさせてくれた。
「一つも役に立たなかったって聞いていたよ。いい歳してこんな、これからどうするの」
「すみませんでした」
このやり取りが最後。
いつかどこかでばったり会ったとしても、あの2週間にはどちらからも一切触れないと思う、失礼な話、店長の顔も名前も忘れてしまっているし。
それに優先度の低い場所であっても、継続できた時間の積み重ねがあなたに説得力を持たせてくれる。
わたしの経験も一つの考え方で、手段や道としてあなたにあるかも。
 最近あった同僚たちの会話は、勤続1〜2年に満たない従業員の入れ替わりが激しいと嘆いていたから、何も考えずに乗っかってみた。
「ここの開設から丸3年、わたしも同じく3年間。区切りとしてはタイミングも良いんじゃないかと思ってます」
「辞めるって、いや、それ、誰も考えてないです」
「論外」 
同僚は2人とも真剣には受け止めず、笑ってる。
正直、勤め先の所長にも、あの2週間店長と同じようにわたしを考えていたと聞かされたことはあるんだけどね。

 優先と継続、この2つじゃないかな。
継続できるものほど優先度は高くて留めておかないといけない。
 そうすると、最高なのは、大切なものや誰かのために目一杯の時間を分け与えられることで、そこに何が必要なのかを絞って考えたら良い。
これからの行き先、今日からのあなたについて。


 朝が早ければこの辺で切り上げようか、夜更かしが許されたならば、まだしばらく続けよう。
夜はいつも長かったし、いつまでも長く残ってる。

 わたしたちも仲間内で語り合う深夜の楽しさを忘れずにいるから、可能な限りあの瞬間の盛り上がりへと気分を近づけたい。
青く澄む暗がりになお続く明け方のバカバカしさ、全ての言動を受け入れてくれる宵闇の偉大さ、週末の始まりを告げる呼び出し音の荒々しさ、思い出話でしか存在し得ないそれぞれの未成熟さ。
 どこに座ってたっけ、軽ワゴンの後部座席、公園にある白いベンチ、早朝はファミレスだったら喫煙席。
 何を話そうか。

 例えば今日なら宿題についてとか。
「そういやノリアキはなんで高校辞めたの」
「夏課題が提出できなくて。ずっと休みまくってたら出席日数が足りなくて留年した。そして自主退学」
 いや、無いわ。
相手は「えっ、それだけ」って呆れてた。
他にも理由らしきはあるっちゃあるけれど、察せられるくらいの無知だったから、学歴も資格の一つという考えが及ばなかった。
資格を取得するための資格、基礎とか地盤とか土台とか下準備とか一次審査とか、何かそんな意味。
あなたの就きたい職業は、なら必要な資格はこれ、あと有利な資格はあれ、それから受験する条件があります、一定以上の学歴か実務経験です。
中卒のわたしには選択肢が限られて、数年以上働くか、三年間を学ぶ代わりに高認を目指すか、そのどちらかしかない。
条件には年齢制限が加わる場合もあるし。
うん、回り道のつけを支払う機会はまだ残されてる。

 発言は今年を祝う同窓会の一場面になるけれど、『学年三位エザワ事変』なる昔話も面白かったな。
ショウタの第一声からもう奮ってた。
「おっ、ノリアキ。何年ぶりよ、ちょうど聞きたいことがあった。ああー、ウエハタ、エザワ夫妻も。お前らは結構会うけれど。ノリアキ知らないか、『エザワ事変』の真相」
「エザワ事変って、何」
 旧知の四人に共通項は多くあって、退いた分だけわたしが逸れてしまう。
振り返れば高校入学のクラス編成から引きずった勝手な劣等も三人は平常に取り払ってくれた。
ショウタの語り口は昔のままで、正確には口調を戻す必要すら無い。
「中学高校の六年間で、一度だけエザワが定期テストで三位になったって、この前会った時に判明してて」
「なにそれ、普通にすごいんだけど」
「それの一位が誰かわからんの。俺じゃないし、ウエハタも違うって」
「ああ、あー」

 わたしは中学一年から順に思い返した。
ショウタは都内某所にて打ち明けられた『エザワ事変』を再現して、語りは小学校の担任にまで戻っている。
「六年一組の先生は覚えてる、そうそう。あのナガセ先生に相当叱られた。『あんたなんか、エザワの足元にも及ばないよ』って、小学校六年生でこの言われよう。こいつの勉強方法とか想像の先をずっと超えてるもん、レベルが違う。どれだけ面白い数式を覚えられるか、楽しい暗記を見つけられるかとか。全く共感できなかった」
横で茶々を入れつつ否定はしないウエハタの妻、エザワさんは、ショウタの口述を聞く限り学年で三位を取ったのが一度きり。
 あの時に違いない、理科のテストでエザワさんも点数を差し引かれていたはずと記憶を頼る。
夏課題諸々を提出しなかったわたしでも、過去に二回だけエザワさんの順位を上回っていたと思い浮かべられる。
正確には一回だ、採点ミスでプラスされたノーコンテストの首位を省いて。
となると『事変』の真相が見えてくる。
思い当たる照合を済ませて、ショウタの語りに加わった。

 本当レベルが違うな。
書き起こす文体まで普段に戻っていたよ。
「多分、あれ、夏休み明けの中間テストでしょ。で、ヤマカワ先生。その時だけ理科の配点が特殊だったのよ」
ショウタ、ウエハタ、反応はそれぞれ、ウエハタ妻はあっけらかんな様子。
二十年前の会話さえ創出できてしまうくらい覚えていた。

 二年三組の教室。
二学期の中間テストが明けて成績表が配られた。
同じクラスのエザワさんが駆け寄る。
かの表情は晴々、何なら笑ってしまっている。
「どうしよう。初めて三位になっちゃった」
わたしもエザワさんも、「どうしよう」を汲み取れずにいた。
生徒の返事が響く理科室にて、夏休み前のヤマカワ先生は一案を宣言する。
「えーと。夏休みの宿題は必ず提出してもらう。次回の中間テストは80点満点で、提出した人にだけ20点を加える配点で。分かったか」
「ハイ」
 真相などと勿体振ったがこの程度の謎だった。
いかにも離島の市立中学校に転がってる、ありきたりな昔話だろうか。
何故エザワさんが80満点というハンデを選択肢に加えたのかは不明まま、ゆっくりと一夜が戻る。 
わたしも、と言いかけて、止めた。
四人にとって期限の切れた夏休みの宿題なんか一過性の価値しか持たない、その程度だったからかな。


 こうやって書き始めてもスクロールが終わらない文章を羨んでる。
なかなか上手にはならないから、なおさらそう思う。
せめて一夜を明かすくらい、それだけ書き表せたら今を残しておけるのに。
 前回記事『人生を変えた出会い』は『Sehnsucht』の投稿ほど熱や時間をかけられない悔しさがあった。
『虹』や『迷彩』はわたしの精神疾患を扱い切れないまま投稿を終えた事実だけが残ってる。
わざわざ『虹(short mix)』や『パン屋さん』みたいな半鐘を置いたりで、いたたまれない。
 うーん。
 まだまだ始まったばかりだけれど、夜はバカバカしく飾りたい。
わたしも夏休みを土日で終えたら来週始まるアラセツ行事に切り替えよう。

 寄り道に付き合ってくれてどうもありがとう。
 あなたの言葉に会える日々を楽しみにしてる。


電気グルーヴより「虹 (Short Cut Mix)」




 エザワ事変より少しだけ前へと巻き戻る。
ショウタが店内のカラオケグループらに混ざっていた頃。
わたしも米津コールと合いの手を浴びながら『Loser』を歌い終えた。
中央テーブルにウエハタの姿を見て席を移動する。
「こっちは空いてる」
「おう、久しぶり」
「うん」
「元気そうね」
「うん、なんとかなってる、あの……」
ずっと会わずにいた年端が折り重なって、わたしは第一声から高校を退いた詫び言を告げる。
ウエハタの隣、エザワさんの表情が物案じにあったから、ここでサカタの名は挙がっていない。
エザワさんが目で追った。
わたしは気づかずにいた。
「まあ、誰彼そういった苦労をして来てるよ、みんな」
 ウエハタの言葉を胸中に刻む。
ショウタの声に振り向くまで。

 二時から三次会、わたしはウエハタと次の店を確かめた。
エザワ事変が過ぎ去って、歩きながら人物像を浮かべる。
頬がこけた姿ではなく、はつらつとはにかむ顔。
震えが止まらないタバコを持つ手ではなく、ボールを放つシュート動作。
本人がうそぶくハーモニカの演奏ではなく、家の二階から近くの交差点まで鳴り響くエレキギター。
そうして、弱々しく、か細い声。
夢に蝕まれたままの、無表情に遠くへ目線を切る入院患者。
 マサヒト、サカタマサヒト。
サカタ母の「マー」という呼び名に由来して「マージャン」と皆が呼んだ。
幼馴染のテルアキが「マーちゃん」を聞き間違えて以降、わたしたちはそう呼んだ。

 ウエハタは踏まえた上で、わたしにマージャンの状況を問いかけている。
「サカタマサヒトは、どうなってる」
わたしは努めて平坦に話す。
「マージャンは、マサヒトとは、五年前から入院中の姿を見てるよ。率直に良くない」
ウエハタの声に熱が帯びる。
「あの人は、何が、起こってる」
ただただ答える。
「わたしも経験したから言えるんだけど。あちら側の世界にいる、固まった妄想から、抜け出せずに日々を過ごしてる」
 ウエハタ、テル、ヨシイ君、ノリオ、マージャン。
更にはバレー部の面々も加わって、中学三年間の放課後をバスケに費やす。
ウエハタとサカタマサヒトは単なるバスケ仲間ではない、盟友だった。
ウエハタの姉とマージャンの姉も深交にあるのにと、悔しみが、声となる。
「どうすれば良くなる」
答えを待つ。

 決して、良くならない、あれでは。
言葉を組み替えながら均す。
マージャンはいよいよ現実に向かわないといけない、蝕まれる夢を実現するために、残された時間を逆算して、叶う夢だけに絞って、必要な、大切な、最高な、残り時間と現実……。
 そのためなら、どんな失敗だって、わたしはきっと受け入れられる。
そうやって歩いてきた道をマージャンが追い抜いていく日まで。
これからの夜を目指して。

 後部座席、白いベンチ、早朝はファミレスだったら喫煙席。
 何を話そうか。




 題名に『道』を選ぼうと考えていましたが、一歳年上の宇多田ヒカルほど真っ直ぐじゃなかった。
ビリビリ動画でお別れです。


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