チョコレート

"We share the same dream."

チョコレートに刻まれたメッセージも気付かないまま、いつもであればすぐに食べ終えてしまうだろう。
実際にべとつく左手を気にするあまり、わたしはそのチョコを3回に分けて口に運んだ。
ガシガシと噛み砕きながら、甘い、甘いなあと。
チョコの包装跡も同様だ。
がさつの一意につきた。
ガサガサと破り散らしながら、ハートだ、ハートの形だなあと思っては、まじまじと手を止めた。

2月14日14時10分頃。
バレンタインデーに『チョコレート』という記事を書き進めている。
これを無事に投稿できたとしたら、わたしはわたしの働きを認めてあげようと思う。
手放しで喜ぶでもなく、高々と褒め称えるのでもなく、落ち着きを見て、一日の働きをわたし自身で認めてあげようと思う。
この時間帯にして、今日のわたしは仕事を終えた。
もう後は何もしなくて良い。
こうして明日のnote記事を書くのさえも自由だ。
夕食はそうめん汁。
食べた後は何時間と掛けて眠る準備を進めよう。
忘れずに服薬も、具合を見て、必要なら頓服に頼ろう。
それでいいじゃないか。

わたしは、今すぐにでも、今日のわたしの働きを認めていたい。
よくやった、そんなふうに力強く声を掛けたい。
あの診察室内の空気が全てを物語っていた。
わたしとハヤシバラ主治医と、同席を許されたわたしの両親との、4人のやり取りが、ハイライトによって思い出される。
ヒーローインタビューとまでは考えない。
ノーサイドの笛が鳴り響いては互いに頷いていた。
わたし達は良い話し合いができたのだ。

入院、任意、医療保護、服薬調整、多弁、陽性、テンション、同意、傾向が見られる。
様々な単語に"てにをは"をくっつけたならば、わたしの症状は大方説明できたらしい。
正直、声を荒げる事もあり得ただろう。
たかだか8年間の通院歴でもそれを許さなかった。
三度に渡る意思の不通という経験が活かされた。
主治医は「火山が噴火寸前の」という表現を用いても、わたしはできる限りの手を選んだと思う。
任意入院に向けた多数決を「個人の意思の尊重」というジョーカーで、それすらも覆される手はあったけれど、あり得たのだけれども。
わたし達は場を作る4名の、全員の合意を待つ事で、良い話し合いのまま終えたのだった。
それなら増薬につながっても厭わない。

手元には14錠ずつのアリピプラゾールとロナセンなる向精神薬が渡されている。
すでに一回の服薬も終えている。
わたしはちゃんと耐えられた。
全員の合意をあの一人だけだった状況から取り付けた。
それ以上に何がある。
それで良かったじゃないか。

それに新しく目標ができた。
一つを達成した直後にも次があった。
今日の目標とは、緊急時に連絡が取れる医療従事者との意思確認で、以前に就労継続支援B型の利用者でいた時期にわたしを担当していた相談支援員の方と話し合った上でそれを依頼した。
チョコレートを刻むあのメッセージには、担当していた相談支援員との会議室内の様子がありあり浮かぶ。

"We share the same dream."

あのままのわたしならチョコを食べていただろう。
会話中でも話を聞かない一方的な調子を咎められなければ、咎めた相手に向かってもしも逆上したなら、これをチョコ毎食べていただろう。
この気付きが服薬以前に作用するような特効薬の効用だと勘違いされても。
静かな内省の音が響く会議室内の4人をこうして思い浮かべる事ができる。

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