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新語・流行語 フロム  フィンランド2022&2021

 2019年秋に「新語・流行語 フロム フィンランド2019」をお届けしました。が、昨年(2020年)は、このテーマを取り上げませんでしたので、2022年に入って間もない今回は、2020年と2021年の2年間に現れたフィンランド語の、新語・流行語・注目語の中から面白いな……と感じたものを幾つかお届けすることにします。情報源は、前回同様『フィンランド国語センター(Kotimaisten kielten keskus)』です。
 フィンランド語翻訳のうえやまみほこがお届けします。

【2020年篇】

japandi ⇒ヤパンディ

日本を表す「Japan」とスカンディナヴィアを表す「Skandinaavinen」をミックスした言葉。インテリアや内装に『日本風のミニマリズム(装飾などを可能な限り排し、主たる機能を追求する様式)』を北欧スタイルにミックスさせよう、という言葉です。ちなみにインテリア関係のWEBサイトでは『Japandi』スタイルが数多く提案されています。たとえば、黒い色のインテリアを部屋づくりのアクセントに使ってみたり、インテリアに手作りの(手作り風の)陶器や自然のアイテム(葉っぱなど)をデザインに入れてみたり、あるいはまた、天然色系の無地の単色ものでまとめてみたり、等々。この原稿を書くにあたってちょっと検索をしてみてびっくり。2021年に入ると、英語圏や日本のインテリア系のWEBサイトでも「Japandi(日本語ではジャパンディと読んでいます)」スタイルについての記事を見かけるようなりました。おしゃれに敏感な方には、すでに浸透し始めている言葉なのかも知れません。

kehoaisti⇒ケホアイスティ

ケホ=ボディ、身体から発信され情報を感じ取ること。フィンランドでは、人にとっての第6番目の感覚という説明をしています。日本語には、第六感という言葉がありますが、この「kehoaisti」という言葉が意味するところは、それとはちょっと違うようです。だからといって「体感」とも違うので、日本語にするなら、さて何だろうか…、と適訳を考えてみるのも面白いかもしれません。

koristeviiltely ⇒コリステヴィールテリュ

コリステ=「飾る」とか「飾り」の意。ヴィールテリュ=「傷をつけること」の意。それが合成されて、パンを焼く前に、焼き上がりに美しい形が浮かび上がるように入れる筋のことを意味するようになりました。コーヒーの表面にアートを描くラテアートは、もうすっかり当たり前になっていますが、パン好きさんの間では、既に「クープアート」と親しまれているものが、ようやく「お家時間」が増えた2020年にフィンランドにも定着し、パンをアーティスティックに楽しむようになってきたようです。ここで敢えてお伝えしたいのが、フィンランドの人たちは、フィンランド語の単語を作るという意識を大事にしている点。外から入ってきた物事について、多くはフィンランド語の単語を作ることが殆どで、この単語もその一つです。
フィンランド版「暮らしの手帳」で特集が組まれた際の記事のリンクは、こちら。

menikyyri ⇒メニキューリ

爪のおしゃれも日々進化しています。単に色を塗るだけでなく、ラメが入ったり、絵を描いたり、飾りをつけたり、物語があったりと、見ているだけで楽しくなるものも多くあります。楽器を弾く方などは職業柄、爪を守るためにマニキュアをしていることが多いですが、メニキューリは、英語のMen(男性)という言葉とマニキュア(フィンランド語だとマニキューリ)を合体させた新語です。過去にも男性がマニキュアをすることが流行ったことがありましたが、2020年に再ブームとなり、トレンド入りしたようです。ヘルシンギン・サノマット紙の記事。有料記事ですが、講読しなくても写真は見ることができます。

【2021年篇】

alamäkiuinti⇒アラマキウインティ

泳ぎながら川を下るスポーツの一種「ダウンヒルスウイム」のこと。フィンランド東北部にあるオウランカ国立公園内のオウランカ川で、2021年7月に第1回大会が開催されました。フィンランドの大自然の中、スイムスーツに身を包んだ大人たちが、二人一組で24㎞の距離を泳ぐ競技。短距離は12㎞。大会のWEBサイトに掲載されている動画がなかなかの迫力なので、ぜひ楽しんでください。

biofiktio⇒ビオフィクティオ

バイオフィクション、つまり主人公を、歴史上、実在した人物であるものの評伝や伝記のように、生い立ちからの出来事を事細かに描くのではなく、主人公の特に興味深い面に焦点を置いて描かれるフィクションの作品のこと。このジャンルで名前が挙がる作家には、4期にわたって大統領を務めたウルホ・ケッコネン大統領夫人で、作家のシュルヴィ・ケッコネンを主人公にした『Ensimmäinen nainen(仮邦題「ファースト・レディ」)』のヨハンナ・ヴェンホ(Johanna Venho)がいます。ヴェンホは、また2021年秋にトーヴェ・ヤンソンを主人公にしたバイオフィクション作品『Syyskirja(仮邦題「秋の本」)』も発表しています。

Johanna Venho 著 Syyskirja  WSOY出版 書影

biopaussi ⇒バイオパウッシ

バイオ・ポーズ。バイオ、この場合は、生理現象。つまり、お手洗い休憩。オンライン会議中などに取る休憩時間のこと。職場内や顧客とのオンライン会議中にお手洗い、トイレと直接的に表現することを避けようとした言葉ですね。

kattokävely⇒カットカヴェリュ(キャヴェリュ)

ルーフ・ウォーク。屋根伝いでお散歩すること。フィンランド国内で初めての屋根伝いでのお散歩場所は、タンペレ(観光ガイド風に説明するとムーミン博物館があることで有名な町。首都ヘルシンキからは、電車や長距離バスで1時間半ほどの距離)のフィンレイソン(フィンランドのテキスタイルブランドのひとつで創業は1820年)の建物の屋根。「工業都市」として発展してきたタンペレには、町の中心に統一感のある赤レンガの工場の建物が集中しています。今も操業中のところもあれば、博物館などに変わっているところも。そのひとつ、フィンレイソンの建物の屋根から、隣接する工場や町全体を眺めて街の歴史の説明を受けながら気持ちが良いお散歩ができます。安全確保のためにもちろん命綱を付けてのお散歩です。

kaakaopommi⇒カーカオポンミ

カカオ(ココア)爆弾。チョコレート爆弾という表現も。完成品で市販されているものもありますが、自作される方も。チョコレートで半球形を2つ作り、空洞部分にカカオの粉やマシュマロなどを入れて、合体させて球形に。それをカップに入れて上から熱くしたミルクをかけると、カカオ爆弾が爆発してココアの出来上がり!寒い冬、クリスマス時期のお楽しみ。シリコン型がない場合は、たまご型のチョコレート菓子を利用するという方法もあるようです。フィンランドのYLE(NHKに相当するテレビ局)の『6時半』という2分強の番組で作り方を紹介していましたので、自作されたい方は、ぜひチェックしてください。これからバレンタインの季節。日本にも「ホットチョコレートボム」という名前でそろそろ入ってきているようですよ。

hollantilainen ote ⇒ホッランティライネン・オテ

「オランダ風づかみ、オランダ風握り」とでも訳しましょうか。車から降りるためにドアを開けるときに、ドアより遠くにある手でドアの取っ手を握って開けると、自然に体をひねることになり、後方から来る自転車等に気づくことができる、という工夫。自転車王国オランダならではの発想ですね。

tulppaanihieronta⇒トゥルッパーニヒエロンタ

トゥルッパーニがチューリップ。ヒエロンタは、マッサージ。チューリップがつぼみの状態で花屋にたくさん並ぶのがフィンランドの春の風物詩。少しでも長い期間、花を楽しみたいという思いから生まれたアイディアだといえます。チューリップは、日の光に反応して開閉する花ですが、ほぼ咲ききったときに、花びらを優しく外向きに広げます。すると、今までのチューリップが咲いたときのイメージとは違った形で、今少しお花を楽しむことができるという訳です。こちらも、フィンランド版「暮らしの手帳」の記事をご案内します。

Zoom-ponnari⇒Zoomポンナリ

ZOOMポニーテール。つまり、ZOOMなどのオンライン会議で使うカメラに映る高さで作るポニーテールのこと。生活スタイルが変われば、その状況に合わせておしゃれも変わってくる、という美しく見せることへの飽くなき挑戦、あるいは、人の持つ性(さが)でしょうか。

さて、今年はどのような新単語が登場するのでしょうか。それを楽しみにしながら、日々を過ごしたいと思っています。

(文責:上山 美保子)

#北欧語書籍翻訳者の会  #フィンランド #新語 #流行語

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