新語・流行語 フロム フィンランド2019

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 早いもので2020年も余すところ、残り3か月と少しになりました。その今年、流行語大賞に確実にノミネートされるのは、新型コロナウィルス禍の中で生まれた「三密」「ソーシャルディスタンス」「withコロナ」あたりでしょうか。

 辞書に、新語や流行語が採択されるのは<一般語として広く定着した>と認識されてからなので、その言葉が生まれてからある程度の年月を要することは、『舟を編む』(三浦しをん・著)光文社文庫で広く知られるようになりました。そしてこの小説(や映画)は、国語辞書の編纂者や編集者たちの新語集めの作業など辞書作りの舞台裏を教えてくれました。

また「新解さんの謎(赤瀬川源平・著)文春文庫「学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方(サンキュータツオ・著)角川文庫「《広辞苑》をよむ」(今野真二・著)岩波新書は、辞書そのものが持つ面白さも教えてくれました。

だからこれらの本を読むと、書棚におぎょうぎよく収まっている辞書・辞典たちを、単にお部屋のアクセサリーとしてではなく、思いっきり使いこなさなければもったいないと気づかされます。なんといっても辞書編纂に携わる方々のそれにかける時間と情熱たるや半端なものではありませんから。

 いうまでもなく、新しい言葉や表現方法は、日々起こる新しい事象・現象に対応すべく誕生し続けます。また、元々あった言葉が、日々の何気ない生活の中から、突然、流行語のようにさっそうと現れることもあります。最近よく耳にする「心にささる」という言い方も、そうした新しい言葉の使い方の代表格ではないでしょうか。ちなみに私、この「心にささる」という言葉を聞くたびに、推理小説の謎解きの現場再現シーンが思い浮かび、刃物がもろに心臓に突き刺さる情景が浮かぶので、痛すぎて、あまり好きになれません。

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 さて、時期的に少し遅いかも知れませんが、今回は昨2019年のフィンランドの新語・注目語リストから、幾つか興味深い言葉を取り上げることにします。なお、毎年、この新語・注目語リストを発表するのは『フィンランド国語センター(Kotimaisten kielten keskus)』。日々、フィンランドの公用語(フィンランド語とスウェーデン語)の正しい使い方を啓発・啓蒙し、また新しい言葉に耳を傾け、それを記録し続けている人たちがいるところです。

hautaustahto=葬儀宣誓
 自分の葬儀のやり方や内容を、生前に宣言しておくという意味の言葉。わが国と同じように、かの国でも同じようなことが起こっていることを感じさせてくれる言葉です。別の言い方として「hautaustestamentti=葬儀遺言」という言い方もあるようです。

kombucha(読み方:こんぶちゃ)=紅茶キノコ
字面から、読み方が「昆布茶」となったので、まさか、フィンランドで昆布茶が注目の的に……?と驚きましたが、これはまさに「紅茶キノコ=コンブチャ」そのものです。「日本人の3倍から4倍のコーヒーを飲む」といわれるフィンランドで、「コンブチャ」という一見日本語か? と思われる言葉が新語リストに入ってくるとは……。なんだかウレシクなります。

kuiva baari=乾いたバー/潤いのないバー
 バーの雰囲気はあるのだけれど、提供する飲み物はノンアルばかりという「バー」のこと。お酒の勢いでいろいろなことをやっちゃうフィンランドで、雰囲気だけはバーというようなお店。どうも世界的なトレンドのようですね。日本にも完全ノンアルバーが今年7月のオープンしたと言うニュースまで見つかりました。

lentohäpeä=飛行の恥
 スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリの最近の気候変動への問題提起のひとつ。飛行機に乗ることが自然環境にどのような影響を及ぼすかを考えようと呼びかける言葉で、フィンランドでも、この問題をめぐって学生たちがストライキを行ったことがありました。

monomeikki=単色メイク(または、モノラルメイク)
 外出の際、まぶたや頬、くちびるなどにちょっと赤みが差すような紅色や、日焼けをしているように見える茶系統の色など、一色だけでメイクすること。シンプルメイクのお勧め、といったところでしょうか。昨年の春先から夏にかけて流行したメイクだとか。

multipotentiaalinen= マルチポテンシャル
 文字通り、様々な分野の事象に興味を抱き、また多岐にわたって可能性がある人のこと。こうしたマルチポテンシャルな人は、何事にも比較的早く一定のレベルまで到達できるが、反面、職人レベル、専門家と言われるレベルにはなかなか到達し難い、という意味も含まれているとされています。つまりは、器用貧乏ってことなのでしょうか。

oppimateriaalilisä =教材補助
 フィンランドでは教育費がかからない、と日本では多くの人に思われているようです。確かに、フィンランドでは所帯年収の格差で教育格差が生じることがないように教育制度が設計され、また、それを推進する政策が採られています。それでも、子どもを学校に通わせることに苦労している低所得家庭は存在します。そうした低所得家庭から職業訓練校へ通おうとする若い人たちや、高校に通っている学生たちに対する補助金のことを、この言葉は指しています。

puna-aika =日焼け(サンバーン)時間
 日本では、単に美しく見せるためだけではなく、肌の健康のためには小麦色に焼けた肌よりも圧倒的に白い肌、美白が好まれていますが、フィンランドの人たちは、秋から冬にかけて暗い時期を過ごしますので、夏の陽の光が大好きです。冬の間、あまりにも真っ白な肌は嫌だし、ビタミンDも取りたいからと、夏の間は積極的に陽光を浴びます。そこで困るのが日焼け(サンバーン)です。日焼け止めなどなしで、太陽の下で過ごしても日焼けを起こさない時間の長さは人それぞれ。だから、各自、日焼けをしない、自分の限界時間を知りましょう、という意味で使われるようになった言葉です。

tsundoku=積読 
 これはもう誰がみても日本語由来の言葉。そう、みなさまご存じの、家の中で起きている、書物にまつわるあの現象のことです。フィンランド国語センターが昨年の新語リストにこの事象を取り上げた、ということは、フィンランド人はこれまで、入手した書物は律義に読んでいたのでしょうか。

valevegaani=なんちゃって菜食主義 
 本当は、ベジタリアンでもないのに、ベジタリアンとしてふるまう人のこと。直訳すると「ウソ菜食主義」。フィンランドの人たちを見ていると、ベジタリアンであることを<おしゃれ>と思っている、あるいは<健康に気を使っている>ことをアピールしようとしているのかな、と感じることもあります。このあたりは、2013年に始まった「お肉を食べない10月(lihaton lokakuu)」キャンペーンとも関係しているのでは、とも思います。ちなみにこのキャンペーン、家畜の飼育が気候変動や自然環境にどれほど影響があるかを知らせるとともに、自分の健康を維持するためにも肉食を減らしましょう、という啓蒙・啓発活動です。今年もその準備は着々と進められ、すでに呼びかけが始まっています。

 このほか、中国由来の11月11日の「シングルデー(sinkkujen päivä)」や、世界の医療系コミッションEAT(Expertise Authoritativeness Trustworthy)が昨2019年11月に発表した『健康を重視した持続可能な食品システムに関する報告書』で地球環境や人々の健康を考えた食生活を提言した「惑星的食生活(planetaarinen ruokavalio)」など、日本ではまだ認知されていないものや、ほとんど報道されていない言葉も取り上げています。

(文責:上山 美保子

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