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訳書刊行イベントはやるべき?――翻訳者の悩み

皆プレゼンが怖い

 先週の土曜日(2023年7月8日)に、銀座ナルニア国さんで『デジタルおしゃぶりを外せない子どもたち』の講演会を開いていただきました。 

 参加者には子どものデジタル中毒に危機感を持っている方、強い関心をお持ちの方が多く、そういう方々と直接対話をし、ご意見をうかがえて本当によかったです。参加してくださった皆様、また銀座ナルニア国様にお礼申し上げます。

 講演会のお話をいただいたのは、私が立ち上げた出版社子ども時代の代表(1人出版社ですので)として、銀座ナルニア国さんに書店営業にうかがった時です。初めは銀座で話すなんて、私は本を書いたご本人ではないし・・・・・・とおじけづいて辞退してしまったのですが、しばらく考えて、やはりまたとない機会なのでチャレンジしてみたいとお伝えしたところ、快く迎え入れていただきました。子どものデジタル中毒について関心を持っている人が多いのではないかと書店員の方は考えたそうです。

 ただ募集がはじまってから、心中は穏やかではありませんでした。翻訳者の中にはお話上手な方、また教える仕事をしていたりと普段からお話慣れしている方も多いと思うのですが、私の場合は、普段翻訳するか、子育てしするかのどちらかで、人前で話すことは余り多くなく、恥ずかしがり屋な性格もあいまって、講演会やセミナーの前はいつも不安で仕方がなくなります。

役に立つ話をするよう心がける

 ですが今回、『最もシンプルな心をつかむプレゼン』(ダン・ローム著、花塚恵訳、かんき出版)という本を講演前に読み、プレゼンテーションが得意そうに見える人達も実は皆、プレゼン前にプレッシャーを感じたり、プレゼンをするのが怖いと思っていると知れたこと、またこれは自分にも関係する話だ、仕事や人生が今以上によくなる、役に立つ話だ、と聞き手に思わせることが大事と読んだことで、当日、自分を大きく見せたいという気持ちよりも、楽しんでもらいたい、役に立ちたいという思いで心を開いて話すことができました。また銀座ナルニア国の店員さんのアシストも心強く、大変助けられました。

 現在、本は700部ちょっと売れています。2500部刷ったので、残り1800部がわが家に山と積まれていて、夫とやや気まずい雰囲気、少なくともあと300部ぐらいは売れないと赤字です(涙)。知らんがな、という突っ込みが聞こえてきそうですが、引き続き書店様のご注文をお待ちしております。FAX番号が変わりました。以下からダウンロードお願いします。

  読者の皆様も書店でのご注文をよろしくお願いします。

翻訳者の悩み――本のイベントはやるべき?

 翻訳をしている人はきっと誰しも、訳書の刊行イベントをやるべきかどうか悩んだことがあるのではないかと思います。

訳書の刊行イベントに消極的な理由としては、以下のようなものが考えられるでしょう。

●人が集まらなくて書店さんに迷惑をかけてしまうかもしれない。
●出版社さんに平日夜や土日、残業や休日出勤をさせるのは申し訳ない。
●イベントをしても、本の売り上げに直結するか分からない。
●翻訳者本人が書いたわけではないので、話をするのが難しい。
●著者招致イベントをやるにしても、渡航費など出費が多すぎて、出版社の負担になりそう。
●プロモーションは出版社の仕事。決定権は出版社にあるので、訳者が口を出すのは憚られる。
●出版社さんが刊行イベント開催の経費を拠出できない可能性が高い。

これまで来日した北欧作家

 これまで来日された北欧作家にどなたがいるでしょう。私が覚えているのは以下の作家です。

(2009年)

アンドリ・スナイル・マグナソン(アイスランド)

(2010年)

アニカ・トール(スウェーデン)

(2013年)
グロー・ダーレ(ノルウェー)


(2014年)
レーナ・レヘトライネン(フィンランド)

カミラ・レックバリ(スウェーデン)

(2015年)

オーシル・カンスタ・ヨンセン(ノルウェー)

http://kubbe.tobikan.jp/pdf/document_all.pdf

ヨンナ・ビョルンシェーナ(スウェーデン)

サラ・シムッカ(フィンランド)


(2016年)
ヨハン・テオリン(スウェーデン)

トンミ・キンヌネン(フィンランド)

エンミ・イタランタ(フィンランド)

ヨーン・リーエル・ホルスト(ノルウェー)

カール・オーヴェ・クナウスゴール(ノルウェー)

(2017年)
ジョー・ネスボ(ノルウェ-)

(2019年)
ヨナス・ヨナソン(スウェーデン)

ミア・カンキマキ(フィンランド)

才能溢れるフィンランド人作家、ミア・カンキマキ氏がヨーロッパ文芸フェスティバルにて、彼女の新作「The Women I think about at night...

Posted by フィンランドセンター The Finnish Institute in Japan on Sunday, November 3, 2019

モーテン・デュアー(デンマーク)

(2022年)

ヤン・イーイスボー、ウルレク ・ブスク・ホフ(デンマーク)

著者来日イベントを見に行っての感想

 こうして一覧にしてみると、案外たくさん北欧の作家が来日していることが分かりました。このNOTEを書いている枇谷が訳した本のうち、著者が公式に招致され、来日したことがあるのは、『キュッパのはくぶつかん』のオーシル・カンスタ・ヨンセンさんだけですが、上記のほとんどの作家の講演、イベントの聴講にうかがっていることに今書いていて気付きました(ミーハーなのかもしれません 汗)。
 聴講してみての感想は、一言。

著者来日イベントはとっても楽しい! 

です。

 アニカ・トールさんの講演会では、訳者の菱木晃子さんが、アニカさんがあらかじめ用意してこられたスピーチを美しい日本語に翻訳され、翻訳というものの果たす役割の大きさを痛感させられました。自分もいつかそんな立派な翻訳家になれたらと夢を膨らませたものです。
 ノルウェー大使館で開かれた読者も参加できるパーティーで『猟犬』のヨーンさんとお話して、まるで主人公のヴィスティングとお話しているみたいで黄色い歓声を上げ、大興奮。ミーハー心丸出しでした。
 『わが闘争』のクナウスゴールさんを囲んでのノルウェー大使館のイベントで頬を赤らめ、興奮した様子で質問をするノルウェー人の青年の様子を見て、いかに『わが闘争』が現地ノルウェーで大きな作品なのか肌で感じることができました。後に私がクナウスゴールさんの師である、トマス・エスペダルさんの『歩くこと、または飼いならされずに詩的な人生を生きる術』を訳すことになったのは、この講演を聴き、意欲をかき立てられたのもひとつの動機となっています。

 ヨーロッパ文芸フェスティバルでミア・カンキマキさんの聡明なスピーチを聴いて、ますます『清少納言を求めて、フィンランドから京都へ』を一読者として大好きになりました。(注 私はフィンランド語は全く理解できません)etc.

 著者のオンラインイベントを開催してよかったこと

 私は自分が訳した翻訳書の著者来日イベントに主体的に関わったことはありませんが、昨年、翻訳、刊行した『デジタルおしゃぶりを外せない子どもたち』のオンラインでのイベントは主体となって開催いたしました。自分が設立した出版社なので、自分の裁量で決められるからです。

 やってみてよかったのは、著者のウッラさんのお話をうかがうことで、作品に対する理解をより深められたこと、また日本の読者の皆さんが子どものデジタル中毒についてどんな関心を持ち、どんな情報を求めてこの本を手にとってくださったのか、この本からどんなことを読み取り、子どもの教育、子育てに生かそうとしてくださったのかご意見をうかがえ、また読者の声を著者のウッラさんに届けられたことです。日本の読者と著者の対話が生まれたのは、何よりも大きな収穫でした。通訳をしてくださった東海大学講師のリセ・スコウさんに改めましてお礼申し上げます。

訳者による刊行イベントを行ってよかったこと

 今まで私が刊行イベントを一番多く行ったのは『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』です。フェミニズムについて子ども向けの易しい言葉で概念や歴史を紹介した本がこれまで余り出ておらず、こういう本を待っていましたと歓迎してくださったようです。フェミニズムやジェンダー平等への希求、期待感、問題意識を肌で感じることができたことは訳者として何にも替えがたい経験でした。どうもありがとうございました。
 お陰様で本は増刷もされ、長く読まれています。

 また先日銀座ナルニア国さんで開催していただいた『デジタルおしゃぶりを外せない子どもたち』についての訳者講演会では、日本の教育現場にいる方々や子育て支援をしている方々や親御さんから、子どものデジタル利用について皆さんがどんな悩みを抱えているのか、また日本の学校での急激なデジタル化に戸惑ってはいるものの、取るべき態度を決めかねている方達からのリアルなお気持ち、ご意見をうかがうことができました。
 詳細に亘ってデジタル中毒への対策法が綴されたこの本の読みどころ、デンマークという遠い国での出来事、問題を日本の皆さんに自分ごととして捉えてもらうために、本の内容をさらに咀嚼し、私なりの視点をまじえて、こんな風に自分は読みましたが、皆さんの抱いている問題意識は何ですか? その答えをこんな風に探してみてはどうでしょう? とご提案することができました。

訳書刊行イベントの難しい面


 今回の『デジタルおしゃぶりを外せない子どもたち』は私が設立した子ども時代から刊行した本なので、イベントで売れた本の利益の多くを、版元である私が手にすることができた点は、訳者として出版社さんから頼まれて翻訳をした場合とは大きな違いでした(ただまだ本の利益が上がっていないので、自分で版元を立ち上げて出した方が金銭面でメリットが大きいとは言えないです)。

著者と会う

 銀座ナルニア国さんでのイベントの後、別の本の著者と新宿でお会いしました。『私はいま自由なの?』(柏書房)のリン・スタルスベルグさんです。リンさんとは初めてお会いするのに、すぐに打ち解けて心が通じたのは驚きでした。ジェンダー平等についてリンさんがどんな議論をこれまでしてきたのか、どんな思いでこの本を書いたのか、現地でどんな評価をされているのかなどお話をうかがい、また私も日本で暮らし、日本のジェンダー平等がなかなか実現しないことへのフラストレーションを打ち明け、リンさんから励ましのお言葉をいただきました。また新作についてお話を伺うこともできました。

 北欧は夏休みが長く、長い休みに家族で海外に旅行するのも一般的なこともあり、プライベートで日本に旅行にいらしたついでに会わないかとお声がけいただくことは珍しくありません。
 これはリンさんのことではないのですが、北欧に行った時に著者の方とお会いすると、大抵日本に行ってみたい、日本で著書について話をしてみたいと皆さんおっしゃいます。北欧は文学財団などが著者の講演会、旅費の助成を出してくれるケースも多いので、著者としては是非日本で話したいと皆さんおっしゃられるのでしょうが、日本の出版社さんが積極的に著者を招致するかというと、労力の面からも利益の面からも現実的には難しいです。他の訳者さんで、こういう場合、訳者としてどうしたらよいのか、もしご意見や所感などお持ちでしたら、うかがえたら嬉しいです。

トーヴェ・ディトレウセンについて話したい

  徒然に、訳書刊行イベントについて書いてきましたが、私には今、(頼まれてもいないのに)お話してみたいと思っている訳書があります。それは最新の訳書である『結婚/毒 コペンハーゲン三部作』(トーヴェ・ディトレウセン作、みすず書房)です。

 トーヴェについてはあとがきや

 エトセトラ・ブックスさんのブログや

ZINE『北欧フェミニズム入門』

『海響 一号 大恋愛』をはじめ、文章を書いてきました。

 デンマークではトーヴェについて様々な研究がされてきて、彼女についてのドキュメンタリ番組や映画が公開されたり、数々の伝記が出版されたりしています。トーヴェというのは、人々の文学について語りたい欲をかき立てる作家なのです。
 翻訳者の仕事はまずよい翻訳をすることですが、翻訳を終え、本が刊行され、今のところ、刊行されて間もないのもあってか、反響はまだそれ程大きくないようです。(2つついているレビューを見るに好評のようですが。感謝します)

 大好きなトーヴェについてもしお話できる機会を与えていただけるなら、一生懸命お話しますので、ぜひ書店や図書館など、お声がけいただければ喜んでうかがいます。寄稿などもしてみたいと思っています。トーヴェが大好きだから。何卒、ご連絡をお待ちしております。

(文責:枇谷玲子

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