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2022年 フィンランドの図書館貸し出しランキング(カテゴリ別)

さてフィンランドは6月のはじめに学校が夏休みに入りました。そして夏至の頃から多くの大人も夏休みに入り、サマーコテージに行く人も増え、町中は閑散としているところも…。

夏と言えば、フィンランドの書店ではミステリなど肩肘張らずに読めるものが多く売り出される季節で、ゆったり休み期間中に気楽に読書を楽しむ人が多いようです。

新刊書店、または古書店で買う手もありますが、なにせフィンランドやデンマークは国民一人当たり図書貸出し数でトップを入れ替わり争う国。
 
という訳で、今回は昨年フィンランドの図書館で最も貸し出しが多かった書籍のランキングニュースを見たのでそちらをお伝えしようと思います。邦訳書がなければ、フィンランド人作家の名前をご存じの方はそもそもそれほど多くないかもしれませんが…(文末に元記事リンクを掲載します)

セイナヨキ市立図書館で思い思いの姿勢で本を読んだりできるスペース。


カテゴリ別に、まずはフィンランド国内の作家による小説。
 
1 Tekijä (2022) Enni Mustonen
2 Sinun, Margot (2021) Meri Valkama
3 Väylä (2021) Rosa Liksom
4 Näkijä (2021) Enni Mustonen
5 Ainoa kotini (2021) Hanna Brotherus
 
ご存じの作家名がありましたか? あっ、そもそも(二回目)どれが人名なのか、作品名なのか、ですよね?
作品名(出版年)、作者名、の順です。
 
1位 エンニ・ムストネン(本名はKirsti Manninenキルスティ・マンニネン)は女性を主人公とする歴史小説を数多く書いています。ダウントンアビーさながらの御屋敷での生活を描いた"Syrjästäkatsojan tarinoita(仮:片隅から眺めし者の物語)"10冊完結のシリーズなどはFacebookで8千人以上のコミュニティとなっていました。4位にも登場、さすがです。
2位 メリ・ヴァルカマ 「(仮)あなたを想って、マルゴより」Sinunは直訳であなたの、で英語なら手紙の末尾のYours, にあたる言葉です。旧・東ドイツを舞台とする人との繋がりとは何かを探る小説。こちらは作者の一作目でかなりの話題作となり7か国に版権が売れています。
 
3位 ロサ・リクソムはカンヌ映画祭コンペ部門でグランプリを獲得した『コンパートメント・No.6』の原作、(同名小説)の作者。このランキングで唯一日本の北欧、フィンランド好きの方なら目にした事があるかもしれない作家ですね。
 

セイナヨキ図書館の児童書コーナーそばにあるそれぞれ物語をテーマにしたボックス。
一日ごろごろと本を読みたいです。


さて、全部説明すると長くなるので次に翻訳小説へ。(当方、現在かなりお尻に火が付いております、ヘタレです、ええ)
 
1. Oliivipuu (2021) Lucinda Riley, suom. Tuukka Pekkanen
2. Suon villi laulu (2020) Delia Owens, suom. Maria Lyytinen
3. Italialainen tyttö (2022) Lucinda Riley, suom. Hilkka Pekkanen
4. Vaarallinen kirje (2021) Lucinda Riley, suom. Tuukka Pekkanen
5. Mentalisti (2021) Camilla Läckberg & Henrik Fexeus, suom. Kirsi Kokkonen
 
5位のうち3作品をアイルランドのルシンダ・ライリーが占めていてダントツ人気。ちなみに、フィンランドでは翻訳書の場合これまで内表紙の後ろまで見ないと翻訳者の名前が記載されていなかったのですが、翻訳者たちがインタビュー等で声を上げ、この2年ほどで表紙に併記されるようになってきましたし、こうした売れ筋や貸し出しランキングにも併記されるようになって喜ばしいことですし、日本はその点は恵まれています。ちなみにTuukkaさんとHilkkaさんはご夫婦で翻訳者で共訳作品もあるようですね。
常連のスウェーデンミステリは貸し出しランキングでは5位に。
図書館の貸し出しは、新刊書と連動することも多いですが、年間を通じて、だと違う作品が出てきて面白いです。2位は日本でも2021年本屋大賞翻訳部門獲得の『ザリガニの鳴くところ』ですね!タイトルが直訳ではない...
 
さて、次はフィンランド国内のノンフィクション。
1. Tutki ja kirjoita (1997–) Sirkka Hirsjärvi, Pirkko Remes, Paula Sajavaara
2. Korkeintaan vähän väsynyt (2020) Eeva Kolu
3. Tänään olen elossa (2021) Oskari Saari
4. Talo maailman reunalla (2021) Satu Rämö
5. Samuli – pimeydestä valoon (2021) Johannes Lahtela
 
1位はなんと、1997年に執筆されたフィンランドの教育学部の教授が、学生がいかに論文や研究をするものかを平易な文章で著したロングセラー、じゃない販売数ではないので、何といえばいいんでしょう、「根強い人気を誇る指南書」(長い)でしょうか。大学で学ぶ学生には、人気でずっと貸し出し中だと評されることもあるようです。日本でも類似書のロングセラーがあるとメンバーが教えてくれました。

2位のエーヴァ・コルは30代のブロガー、コピーライターなどをやってきたライターの燃え尽き症候群、完璧主義、ルッキズムといった30代女性を取り巻く問題についてユーモアとちくりと刺さる視点も交えて書かれたもの。

3位はF1マクラーレンのチームドクターを務めた伝説的存在、アキ・ヒンツァのガン闘病日記を元に書かれた評伝です。臨終の前にはF1ドライバーがご家族をプライベートジェットでフィンランドからスイスに、という逸話も知られています。
 
さて、最後は児童書です。
1. Tatu ja Patu (2003–) Aino Havukainen & Sami Toivonen
2. Risto Räppääjä (1997–) Sinikka Nopola & Tiina Nopola
3. Ella ja kaverit (1995–) Timo Parvela, kuvitukset Markus Majaluoma / Mervi Lindman / Anni Nykänen
4. Yökoulu (2016–) Paula Noronen, kuvitus Kati Närhi
5. Siiri-kirjat (2002–) Tiina Nopola, kuvitus Mervi Lindman
 
邦訳されているシリーズが堅調ですね。『タトゥとパトゥ』、(もはや個別の作品ではなく、それぞれシリーズものでランキングなのですが…)
ノポラ姉妹の映画化では『ヘイフラワーとキルトシュー』、講談社青い鳥文庫では『ヘイナとトッス~』で過去出版されていました。そして同じくノポラ姉妹強し、『リストとラウハおばさん』のシリーズですね。姉のシニッカさんが2年前他界され、妹ティーナさんが5位の作品も含めて書き継いでいます。
 

ヘルシンキ中央図書館Oodiの階段スペースを使ったアート『献辞』。図書館をどんな人に捧げるかをありとあらゆる人を挙げて表現したもの。フィンランド語ですが「子どもに、親に、政治家に、犯罪者に、分からず屋に、頑固者に、理屈っぽい人に・・・」胸が熱くなるメッセージ。


というところで、児童書では嬉しいことに人気作品の邦訳も多いのですが、フィンランド国内の現在売れ筋のフィクション、ノンフィクションとも映画化されるなどの後押しがなければまだまだ知られていないものが多いのかなと(いや、分かっていたけど!)改めて感じています。

フィンランド語からの翻訳者は現在活動している人はノンフィクション含め、両手の指で足りるほどでしょうか、もう少し少ないかもしれません。
 
こちらの会でも上山美保子さんと私の二名ですが、それ以外でも数人、もう少し増えてより幅広く日本に紹介できるといいのになと思っています。若手よ、カモン!… と申し上げたい所ですが、翻訳者の収入をめぐる議論についても考え続けています。それについては今回とても自分の考えがまとまらずに書き表すことができませんでした。まずはTwitterで教わった書籍を取り寄せる所から始めます。

 国営放送YLEの元記事(フィンランド語)へのリンク

ヘルシンキ中央図書館Oodiの『献辞』日本語で何が書かれているか読めるリンクは↓

(文責:セルボ貴子)

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