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フィンランドの旗日は平日にもあります~国旗掲揚の日いろいろ~

この記事公開を公開日する8月9日は、日本では長崎の原爆忌(長崎原爆の日)です。平和への祈りと、戦争が無くなることを願う日の一つ。その8月9日、フィンランドでは、『トーヴェ・ヤンソンの日 フィンランド芸術(アート)の日』と定められ国旗掲揚が推奨されています。この日が「トーヴェ・ヤンソンの日」と言われるようになったのは、8月9日がヤンソンの誕生日だったため。トーヴェ・ヤンソンの誕生日を記念日にするにあたり、絵・イラストだけでなく文学作品も手がけ広く芸術分野で活躍したヤンソンにちなみ「フィンランドの芸術の日」と定められました。また、日本では「ムーミンの日」と記念日登録されています。

今回は、うえやまみほこ(フィンランド語翻訳)が担当です。

2023年8月9日
フィンランドのカレンダー
旗マーク付いてます


 「〇〇の日」と記念日になると少なくともその日は〇〇について考える日、思いをはせる日になりますから良い制度だなと思います。そして、このような記念日は、公式の国旗掲揚日であったり国旗掲揚が推奨されている日になっています。フィンランド全土で公式の国旗掲揚日と推奨日がある、という点が日本とは違うところでしょうか。また更に日本と大きく違うのは、国旗掲揚がある日が必ずしも祝日ではない、ということ。つまり、祝日ではなく平日なのに町に国旗がはためくことになります。

文化・芸術分野に関するフィンランドの旗日

 フィンランドの公式国旗掲揚日には、独立記念日(12月6日)、メーデー(5月1日)、フィンランド国防軍の日(6月4日)や夏至祭(6月下旬)などがありますが、フィンランドの文化史を知っていただくきっかけにしていただくべく8月9日以外の文化・芸術分野の国旗掲揚日・国旗掲揚推奨日をご紹介します。いずれの日も、その分野で活躍した重要な人物の誕生日または没した日に当てられています。

10月10日 アレクシス・キヴィの日 フィンランド文学の日

『七人の兄弟』豪華版
絵は、風刺画やエクスリブリスで
一世を風靡したエリック・タント

 日本の祝日がハッピーマンデー方式になる前まで、体育の日(現スポーツの日)だった10月10日。この日、フィンランドは、初めてフィンランド語で文学作品を書いたアレクシス・キヴィ(1834-1872)の誕生日にちなみフィンランド文学の日と定めています。アレクシス・キヴィは、戯曲をたくさん残した作家でもありますが、今でも読み継がれ、また舞台で上演される作品に『七人の兄弟』という作品があります。

12月8日 シベリウスの日 フィンランド音楽の日

 独立記念日のわずか2日後は、おそらくフィンランド人の音楽家として世界で最も有名な作曲家ジャン・シベリウス(1865-1957)の誕生日で、フィンランド音楽の日と定められています。『交響詩フィンランディア』は、合唱曲になっていることもあり、日本では特に人気のある楽曲ではないでしょうか。

2月3日 アルヴァとアイノ・アアルトの日 フィンランド建築とデザインの日 (国旗掲揚推奨日)

 建築の世界で知らぬ人はいないアルヴァ・アアルト(1898-1976)。そのアルヴァの誕生日に妻であり、アルヴァと同様建築家でありプロダクト・デザインも手がけ、アルテック社の社長という立場でもあったアイノ・アアルト(1894-1949)の名前を並列させた記念日。2022年、アルヴァ・アアルトの生誕125年を記念して国旗掲揚されてから国旗掲揚推奨日となりました。

2月5日 J.L. ルーネベリの日


ポルヴォー市内の公園に建つルーネベリ像

 詩人として知られるJ.L.ルーネベリ(1804-1877)は、代表作に長編詩「ヴァンリッキ・ストール物語」があります。この作品の愛国心あふれる冒頭部分がフィンランド国家の歌詞になっています。ルーネベリはスウェーデン語系フィンランド人なので、オリジナル作品はスウェーデン語です。フィンランド好きの間では、例年2月5日近くになるとカフェなどで提供されるルーネベリ・タルトの人として日本でも名前が知られるようになりました。ルーネベリ・タルトは、甘いものが少ない時代に、甘いものが好きなルーネベリのために、妻のフレデリカが考え出したジンジャークッキーを隠し味にし、ベリージャムをのせたタルトです。ルーネベリ像は、ルーネベリが長く住んだポルヴォーの町にもありますが、ヘルシンキのど真ん中と言えるエスプラナディ公園の中央部に立像が立っていて、国歌の歌詞となった部分も刻まれています。また、この日は、ルーネベリが生存中からお祝いされていた日だそうで、ルーネベリさんがいかに人気者だったのかが分かるように思います。

2月28日 カレヴァラの日 フィンランド文化の日

 フィンランドの民族叙事詩『カレワラ』は、エリアス・レンリュート(1802-1884)がカレリア地方(東部フィンランド。エリアの一部は現ロシアに含まれる地域もある)で吟遊詩人から聞き取りまとめた作品です。2月28日は、エリアス・レンリュートが『カレワラ』出版に向けて署名した日だからだそう。宇宙誕生の物語から英雄伝説もあり、フィンランド国内外の多くの芸術家たちに影響や創造力をかき立たせる一大叙事詩です。

3月19日 ミンナ・カントの日 平等の日 

 ミンナ・カント(1844-1897)は、フィンランド初の女流小説家、戯曲家でありジャーナリスト。もともとは学校の教師になることを目指していましたが結婚をきっかけに高等教育を受けることは止めました。ただ、早くに夫を亡くしたこともあり、自活して7人の子どもを育て上げています。当時としては珍しく女性でありながら教育を受けることができたので、女性が置かれている立場の低さに気づき、女性解放運動に取り組んだ人物です。女性解放運動に取り組んだミンナ・カントの生前の活動を記念して「男女平等の日」と定められています。

4月9日 ミカエル・アグリコラの日 フィンランド語の日 

ミカエル・アグリコラが書いた
『Abc本』冒頭とアグリコラ牧師を描いた
2007年発行の切手

 フィンランド語の父と称されるミカエル・アグリコラ(1510-1557)。フィンランドで宗教改革を進めた牧師です。キリスト教の布教を進めるには、フィンランド語の聖書が必要と考え、聖書をフィンランド語に翻訳。フィンランド語の書き言葉を整理し、つまり表記方法をととのえたのでフィンランド語の日と定められています。フィンランドで初めてのフィンランド語の本『ABCKirja』(ABC本)も残しています。トゥルクの大聖堂の外に大きな立像が建っているのはアグリコラがトゥルクで牧師を務めていたから。また、ヘルシンキの大聖堂の中にも立像があって、アグリコラがフィンランド語訳した聖書のレプリカも展示されています。この日だけは、他の記念日と違い、アグリコラの没した日に定められています。

7月6日 エイノ・レイノの日 詩と夏の日

 詩人で作家、ジャーナリストだったエイノ・レイノ(1878-1926)の誕生日は、詩と夏の日。記念日に季節の名前が入るのは珍しいことではないでしょうか。歌手・俳優として活躍したヴェサ=マッティ・ロイリ(1945-2022)は、エイノ・レイノの詩を歌詞とした作品ばかりを集めたアルバム『エイノ・レイノ』を1978年に発表。エイノ・レイノの日に「夏の日」という言葉が入っていることに納得がいくNocturne『ノクターン』という物悲しさが漂う曲があります。

 フィンランドの国旗掲揚などの管轄は、内務省。ホームページの国旗掲揚に関する案内を読むと、国が定める国旗掲揚日以外にも、結婚式や葬儀の日ほか、自分にとって「今日は国旗掲揚にふさわしい」と思う日は、国旗を掲げてください…と呼び掛けています。日本には内務省がないので何だろう? と思われるかもしれませんが、外務省に対して内務省。消防や警察も含め国内のことをあれやこれやと考え、お世話し統括している省です。

翻訳書「アイノとアルヴァ アアルト書簡集」発売のお知らせ

映画『AALTO』のフライヤー(左)
翻訳書の原書

 2月3日が記念日となっているアルヴァ・アアルトとアイノ・アアルト。仕事の関係で別々の場所にいた際に二人が交わしていた書簡を中心に、アイノに力点を置いて二人の関係をまとめた書籍の日本語訳が草思社から発売されることになりました。発売予定は、9月末頃。フィンランド好きの方はもちろん、建築やプロダクツデザイン、アアルトに興味がある方だけでなく、1800年代後半から1940年代という時代に興味を抱かれている方にも手に取っていただきたい本です。
 アルヴァ生誕125周年を記念してフィンランドで公開されたドキュメンタリー映画「アアルト」が2023年10月13日から日本で公開されることが決定しています。

〔2023年10月3日追記〕
『アイノとアルヴァ アアルト書簡集』(草思社刊)の書影

トップ写真は、筆者が2023年5月17日『国際反ホモフォビア・トランスフォビア・バイフォビアの日』にヘルシンキで撮影。

(文責・上山 美保子)

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