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<コラム>世界からコーヒーがなくなるまえに

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今回の記事では、10月25日に出た訳書『世界からコーヒーがなくなるまえに』の話を書かせて頂きます。

まずはサステナビリティという点がまだ日本ではしっくり来ていない方も多いのではないでしょうか。そこにどうコーヒーが関わるのか、とお思いでしょう。お茶党だしなぁ、という方もおられるかと。

コーヒーは農産物で、地球上のコーヒーベルトと呼ばれる地帯で栽培されています。できたコーヒーチェリーの果皮を除去し、乾燥させて、卸売りされ日本や北欧など大小規模の焙煎所のもとに輸送されます。浅煎りや深煎りといった焙煎をされ、見慣れたコーヒー豆の状態、または更に挽かれて粉となって、はたまた生産国であまり質が良くないものはインスタントコーヒー用の原料として加工され、各国で売られて私達消費者の湯気立つコーヒーカップに入ってくるわけです。

インターネット上に詳しいサイトは多くあるのですが例えば下の(1)のサイトではコーヒーが育って私たちのもとに届くまでが、それから(2)のサイトからはサステナブルなコーヒーって?という点を把握できます。

(1)コーヒー辞典
https://www.coffee-jiten.com/knowledge/flow/ 

(2)サステナブルコーヒー協会 「サステナブルコーヒー」って?
https://suscaj.org/sustainable_coffee/sustainable/ 

そして気候変動(地球温暖化と以前は言われていましたが)がこのまま進むと、コーヒーも育たなくなり、2050年には作地面積も半分になり、美味しいコーヒー自体が貴重品となってしまうだろうと言われています。

なぜでしょう? 気温が上がっていくと、涼しい気温を好むコーヒーの栽培地の高度を上げていかなくてはいけません。しかし山の頂上まで行く事はできません。まずここで面積がどんどん減っています。また気温上昇だけでなくて異常気象も増えています。したがって、安いからと言って大量に買ってだめにして捨てているフードロスがかなり多い現状を考えたら、できる限り割高でもいい豆で、有機栽培されたものを少な目に買い、味わって楽しむのは理にかなっているのではないでしょうか。

これまではコーヒーの事を述べましたが、育てている生産者のことも「持続可能性」に関してとても大切な部分です。私たちはコーヒーはたいして高いものではないと思って毎日買って飲んでいますが、それはつまり生産者たちが額に汗して栽培しても収入が非常に少ないという事です。これでは次の世代が農家をやりたいとはまず思えないでしょう。

持続可能なコーヒー生産とは、環境の面で地球に優しい栽培の仕方をし 、輸送されるときにも二酸化炭素排出量が少なく、消費国に到着してからも大切に保存(道中カビがはえると大きな無駄になる)されることです。ところで、一番大きな無駄はじつはカフェやレストランではなく家庭で起きている、と2019年9月に実施された調査で出ていました。フィルターコーヒーを数杯分入れ、飲み切らずに捨ててしまっている家庭が多いという事です。(調査をもとに試算すると、フィンランドで一年に2300万リットルが流しに捨てられているとか。恐ろしい量です)理由は多めに入れすぎている事に加え、美味しくないけれど安いコーヒーを買い、既に粉状であれば開封した瞬間から酸化が始まるので味が落ちるのも早い事もあるでしょう。

ですから、できればスペシャルティコーヒーというコーヒー業界のプロが選ぶ美味しい豆を、そして時間が許すなら、その都度美飲む分だけ豆を挽いて淹れ、味わって飲むのが一番ということでしょうか。(pour over=ポアオーバーと言います)

スペシャルティ・コーヒーとは何か、ということは例えば以下が詳しいです。
https://www.specialty-coffee.jp/user_data/about Specialty Coffee Wataru Onlineshop

ただ絶対スペシャルティ・コーヒーでなくてはならないかというと、その下の等級のプレミアム・コーヒーでも十分美味しく淹れる事はできますし、コンビニで買えるその場でマシンが挽いて淹れるタイプのものはこのタイプが多いです。スペシャルティであるにはトレーサビリティもしっかりしていないといけない点、消費者行動的には意義があります。

最近のコーヒーフェスティバル等でもテーマはサステナビリティが増えています。例えば業界でも動向が注目されるLondon Coffee Festival等もここ数年、マイ・カップを勧め、紙コップを減らすには?とかストロー廃止もその一つですね。私も一日4~5杯コーヒーを飲むので、保温ボトルに入れて持ち歩きますが、そうでなければ少なくとも一日店内で飲まず2杯テイクアウトするとしたら2杯x365日分で1年間に730個の紙やプラスチック蓋のごみを出してしまいます。リサイクルする前に、まず使わないというのも限られた資源を守る一つの手でしょう。

ですから私達が賢い消費者となることも大切かと思います。目玉商品として安売りされているコーヒーやその他の食品に飛びついて、その商品の後ろに、損をしているのは誰なのか、という事を考えるのはどうでしょうか。このコーヒー(カカオでもいいです)はどこから来ているのか、という事に思いを馳せること。消費者行動によって企業の方針を変えていくことは決して難しい事ではありません。企業はイメージや世論、今ならSNSでの動向も非常に気にするものですし、声を上げたもの勝ちかと思います。

『世界からコーヒーがなくなるまえに』は、コーヒー業界に働くラリと出版社の編集者ペトリの二人が世の中を少しでもよくしたいという情熱に突き動かされ、2年半かけフィンランドからブラジルやスウェーデンに行き、なかでもブラジルではサードウェーブ・コーヒーの旗手ともいえるクロシェ家の3人と彼らの歴史や苦労話、今後の展望にスポットを当ててページ数を割き、生き生きと書き上げたものです。

私にもその熱が伝染しましたし、訳しながらこの二人の熱がどうか伝わりますようにという祈るような気持ちでした。

コーヒーを飲まないから、という方にもこれはあくまで切り口がコーヒーという事であって、農産物に広く当てはまる話でもありますので興味を持って頂けることを願っています!
本書は初めての翻訳版ですが、彼らの熱意でブラジルの出版社も興味を持ち版権が売れる様です。ブラジルでポルトガル語が出れば、ヨーロッパのポルトガル語、ひいては近いスペイン語などにも広がる可能性は大きいと思います。英語版のサマリーはエージェントが“Coffee Matters”というタイトルで持っていますのでご興味が御有りの方はご一報下さい!(とここで日本語で書いてもあまり効果がないかも知れませんが、今度英語でもどこかに書こうと思います)

青土社さんから出して頂いている訳書は今は紙版のみですが、年内には電子書籍でも出る予定ですので、これ以上本を増やしたくない方にもお勧め致します。作者達は、「僕たちの本を買わなくてもいい、図書館で借りられるならぜひそれで読んで!」と言っていました。

コーヒー業界に長くいる共著者のラリ・サロマー が英語インタビューに答えたPodcastがあります。フィンランド在住英国人ジャーナリストが配信しているものですが、宜しければそちらもぜひどうぞ。

https://soundcloud.com/veryfinnishproblems/episode-15-when-your-world-leading-coffee-consumption-is-a-sham (46分)“When your world-leading coffee consumption is a sham.”
(一人当たりコーヒー消費量が世界一というのは実は誤りだったってどういうこと?)

さて、終わりに、ヨーロッパ文芸フェスの北欧語翻訳者の会のメンバー達が登壇し、その機会に動画にてこの本についても宣伝をさせて頂きました。制限時間3分半では言い足りない点もありました。リンクは以下の通りです。(北欧言語から日本語への翻訳、そして後半は作者二人のビデオレター。作者たちの部分は2分36秒からスタート。

https://www.youtube.com/watch?v=OSCo976P4Dg&feature=youtu.be

<ビデオレターこぼれ話>

実はこの文芸フェスのために作者二人に初めて会いに行きました。メールのやり取りは何度もしていたのですが、最初にコンタクトしてから1年半、2019年10月が初対面で不思議な感じでもありました。
フィンランド語原書の版元であるLIKE出版社にお邪魔して、そこの併設カフェで私のiPhone SEで簡易3脚を装着しての撮影です。ピンマイクを忘れたので(間抜けな私!)集音しにくく雑音が…カフェなので電子レンジのチーン!という音とか、脚立を持ってばたんばたんドアから出入りするリノベーション関連のおじさん達。そしてリハーサルも何も無かったのに、1分、何を話すかお互い「これだよな、じゃそこ任せる」と息の合ったお二人、さすが学生時代からの長い付き合いで今もバンド一緒にやってるだけあります。でも途中であれ?となって撮り直しも。ええ、動画撮影あるあるです。

(↓1分ミニミニ打ちあわせ中)

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ちなみにペトリさんはギタリストでラリさんヴォーカル。ペトリ の座右の銘は「人生はRock」。ラリは訳書の帯にも書いてもらいましたが「地球を救う」二人ともカッコいいじゃないですか。4、5回撮り直して3人で記念写真を撮ってもらい、LIKEのタグ付きでSNSにもアップしてもらいました。私の部分は友人Miraが編集。撮影して翌々日から家族でスペイン旅行5日間があったので編集する暇も字幕着けてる暇もなかったのでした…インターネット上でも焙煎所やメーカー、サステナブルコーヒー協会なども情報発信されている内容でもありますが、ブラジルのCroceファミリーの物語と絡めて文学的な表現もそこかしこに見られる文体はとても訳しやすいものでした。お手に取って頂けますように。

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※フィンランド日本外交樹立100周年記念後援プロジェクトとしてロゴ使用の許諾を頂いています。

(文責:セルボ貴子

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