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今年のフランクフルト・ブックフェア主賓国、ノルウェー文学普及財団、秋の推薦図書リスト

フランクフルト・ブックフェア、行きますか?

 今月10月16日~フランクフルトのブックフェアがありますね。皆さん参加されますか? 今年の主賓国はノルウェーです。

 ノルウェーは隠れた文学大国。日本で一番知られているのは、ゴルデル『ソフィーの世界』(NHK出版)でしょうか。ノルウェーには、ノルウェー文学普及財団(NORLA)という素晴らしい団体があり、世界にノルウェー文学の素晴らしさを発信しています。日本にも何度かいらしているのですよ。

NORLA秋の推薦図書リスト

 そのNORLAが毎シーズン、発表している推薦図書リスト、最新版をご紹介していきます。

大人向けフィクション

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Roy Jacobsen, Anneliese Pitz作
『シベリアを愛した男――蝶蒐集家、東シベリアでの思い出』
Mannen som elsket Sibir. En sommerfuglsamlers erindringer fra Øst-Sibir
題名英訳”The Man Who Loved Siberia. A butterfly collector's memories of East Siberia”
Cappelen Damm 2019
288ページ
Roy Jacobsenはその作品の版権が41か国語に売れている、非常に有名な作家です。

この版権を扱っているCappelen Damm Agencyは北欧で最も意欲的で熱心なエージェントの1つです(フランクフルト HALL 5.0/A53)。いい作品を一杯持っているエージェントです。ちなみにノルウェーの出版社で3大出版社と言われているのはこのCappelenとGyldendal Norsk(HALL 5.0/A53)とAschehoug(HALL 5.0/A53)です。

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Agnes Ravatn作
『七つの扉』
Dei sju dørene
題名英訳”Seven Doors”
Samlaget 2019
250 ページ

フィクションでさらに注目すべき作家は、Agnes Ravatnです。Ravatnは2013年刊行『鳥の葬列』で Petrona賞のショートリストに入り、2016年PEN Translates award賞を受賞するなど英語圏でも高い評価を得ている若手の鬼才です。

大人向けノンフィクション

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Hanna Nyborg Støstad作
『魅惑的な進化ーーなぜ魚が滝を登り、コウモリは血を与えるのか』
Eventyrlig evolusjon. Hvorfor fisker klatrer i fosser og flaggermus gir blod
題名英訳”Enchanting Evolution. Why fishes climb waterfalls and bats donate blood”
Kagge Forlag 2019
223 Pages 
ちなみにKagge社(HALL 5.0/A53)はミステリも多く扱っていますが、ノンフィクション、特に自然科学よい本を多く持っています。日本にもいらっしゃいました。

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Guri Sogn Andersen作
『フルマカモメが死ぬのを見る――海のプラスチックについてまことしやかにささやかれる事柄と事実』
Å se en havhest dø. Forestillinger og fakta om plast i havet
題名英訳”To watch a fulmar die. Myths and facts about plastic in the ocean”
Spartacus Forlag 2019
99ページ

 プラスチックごみの問題は注目トピックで、他にもいくつか重要ながノルウェーでは出されています。

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Niels Christian Geelmuyden作
『スペルマゲドン』(注:Spermは精子の意)
Spermageddon
題名英訳”Spermageddon”
Cappelen Damm 2019
320ページ

 西洋でも男性不妊の問題が深刻なようです。精子の質の悪化は、男性不妊だけでなく、健康上の問題をも引き起こしかねません。しかもさらに興味深いことにこれと同じ傾向が魚や両生類、昆虫、採り、爬虫類や人間以外の哺乳類にも見られるそうです。生物の生殖能力の低下の原因は? そして向上させるのに必要なことは何でしょう?

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Lars Kvamme作
『鮭ーー伝記』
Laks - En biografi
題名英訳”Salmon - A Biography”
Pax 2019
235ページ
鮭の伝記って…...。独創的すぎますね。

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Marta Breen作
『スカンジナビアのフェミニストにどうしたらなれるか』
Hvordan være en skandinavisk feminist
題名英訳”How To Be a Scandinavian Feminist”
Cappelen Damm 2019
150 Pages
『ウーマン・イン・バトル』(合同出版)のマルタ・ブレーンの最新作。北欧にはフェミニズムについて書いている作家が多くいますが、フェミニズムをここまで面白く、ポイントを的確につかんで描ける作家はそういません。彼女は非常に重要な作家です。
(突然の宣伝ですみません。『ウーマン・イン・バトル』のイベントを10月27日に行います。どうぞよろしくお願いします。)

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児童書


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Alfred Fidjestøl作
『弟みたい――チンパンジーのユリウスについてのお話』
Som ein bror. Historia om sjimpansen Julius
題名英訳”Like a Brother. The Story of Julius the Chimpanzee”
Samlaget 2019
86ページ
同じ作家が大人向けに同じテーマで書いたノンフィクションが以前NORLAのリストに入っていました。非常に強い作品でした。

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その児童書版です。ちなみに扱っているHAGEN AGENCY(5.0/A53)はノルウェーで初めての個人版権エージェント。私はEirinさんは大変な目利きだと思っています。特定の出版社でなく、様々な出版社から特に素晴らしいと思う作品をより抜いて扱っているエージェントです。

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Anne Sverdrup-Thygeson作
Nina Marie Andersen絵
『昆虫の秘密』
Insektenes hemmeligheter
”Beetles, bugs and butterflies”
Kagge Forlag 2019
124ページ
 英国でも大変なベストセラーになっている『昆虫の秘密の生活』のAnne Sverdrup-Thygesonの書いた児童書です。『昆虫の秘密の生活』はキュートでチャーミングで遊び心と学問、昆虫への愛に満ちた素晴らしい作品でした。作者が英語でもたくさん記事を発表しているので、販促の資料としても使えるでしょう。今回の児童書はイラストが日本にドストライクではないのですが、文章のすばらしさは間違いありません。ただ『昆虫の秘密の生活』があまりにすばらしすぎたのですよね。日本でもベストセラーになってもおかしくない傑作でしたが前作はすでにRights soldのようです。


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 翻訳者リストもぜひお役立てください。NORLAは翻訳出版助成金も出しており、原語からの翻訳の方が助成がおりやすいそうです。
 フランクフルトのブックフェアでノルウェーをテーマにした様々な催しが行われるようです。迷ったらNORLAを訪ねましょう。とても親切で、文学への情熱溢れた方々です。文学の知識も膨大です。感動しますよ。Enjoy フランクフルト!

(文責:枇谷 玲子

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