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好きな物語り「あなたの亡骸に土をかける それが禁じられていたとしても」のフレーズ

noteから「今月なにも書いてないよ!」「今月書いたら5か月連続だよ!」と通知が来たので適当に書き綴ろうと思います。


いまでこそVtuberのオタクをやっている野良猫ですが、ものごとには何にでも始まりというものがございます。
野良猫の「オタク」としてのスタートはどこからかというと中学一年生の時にクラスの男子で「ひぐらしのなく頃に」の「you」という曲を弾くことが流行ったことです。
えぇ、えぇ、狂ったように弾いておりました。

そういうわけで初めてみた深夜アニメというものも「ひぐらしのなく頃に」だったわけです。

ではタイトルの「あなたの亡骸に土をかける それが禁じられていたとしても」はアニメのセリフかというとそうではありません。
二期エンディングの歌い出しなのです。
(なのです。と書くと「にぱー☆」と続けそうになるのは病気。)

anNina「対象α」という楽曲。
「あなたの亡骸に土をかける それが禁じられていたとしても」
とても惹きつけられる美しいフレーズなのですが、誰の視点の歌詞かわかりますか?

アニメの登場人物?作詞者の想像上の人?
いえ、いずれでもありません。

アンチゴネ」という女性なのです。


誰?と通常はなるのですが、そうはならなかった方は「演劇」もしくは「神話」でご存知かもしれません。

フランスの悲劇「アンチゴーヌ」、ギリシア神話の登場人物。
テーバイの王女。そして「オイディプス王」の娘である女性です。


オイディプス王
「父を殺し、母と交わる」とい神託

「一つの声をもちながら、朝には四つ足、昼には二本足、夜には三つ足で歩くものは何か。その生き物は全ての生き物の中で最も姿を変える」の問いで有名なスフィンクス退治。

心理学を学ばれた方であれば、フロイトの「エディプスコンプレックス」で知っているかもしれません。

オイディプス

テーバイの王、ライオスは「子を成せばその子は父親を殺すだろう」と神託を受けていた。しかしイカオステとの間に男児が生まれてしまう。
その子こそ「オイディプス」です。

ライオス王は神託を恐れますが、わが子を殺すことは出来ず、踵をブローチで刺し、キタイロンの山中に捨ててくることを従者に命令。
キタイロンの山中で置いていかれたのか、はたまた手渡されたか、オイディプスは羊飼いの手に渡り、子供がいなかったコリントス王のもとへ渡り育てられます。コリントス王は踵のはれたこの子にオイディプス(腫れた足)と名付けます。


時は経ち、青年となったオイディプスは、自分がコリントス王の実子ではないことを聞かされ、真実を確かめるため神託を受けるのです。

その神託こそが「故郷に近寄るな、父を殺し、母と交わることになるだろうから。」というものでした。


オイディプスは神託に従い、コリントスには戻らず旅を始めるのです。

その旅の最中、狭い道で、老人と従者が乗った馬車と鉢合わせになります。
老人は道を開けるようオイディプスに命じますが、老人の尊大な態度に憤りオイディプスは譲ろうとしませんでした。
すると、彼らはオイディプスの馬を切り殺してしまったのです。それに対しオイディプスは馬車ごと谷へ突き落し、誰とも知らぬまま二人を殺したのです。


旅を続けるオイディプスはテーバイへ向かっていました。
テーバイの近くでは、怪物スフィンクスが道行く人に謎を出し、答えられなかった者を食べていました。
当時、王を失っていたテーバイは王妃イカオステの兄弟クレオーンが摂政となっており、スフィンクスの被害に悩む彼は「謎を解いた者にテーバイとイカオステを与える」と布告。

テーバイに到着したオイディプスも謎解きへとスフィンクスのもとへ行き答えます。「答えは人間だ。」
見事スフィンクスを退治したオイディプスはテーバイの王となり、イカオステを娶ります。


テーバイはしばし平和と繁栄の時代を取り戻し、オイディプス王とイカオステの間に、エテオクレスポリュケイネスの2人の男の子、そしてアンチゴネイスメネの女の子、4人の子宝に恵まれるのです。

しかし、テーバイに再び飢饉や疫病が訪れたため、クレオーンが神託を受けます。

「飢饉や疫病はライオス殺害の穢れのためであるから、殺害者を捕え追放せよ。」

クレオーンより報告を受けたオイディプスは直ちに調査を始める。

調査を進めオイディプスは気付いてします。
ライオス王殺害の話が自分が谷底へ突き落したあの老人の話と似ていること。

そして、ライオス王とイカオステには子供がおり、ライオス王は子の踵を刺し山へと捨てていたことが分かります。

このことから、オイディプス(腫れた足)は自らが父・ライオス王を殺した殺害者であり、自分が娶ったイカオステが母であると悟った。つまり、神託を実現してしまったのだと知ってしまったのです。


そのことを知ってしまったイカオステは自害。オイディプスも自らの目をえぐり取り、テーバイを追放される。

追放される際、アンチゴネとイスメネの2人の娘は父に付き添い、アテナイでの最後まで支えました。
しかし、息子二人はテーバイに残ります。オイディプスはこの二人が互いに殺しあう呪いをかけるのです。


ここまでが、オイディプス王の物語


アンチゴネ

父の死を見届けたアンチゴネたちはテーバイへと戻ります。
そこで待っていたのは、ポリュネイケスとエテオクレスの王位争いでした。

王位は交代制を取っていたにもかかわらずエテオクリスは裏切りポリュネイケスはテーバイを追われます。
ポリュネイケスは軍を率いてテーバイの7つの門に攻め入り、ポリュネイケスも7つ目の門を大将として攻め入りますが攻防は一進一退。
最後はポリュネイケスとエテオクリスは一騎打ちを行い、相打ち。
テーバイの守護神ゼウスの雷霆もありテーバイ攻めの軍は壊走していきました。
オイディプスの呪いは果たされたのです。

王位を継ぐ者がいなくなったテーバイの王位はクレオーンが就き、彼はエテオクリスの葬儀を大々的に執り行い、ポリュケイネスの埋葬を禁じる命令を出しました。

しかしアンチゴネは兄・ポリュケイネスの亡骸を埋葬したのです。
クレオーン王は激怒し、アンチゴネを墓地へ生き埋めにしてしまいます。

アンチゴネの婚約者でありクレオーンの息子ハイモーンが墓地にたどり着いたときには彼女は首を吊っていました。ハイモーンは遅れてやってきたクレオーンを殺そうとしますが失敗しアンチゴネの後を追います。
そして息子の死を知ったクレオーンの妻も自死。

クレオーンは家族を失い孤独な晩年を送ります。
テーバイも七つの門を攻め敗れた七将の息子たちが10年後に再び攻め入り陥落したのです。


人間が作った法を重んじ秩序を守ろうとしたクレオーンと神から与えられた肉親への無償の愛を貫いたアンチゴネ。



「あなたの亡骸に土をかける それが禁じられていたとしても」


このフレーズは、人の手に作られたものでは縛り切れない神なる無償の愛を「アンチゴネ」という女性を通すことで表したすばらしい名フレーズだと信じて疑わない。





余談
誰のどの神話を参考にしたかと問われたらウィキペディアとしか答えられないので表記の揺れは許してください。どこまで行ってもオタクが適当に書いただけの文章です。それを踏まえてオタクの妄想交じりの余談をば。

・アンチゴネが自死する際、彼女は首を吊ったのは「母・イカオステと同じ死に方を選んだ」ともとらえられるのが愛に満ちた彼女らしいような気もします。

・クレオーンにとって、アンチゴネは自分の仕えていたライオス王を殺したオイディプスの娘であり姉・イカオステの死の要因であるとも言えるので、憎い気持ちが全くないかと言われれば違ったでしょう。
しかし、自分の姪っ子しかも姉の子ともなれば、憎さを超える愛を注いでいたのではないかと思います。
ポリス社会で当たり前かどうかは分かりませんが、姉の嫁ぎ先で仕事してますからね。姉のイカオステのことは家族として大事だったに違いないと思います。そんな姉の子を嫌いになれるわけないでしょ。
息子の婚約者にしてますし、息子のハイモーンとアンチゴネの愛の深さは並々ならぬものだったでしょうし。

それでもアンチゴネへ死を迫ったのは、彼が王として優れていたからだと思います。
ライオス・イカオステのもとで摂政として働き、オイディプスのもとでは宰相として働いています。オイディプスは神託がなければ優秀な王ですからね、そんな人がとんでもスキャンダルで消えたら国は大混乱するはず。
その中のテーバイの秩序を守り続けた人だと考えると優れた人だったと思います。

エテオクリスに付いて彼の死を大々的に弔ったのも、テーバイの守護者・英雄としてなんですよね。彼はひたすらにテーバイの秩序を守るように動いているように見えるのです。

アンチゴネでもクレオーンは、神が自分の決定に反感を持っていることを知らされアンチゴネを開放しようとしていますし、自ら閉じ込めた墓地へ足を運んでいます。

秩序(人間の法)を守った結果、家族の愛をすべて失ったクレオーン王はオイディプスとその家族の悲劇の最後の人に思えます。

・クレオーンの最後は分からないのですが、テセウスに討たれたという記述見かけた気がするんですよね。もしそうなら、オイディプスの最後を見届けアンチゴネとイスメネを庇護した人物に討たれたことになるんですよ。


・2度のテーバイ攻めの際に政略の道具として用いられたものがあります。
それはテーバイ建国の王カドモスと女神ハルモニアの結婚式の際に神々から贈られた祝いの品の婚礼衣装と首飾り。これはテーバイ王家に代々受け継がれたものです。
ただ、カドモスとハルモニアも神の呪いで子供たちを次々に失いテーバイを去っています。

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