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映画 TILL 感想

映画「TILL(ティル)」見てきた。
映画を見るまでわたしはエメット・ティル殺人事件を全く知らなかった。

以下は市民運動や社会的な公正に興味があるわたしの感想です。

豪快にネタバレしていますので、もう既に映画を見た方か、見る予定はないけど中身を知りたい方か、ネタバレを読んでから映画を見たい方のみご覧くださいませ。

情報を入れずに映画を見たい方は、立ち入り禁止です🫰

メイミーでさえも、自分の息子がリンチ殺人されるまで南部の人種差別は自分とは関係ないことだと思ってたという。

結局は「自分にも起こ(りえ)た」、「エメット(被害者)は自分だ」、「次に殺されるのは自分だ」、といった感覚がメイミーや他の黒人たちに行動をさせるんだなと思った。
(この感覚には、たぶん専門用語があるんだろうけど、わたしが知らない)

なるべくなら悲劇や犠牲なしで、【鳥肌がたつ感覚】をどれだけ共有できるか?が市民運動に肝心だと思った。
人が行動するのは頭で理解したときではなくて、心に響いたときなんだろう。江南駅のフェミサイドを思い出す。

映画を通して描かれるメイミーの内面の変化の描写もすごくよかった。

最初は息子の死に正義だけを求めていた。「公民権運動」といった政治的な主張とは一線を画したいという感じ。

しかし、裁判は一般人から選ばれた陪審員による評決なので、心象が裁判の結果を左右することを知る。

メイミーは、メディアを通じたイメージアップ、イメージダウンの駆け引きに巻き込まれる。(めちゃめちゃ政治的。そして陪審員は漏れなく全員が白人男性)

「離婚を繰り返し、男にだらしのない」母親が言うことなんて、信用に値しないというネガティブキャンペーンに対抗しないといけなくなる。このあたりは女性差別的だ。息子が拷問死した責任と、母親の恋愛遍歴なんて1ナノメートルも関係ない。

ちなみにこの時点でメイミー・ティル・ブラッドリーは1人目の夫(ルイス・ティル)とは死別して、2人目の夫(ピンク・ブラッドリー)とは1年ほどで離婚して、現在の恋人(ジーン・モブリー)とは結婚を考える仲とはいえ3人目だった。
ちなみに前夫二人はDV夫と、脅迫する夫(今でいうモラ夫)でどちらもクズだったようだ。別れて正解だが、世間がそうは思ってくれない状況だ。

逆に被疑者の男性ロイ・ブライアントやその異母兄のJ.W.マイラムは、たとえば、素行が悪い、暴力的、差別意識があったといったイメージダウンのネガティブキャンペーンはなかったんだろうと想像する。
調べてみて、ネガキャンがなかったという確証は見つけられなかったが、10年ほど前のロイ・ブライアントとJ.W.マイラムの若いときの写真が雑誌に掲載され、妻のキャロリンの美しさなどと絡めて持ち上げられていたらしいという情報はでてきた。イメージアップだ。

メイミーの恋人ジーンは息子エメットともよい関係をつくってきた。エメットがメイミーと恋人ジーンの結婚を認めている描写も映画ではあった。
ジーンもきっとエメットの死を悼みたかっただろうし、恋人のメイミーが心を傷めているときは傍にいたかっただろうに、メイミーに拒否される。メイミーはイメージダウンを避けるためにジーンと別行動を決断をする。ジーンの気持ちを思うと切ない。

メイミーは、裁判で証言する他に選択肢がないところに追い詰められた。証言しないと弁護側の「損傷著しい遺体はエメット・ティルではない。どこかでエメットは生きている」という主張が通るかもしれない。節操のない主張が通らないように(たとえ)命がけでもメイミーは南部行きを決める。そこで南部の黒人差別の現実を知る。

(DNA検査がない時代の悲しさよ。DNA検査があればエメット・ティルの遺体かどうかは争えないだろうし、目撃証言の通りに納屋で血痕やエメットのDNAが見つかれば被疑者は言い逃れできなかっただろうに。
科学的捜査が可能になる前は、証言の信ぴょう性がすべてだったんだ)

南部の黒人差別の現実とは、たとえば黒人だけの町があった。それくらい黒人の安全が確保されないこと(だと理解したけど、合ってるかな?)

政治って関わりたくないと思って避けていても、勝手に巻き込んでくる。
生活に密接に結びついているんだなと思った。

一番大きな分岐点は、メイミーが叔父のモーゼに「銃を持っていながら、なぜ拉致されそうな息子を守ってくれなかった」と責めるシーンだと思う。

映画では、その前にいくつかほのめかしがあって。
メイミーの母親アルマ(エメットの祖母)が「わたしがエメットにミシシッピに行っておいでと言ったから(エメットは行って殺されてしまった)」と悔やんで、心を傷めるシーンでは、メイミーは自分の母親アルマを責めない。

エメットの大叔母にあたるエリザベスが、エメットのお葬式で「(こんなことになって)ごめんなさいごめんなさい」と謝ってるときもメイミーはハグをして大叔母さんを責めない。でも、遺体を直視できないという大叔母に、現実を見るように厳しく諭す。

その反面、メイミーは、大叔父のモーゼには怒りを向ける。

夜中に銃を持って押し入ってきた白人たちにエメットが拉致されたとき、大叔父のモーゼが白人たちを銃で脅すか、銃を打つかしてエメットを取り返したとして、その後に待ち受ける結末はなにか?をモーゼは一瞬で計算して、結論を出し、選択しなければならなかったのだ。そして、モーゼ一家惨殺もあり得るシナリオだった。

ここで、ティルの死は誰か一人の責任ではないとメイミーは学んだと思う。

ティルの死の責任を問えないのは、人種差別を容認し、強化する仕組み(構造)があるからだ。
仕組みを変えて、人種差別や暴力行為が罰せられ、それらを許さない認識を広め、社会が変わらないとエメットは浮かばれないと知ったと思う。

ちなみに、エメット・ティルの裁判はたった2週間後に開かれ、陪審員の審議時間はたったの67分だったらしい。
たったの1時間と7分だけ。

その裁判で大叔父のモーゼは、エメットを誘拐したJ.W.マイラムとロイ・ブライアントを見たら分かるかと裁判長に聞かれ、「分かる」と答えたうえで、裁判所内のJ.W.マイラムを指さして "Thar he" (そこの彼だ)と言う。これは命がけの証言だった。

なぜならエメットが誘拐されたとき、そのJ.W.マイラム本人に「このことを人に言ったら殺す」と脅されていたし、モーゼは傍聴席の白人たちの血が沸騰するのを感じた、と後に言っている。
黒人が白人を公開裁判で断罪するのは、おそらくこれが初めてのケースで、そして断罪した後に生きていられたのも初めてのケースだと、書く記事も見つけた。
命の危険があったからこそ、裁判の後にモーゼもシカゴに移住している。

なお、評決を聞く前に、メイミーが裁判所を出たのも史実らしい。メイミーはどれだけの無力感を感じただろう。

社会を変える具体的な方法は、以下二つ。
黒人が公民権を得て、選挙で投票して、法律を変えること(立法)
裁判の陪審員になる権利を得て、裁判の結果に影響力を持つこと(司法)。ちなみに、この権利は公民権と結び付いているのだ。

白人ばかりが法律を決めて、白人ばかりが裁判で評決をとる限り、黒人を差別し続け、黒人に正義は訪れないということだ。

これ、今の日本でも同じだと思ってしまう。
組織的に6億円の裏金をつくった政治家たちは一人も逮捕されないけど、キウイをたった2個(380円分)万引きした85歳の高齢者は逮捕される国が今の日本だ。

380円は6億円のたった0.00006%よ。ほんとに些細な金額すぎる。
さらに万引きをしたのが食料品なの、切ないわ。生きるために必要なものじゃん、食料品って。

一方で政治家の裏金って、生きるために必要なお金じゃなくて、悪いことするためのお金なわけでしょ?

国会議員の年収は3000万円近くで、全世界でも上位3位だとか。先進国や中所得国と比べても、日本は物価が安いのに、国会議員の給与だけが高いの謎すぎる。

しかも、給料の他に文通費を毎月100万円もらって、新幹線も飛行機も無料で乗ってるんだよ。
合計すると毎年4000万円の所得で、長距離移動の交通費はほとんどかからない。

なのに裏金って……(白目)
絶対に生死に関わるお金の使い方じゃないよね。

そんな政治家は、公民権剥奪してほしいし、
収入不記載って悪質な脱税なので、それでもしょっぴいてほしい。

この状況、おかしくない?正義はどこにいった?と思う。

日本でも公平や公正を求める方法は同じ。

よくよく選んで(裏金に関わった人を外して、違う人に)投票すること。
最高裁の裁判官の信任/不信任を真剣に見定めること。
陪審員になったら役目を果たすことなのだ。

面倒だなって思うかもしれないけど、
エメットのようなことを未然に防いだり、メイミーのような苦労をしないためなら大したことじゃないと思える。
わたしは、日本の政治家と一般のわたしたちの間の公正がほしい。
そして改めて、社会の公正や正義って当たり前のことじゃないんだと思う。

メイミーはその後、公民権運動のアクティビストになっていく。
でも、史実ではメイミーが公民権運動に精力的に参加するまでにはだいぶ時間が経ってたらしい。だから眼鏡をかけた姿でスピーチしてたんだな、と。あれは時間の経過を表現してたんだと思う。

ちなみに、エメットの部屋でエメットとの思い出に浸って笑顔を見せる姿には共感する。エメットとの時間はすごく幸せだったということと、
メイミーはそれだけエメットの尊厳のためにアメリカ社会の差別と闘ったし、やれるだけのことをやりきったら、結果が伴わなくても受け入れやすいんだと思う。
また同じ志を持ち、行動してくれる人にも救われたと思う。

逆に自分や大切な人が傷つけられたときにそれを庇う行動をしなかったら後悔が大きいし、その後のダメージも大きい気がする。
うまく日本語で表現できないけど、stand up for oneself ということかな。

パンフレットの後ろの言葉もすごく素敵なので紹介する。

Justice needed a voice
正義には声が必要だった (意訳→正義のために声を挙げる必要があった)

亡くなったエメットは声を挙げられない、という意味も含まれている気がする。


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