【NFT】形のないものに価値はあるか?【漫画】
漫画家のかっぴーです。「左ききのエレン」など描いています。
本日、「左ききのエレン」劇中に登場するアート作品2点を、NFTオークションで販売する事を発表しました。
「左ききのエレン」こと、主人公・山岸エレンが描く絵は、原作者の私が描いたものでも、ジャンプラ版作画nifuniさんが描いたものでもありません。エレンの絵は全て、現代アーティスト曄田依子さんに書き下ろして頂きました。
曄田さんは、私が漫画家になる前から親交があり、私のイメージする「山岸エレン」の作品にピッタリだったので、原作版の連載が始まる前に制作依頼をしました。現在は曄田さんも出世してしまったので、今だったら頼む事すら出来なかったかも知れないけど、当時としても相場よりずっと安い金額で引き受けて頂きました。漫画家に挑戦する事や、何より「左ききのエレン」を応援する気持ちで協力してくれたのだと思い、今でも感謝しています。
今となっては「左ききのエレン」は集英社でリメイクされたり、ドラマ化されたり、アパレルブランド作ったり、企業とコラボしたり、大きなプロジェクトになっていますので「劇中作品を本物のアーティストに依頼するくらい平気でやるだろう」と思うかも知れませんが、当時は脱サラした直後で「左ききのエレン」が売れる保証なんてゼロだったし、連載初期の収入なんて月5万円とかでした。
「どうしたら成功できますか?」って質問がある度に、私は「運です」と答えてきましたが、もうひとつあるとしたら「成功する方に、全力で賭け続ける」という姿勢はあるかも知れません。今だったら「外注費はどんどん使おう!」とか思えるけど、月収5万円の時に「本物のアーティストに劇中絵を依頼する」って決断できた事が、今に繋がっているのかも知れません。
漫画はフィクションです。でも、アーティストが主人公の漫画を描く上で、作品だけは嘘がつけないと思いました。SF作品は「劇中でついていい嘘はひとつまで」という創作上の暗黙のルールがあるのですが、私が思う仕事漫画のルールは「劇中に必ずひとつは本当を入れるべき」だと思っています。
現在「左ききのエレン」から生まれた「本当」は幾つもあります。エレンが着ている黒いコート「AK5 新月」も実際に販売しましたし、劇中に登場するクリエイティブチーム「アントレース」なんて実際に登記しました。「本当」は幾つも生まれているけど、連載開始前から存在した「本当」は、曄田さんの絵だけです。
曄田さんの絵、山岸エレンの絵があったからこそ、現在の「左ききのエレン」の全てがあります。
その価値は、私にとっても読者にとっても、きっと変わらない不変なものです。
その上で、ずーっと悔しいと思っていた事があります。
それは「たかが漫画のキャラの絵に、価値があるわけない」という見方です。漫画そのものが評価され始めて、重箱の隅を突くような意味合いもあるのかも知れませんが「エレンが世界的に活躍するアーティストって説得力がない」みたいに言われた時に、私はこう思ったんです。
「じゃあ、値段がつけば、分かりますか?」って。
本作をリメイクした「ジャンプ+版」で、当時の悔しい気持ちから追加したシーンがありました。
このシーンを描いた頃から、私はずっと「山岸エレンというアーティストを本当にデビューさせる」という事を考えていました。デビューというのはつまり、市場に乗せるという意味です。
その挑戦の場を悩みあぐねていた際に「NFTアートをオークションに出して欲しい」と依頼が来たんです。確かに、エレンの絵は全てデジタルデータ(アナログで描いた素材をスキャンしてデジタルで完成させている)なので、展覧会をやるにしても印刷になるのがネックでした。デジタルデータそのものを出品する方法は合っている。
そして何より、NFTアート市場は「無形のモノに価値はあるのか?」という問いを投げかけ続けています。その答えは私には分かりません。でも、ひとつだけ確信を持って言える事があります。
「山岸エレンが、漫画のキャラだからって、価値が無い訳ない。」
「山岸エレンは、フィクションだけど、嘘じゃ無い。」
「漫画のキャラクター」と「NFTアート」は本質の部分で非常に似ています。形が無くても、誰かの人生に影響を与えて、多くの人に愛された事実は嘘じゃない。これ以上、相性のいい組合せは無いんじゃ無いかと思います。
そして、この作品群に値段という価値がついた時、きっと新しい何かが見えてくると信じています。
また、今回落札された方には【漫画登場権】がついてきます!!!
どういう事かというか、今回公開した漫画の後編をこれから描くのですが、そこで「落札者として、実在の人物(本名じゃなくてもOK、要相談)が登場する」という事です!そうする事で、もう何が本当で何がフィクションか、もう訳わかんなくて最高じゃ無いですか?これぞ、メタ表現。
様々な新しい挑戦を込めた本プロジェクト、どうぞ応援、よろしくお願いします。
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