ENEOS、出光、コスモの決算を比較

ENEOS、出光興産、コスモエネルギーの23年3月期は、在庫評価益の剥落や市況の悪化でいずれも増収減益でした。そこで今回は石油元売り3社の23年3月期本決算から、ファンダメンタルを比較していきます。

前期業績

ENEOS

・売上          37.5%増の15兆165億円
・営業利益        64.2%減の2812億円
  (在庫影響)        3355億円減の348億円
・在庫影響除く営業利益  1691億円減の2465億円
・経常利益        66.6%減の2574億円
・当期純利益        73.2%減の1437億円

出展:株探

セグメント別では、エネルギー事業と金属事業が減益、石油・天然ガス開発事業が増益となっています。

出典:決算説明資料

出光興産

・売上          41.4%増の9兆4562億円
・営業利益        35%減の2824億円
・営業+持分損益     1411億円減の3084億円
 (在庫影響)        1775億円減の557億円
・在庫影響除く営業+持分 364億円増の2527億円
・経常利益        30%減の3215億円
・当期純利益       9.2%減の2536億円
・在庫影響除く当期純利益 973億円増の2150億円

出典:株探

セグメント別では、石炭と基礎化学品を除いて減益となっています。

出典:決算説明資料

コスモエネルギー

・売上          14.4%増の2兆7918億円
・営業利益        30.4%減の1637億円
・経常利益        29.4%減の1645億円
 (在庫影響)        507億円減の216億円
・在庫影響除く経常利益  355億円減の1429億円
・当期純利益       51.1%減の679億円
・在庫影響除く当期純利益 355億円減の528億円

出典:株探

セグメント別は石油開発事業は増益で、他は減益となっています。

出典:決算説明資料

まとめ

3社ともにマイナスのタイムラグによる在庫評価益剥落や製油所のトラブル、石油化学市況の悪化、資源価格の下落などによって営業利益、経常利益、当期純利益ともに減益になっています。

特にENEOSの減益幅は他の2社よりも大きく、規模が大きいだけに打撃を受けた格好です。在庫影響を除いた営業利益または経常利益は出光興産のみ増益です。なお出光興産は当期純利益の減益幅が小さくなっていますが、これは特別利益として固定資産の売却益705億円を計上し、なおかつ前期に特別損失として計上した長期貸付金評価損559億円の反動によるものです。

今期の業績予想

3社とも今期の業績予想を開示しています。

ENEOS

・売上          10.8%減の13兆4000億円
・営業利益        20.9%増の3400億円
  (在庫影響)        348億円減の0億円
・在庫影響除く営業利益  935億円増の3400億円
・経常利益        20.4%増の3100億円
・当期純利益       25.2%増の1800億円

出典:株探

出光興産

・売上          12.2%減の8兆3000億円
・営業利益        50.4減の1400億円
・営業+持分損益     1534億円減の1550億円
 (在庫影響)        857億円減のマイナス300億円
・在庫影響除く営業+持分 677億円減の1850億円
・経常利益        53.3%減の1500億円
・当期純利益       60.6%減の1000億円
・在庫影響除く当期純利益 950億円増の1200億円

出典:株探

コスモエネルギー

・売上          4.4%減の2兆6700億円
・営業利益        24.6%減の1235億円
・経常利益        24%減の1250億円
 (在庫影響)        216億円減の0億円
・在庫影響除く経常利益  179億円減の1250億円
・当期純利益       19%減の550億円
・在庫影響除く当期純利益 22億円増の550億円

出典:株探

まとめ

ENEOSはエネルギー事業の良化、金属事業で前期に計上したカセロネス銅鉱山評価損失の反転などを理由に減収増益、出光興産は石炭市況高騰の反動などで減収減益、コスモエネルギーは原油価格下落などで減収減益を見込んでいます。

なお原油価格(ドバイ原油)は、ENEOSと出光興産は80ドル、コスモエネルギーのみ85ドル、為替レートは3社とも1ドル130円を前提としています。

3社を比較してENEOSのみ増益で良く見えるのは、前期の減益幅が大きかった反動です。ウクライナ侵攻やインフレの影響で原油価格が高騰する以前の21年3月期の経常利益と比較すると、ENEOSは34%増益、出光興産は38%増益、コスモエネルギーは28%増益となります。

配当金

石油元売り3社は高配当株として有名です。配当金の推移を比較します。

ENEOS

前期年間配当22円、今期も22円で据え置いています。
これまでの配当推移は以下の通りで、13期連続で非減配ですが、ここ数年は22円で据え置かれ、増配していないことが分かります。

出典:IRBANK

出光興産

前期年間配当120円、今期も120円で据え置いています。
これまでの配当推移は以下の通りで、3社で唯一、過去に減配をしています。なお22年3月期は創業110周年記念配当50円が含まれています。

出典:IRBANK

コスモエネルギー

前期年間配当150円、今期は50円増配して200円を予定しています。
これまでの配当推移(前身のコスモ石油時代は含まず)は以下の通りで、一度も減配していないばかりか今期を含めて3期連続で増配しています。

出典:IRBANK

収益性

次は稼ぐ力である収益性を比較します。

営業利益率

     23年3月期 22年3月期 21年3月期 20年3月期 19年3月期
ENEOS  1.87%   7.20%   3.32%   -1.13%    4.83%  
出光興産 2.99%   6.50%   3.07%   -0.06%    4.05%
コスモ  5.87%   9.64%   4.54%    0.51%     3.42%

この4年間で見るとコスモエネルギーの営業利益率が高く、コロナで原油先物価格が急落した20年3月期は3社で唯一プラスで踏ん張ったことが分かります。これは他の2社に比べて利益率の高い石油資源開発の寄与度が高いためでしょう。

ROE(自己資本利益率)

     23年3月期 22年3月期 21年3月期 20年3月期 19年3月期
ENEOS  5.03%   18.78%    4.9%    -7.47%    12.26%  
出光興産 16.76%    21.81%   3.04%   -2.30%    9.52%
コスモ  13.81%    35.56%   30.42%    -10.81%  20.45%

ROEは自分のお金でどれだけの利益を出せたかを示す指標で、経営の上手さを表しています。日本企業の平均は9%なので、10%以上なら優良企業です。

3社を比較すると出光興産とコスモが高くENEOSが低いことが分かります。特にコスモは、直近5年では最終赤字に転落した20年3月期を除きROE二桁を維持しています。出光興産も直近2年は高めで、石炭市況高騰が後押しした形です。

ROA(総資本利益率)

     23年3月期 22年3月期 21年3月期 20年3月期 19年3月期
ENEOS  1.44%   5.57%     1.41%    -2.35%   3.80%  
出光興産 5.21%      6.07%     0.88%    -0.59%   2.82%
コスモ  3.20%      7.17%     5.03%       -1.72%   3.12%

ROAは他人資本を含めた資本全体でどれだけの利益を出せたかを示す指標です。日本企業の平均は4%なので5%以上なら優良企業です。

こちらはROEほど差がありませんが、ENEOSの低さが気になります。

財務体質

次に企業の安全性を示す財務体質を比較します。

自己資本比率

ENEOS    28.7%
出光興産 33.2%
コスモ  24.9%

一般的に40%あれば潰れにくいとされていますが、石油企業はレバレッジをかけた経営をしているため他の業種よりも低い傾向があります。低く感じますが3社とも社債を発行して資金調達しているので、20%あれば大丈夫です。出光とコスモは1年前よりも自己資本比率が上がっていますが、ENEOSのみ29.7%→28.7%に下がっています。

利益剰余金

ENEOS  1兆6355億円
出光興産 8489億円
コスモ  3963億円

これまでの利益の蓄積いわゆる内部留保です。前期は大幅な減益決算になりましたが、3社とも利益剰余金は増えています。

DEレシオ

ENEOS  1.25倍
出光興産 0.90倍
コスモ  1.30倍

自己資本に対して有利子負債がどれくらいあるかを示す指標です。低いにこしたことはありませんが、最も高いコスモでも1.3倍=自己資本の1.3倍の有利子負債に留まっていて、問題がない範囲です。

ネットDEレシオ

ENEOS  0.76倍    
出光興産    0.87倍
コスモ     1.10倍

(有利子負債-現金同等物)÷自己資本×100で計算します。石油元売りや商社のように手元に多くのキャッシュを置く企業は、キャッシュを控除したこちらのほうが財務体質を図るうえで重要です。

一番高いコスモでも1.1倍=有利子負債からキャッシュを引いた純有利子負債は自己資本の1.1倍に留まっていて、問題がない範囲です。ENEOSは一番低くて元売り3社の中で最も財務体質が良いことが分かります。

流動比率

ENEOS  141%
出光興産 126%
コスモ  102%

流動負債に対して流動資産がどのぐらいあるのかを示す数値です。1倍を超えていれば問題ありません。3社ともに100%を超えているので大丈夫そうです。

株主還元方針

最後に3社の株主還元方針を確認します。ENEOSとコスモエネルギーは中期経営期間中の配当下限を設けています。

ENEOS

・2023-2025年度の3か年平均で、在庫影響除き当期利益の50%以上
・「配当または自社株買い」で還元
・安定的な配当継続に配慮し、22 円/株の配当を下限とする

出光興産

・2023-2025年度の3か年累計の在庫影響除き当期純利益に対し、
 総還元性向50%以上

コスモエネルギー

・2023-2025年度の3ヵ年累計総還元性向60%以上
・財務健全目標※達成時には追加還元を実施
※ネットDEレシオ1倍と自己資本6000億円以上
200円/株以上






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