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丸紅の23年3月期本決算を分析

大手総合商社の丸紅は5月8日、23年3月期の本決算を発表しました。どんな業績だったのか、今後の見通しも含めて分析していきます。

今期最終は23%減益へ

前期実績

会社計画を少しだけ上振れして着地しました。売上は+8%の9兆1904億円、最終利益は28%増の5430億円。一過性の損益を除いた実態純利益は5260億円でいずれも過去最高でした。Gavilon穀物事業の売却益539億円を計上しています。

出典:株探

今期計画

同時に今期の業績予想を開示しています。最終利益は22.7%減益の4200億円で、なお不測の損失に備えたバッファを200億程度含み、実態純利益は4400億円を見込んでいます。

年間配当は78円で据え置きですが、今期から現在の配当金を維持して増配を目指す累進配当を導入しています。

出典:株探

非資源で手堅く稼ぐ、今期予想は保守的

純利益の2/3近くを非資源で稼ぐ

1年前の期初予想では減益を見込んでいた丸紅が、一転して2期連続最高益更新、純利益5000億円超えを達成しました。

商社と言えば金属やエネルギーなどの資源で稼いでいるイメージがありますが、丸紅の場合は資源の純利益は前年比で横ばいで、増益分はほとんどが非資源であり、約2/3を非資源で稼ぎ出していることが分かります。

出典:決算説明資料

金属、電力、金融・リース・不動産が増益、アグリ減益

セクター別で見ると、最も目立つのは他の商社と同じく金属で、全体の2/5に当たる純利益1994億を稼ぎ出しています。豪州原料炭事業と豪州鉄鋼製品事業が価格上昇で増益だった一方で、チリ銅事業と豪州鉄鉱石事業は価格下落で減益となり、増益幅は87億円に留まっています。

ほかには海外の電力卸売小売事業の増益が寄与した電力の680億円増益、米国の中古車自動車金融の増益が寄与した金融・リース・不動産の368億円増益、食料第二はGavilon穀物事業の売却益を計上した関係で305億円増益(実態純利益は220億円減益)、航空・船舶と建機・産機・モビリティは増益幅こそ小さいものの、それぞれ200億を超える純利益を叩き出しています。

逆に減益だったセクターとしては、後述するアグリとベトナム段ボール原紙製造・販売事業で固定資産の減損損失を計上したフォレストプロダクツが目立ちます。食料第一の減益は前期に北米鮭鱒事業の売却益を計上した反動で、実態純利益は横ばいです。

出典:決算説明資料

アグリの減益は、成長著しいHelena社は前期に続き増益も、MacroSource社の業績悪化が足を引っ張った形です。なおHelena社は金属以外の子会社で最も多くの利益を叩き出しています。

出典:決算補足資料

今期は資源価格下落と景気減速を見込む

より重要なのが今期の見通しです。23%減益予想は、先に決算を発表した三井物産と双日よりも減益幅が大きく、少し残念な印象です。とはいえ丸紅は1年前も6%減益予想を出しながら、2回上方修正を行って一転28%増益に大きく上振れしています。弱気とも言える保守的な予想は想定内です。

決算短信によるとインフレと金融引き締めにより経済活動が抑制され、景気のさらなる減速を見込み、需要後退でエネルギーなど商品価格にも下落圧力がかかるとのこと。石炭も石油もガスも価格が下落し、景気減速で非資源も影響を受けるという、丸紅らしいと言えばらしいですが、かなり弱気な見通しです。

出典:決算説明資料

セグメント別では増益を見込むのはアグリと前期に一過性の損失を計上したフォレストプロダクツ、ライフスタイルくらいで、大半が減益の見通しです。足元で石炭価格が下がっている金属、原油価格が軟調なエネルギーはともかく、金融・リース・不動産や航空・船舶など「なぜこうなるのか?」聞かないと分からないセクターもあります。

出典:決算短信

今期は新規投資に2500億円

次は投資と回収を見ていきます。総合商社は事業に投資して利益を出すビジネスであり、将来の利益を期待して投資を行い、そのお金を回収することで利益を確定します。

2022年度は2477億円の投資を行い、4045億円を回収しました。回収が大幅に超過しているのはGavilon穀物事業の売却益約3300億円を含むためで、投資CFは1568億円のプラスでした。新規投資した事業としては、丸紅が得意とするアグリや食料関係が大半を占めています。

2023年度は新規投資2500億円を含む合計4000億円の投資、500億円の回収を見込むとしています。

出典:決算説明資料

稼ぐ力は確実に上がっている

基礎営業CF(営業CFから運転資金を控除したもの)を見ると、丸紅の収益力が2~3年前より数段上がっていることが分かります。

19~20年度に3600億円ほどだった基礎営業CFは21年に5000億を超え、今期も5100億。基礎営業CFが5000億ステージに乗ったことでフリーCFも増加し、2021年度まで見送っていた自社株買いを行えるようになりました。

出典:決算説明資料

さらに今期からは総還元性向30〜35%(前期までは連結配当性向25%以上)に引き上げたうえで、減配しない累進配当の導入に至りました。

出典:決算説明資料

また経営の上手さを示すROEは22%、2年続けて20%を超え、今期も15%を見込んでいます。

ネットDEレシオ0.83倍→0.52倍

丸紅の決算では財務基盤の改善も注目ポイントです。

有利子負債は3769億円減少
ネットDEレシオは0.31ポイント改善の0.52倍

有利子負債の減少は、Gavilon穀物事業売却による回収資金3300億円を債務返済に充てたことによるもの。

3年前まで1倍を越えていたネットDEレシオが0.52倍まで改善したことは好印象です。有利負債からキャッシュを引いた純有利子負債が自己資本の半分程度に抑えられているということであり、丸紅の財務体質の強さを示しています。

出典:決算説明資料

ちなみに他の商社はというと、

伊藤忠  0.50倍
三井物産 0.50倍
三菱商事 0.43倍
住友商事 0.65倍

丸紅のネットDEレシオは伊藤忠や三井物産と遜色ありません。

今期見通しは弱気も稼ぐ力は上がっている

丸紅の決算は2期連続で最高益を更新しながら、今期予想は景気減速を織り込んで弱気と良くも悪くも予想通りでした。それでも営業CFは大きく上振れ、ROEも2年連続で20%超えと、丸紅の稼ぐ力は確実に上がっています。総還元性向30~35%に引き上げたうえで、累進配当が導入されたことも好印象です。

決算説明資料によると純利益の実力値は4000~4500億円で、中期経営計画GC2024の戦略実践により、収益基盤の強化を継続していくとしています。急激な資源価格の下落や円高が起こらない限り、業績の上振れも期待できそうです。

出典:決算説明資料


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